32. 精霊魔法の性差
お昼にパスタ屋で食べためんたいパスタが妙に生臭く、食べた1時間後ぐらいから未だにずっと気持ち悪いので、今日はちょっと短めです。ゆるして。
なろうの報告機能で誤字修正を送って下さる方、いつもありがとうございます。
(今日はたぶん誤字修正送っていただいても明日まで修正されません)
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ロズティアの都市を出た後は、すぐに街道を逸れて草原を西南西の方角へ歩き、最短距離で『竜の揺籃地』を目指す。
天気は良好で、見える範囲には雲一つ無い。ある程度ロズティアから離れたら、来た時と同じようにレビンに乗せて貰って移動する予定なので、移動にはそれほど時間は掛からない。いま雨雲が見えなければ、まず降られることも無いだろう。
「結局、一日しか滞在しませんでしたね」
「そうですね……」
レビンの言葉に、ナギとしても苦笑するしかない。
ロズティアへ来た時には、もっと長く滞在しているつもりだったのだけれど。気付けばこうして、森へとんぼ返りしている自分たちがいる。
主神アルティオから使命を受けた以上、仕方ないことだと判ってはいるけれど。できれば今度ロズティアを訪ねたときは、もう少しのんびりしたいところだ。
「では、私達がお酒を買ったときのあの店員が、ギルドマスターだったのですか」
「そうみたい。僕もびっくりでした」
レビンと二人並んで歩く傍らに商談の時のことを話すと。レビンは興味深そうに頷いてみせた。
「錬金術師ギルドの長と言えば、ロズティアでも有数の名射手『ジゼル』ですね。ギルドマスターの本業があるので掃討者としての活動は多くないそうですが、なかなかレベルも高く『Bランク』の掃討者に認定されているとか」
「あ、レビンは知っていたんですね」
「噂話に聞いたことを、多少覚えているという程度ですけれど。……何だかんだでディノークには色々と世話になっていますから、その家族の話ぐらいは抑えておこうかと思いまして」
「なるほど。ジゼルさんはディノークさんの妹なのでしたっけ?」
「……妹? お姉さま、それは違います。ジゼルさんはディノークの『母』です」
「え。そ、そうなの……?」
「はい。ディノーク本人から聞いたこともありますので、間違い無いかと」
ジゼルとディノークの髪は、色味まで完全に一致した金の髪。
だから、明らかに『遺伝』によって引き継がれた髪色だとは思っていたけれど。まさか兄弟姉妹ではなく、母子関係にあるだなんてことは、考えもしなかった。
「……エルフの人は、見た目で年齢が判らないから、怖いね」
衝撃の事実のあまりに、ナギは疲労感を感じると共に嘆息を漏らした。
ナギが勝手にそう思い込んでいただけとはいえ、そうならそうとジゼルも教えてくれればいいのに。
「ふふ……お姉さま。それはお姉さまが言ってはいけないセリフですわ」
「う。それは、そうかもしれないけれど……」
ナギの身体の年齢は『1662歳』。
外見と実年齢の不釣り合いさで言えば、ナギのほうがよっぽど酷い話ではある。
「それにしても。そのジゼルさんは『錬金術師ギルド』の主ですから、やはりロズティアの都市内に住んでいらっしゃるのですよね? 女性のエルフが都市暮らしをしているというのは、なかなか珍しいように思いますが」
「そうなの?」
「ええ、私も詳しくは存じませんが……。エルフの男性は都市暮らしもしますが、女性は森の中で一生を終えることが多いと聞きます」
以前エコーに聞いたことだが、この世界では女性の割合のほうが高いらしい。
その比率は大体『女性2』に対して『男性1』ぐらいなのだそうだ。だからロズティアの都市内を歩いていると、男性よりも女性と遭遇する頻度の方が高いことを実感する機会も多かったりする。
けれども一方で、確かに『ロズティアの都市内で遭遇するエルフ』に限定するならば―――これは男性を見かける機会のほうが圧倒的に多いようにも思う。
というか、多分『錬金術師ギルド』で店員をしていたエルフの人しか。つまり、ジゼルだけしかロズティアの都市内で女性のエルフを見かけていない気がする。
《一部を除き、精霊の大半は自然が多い環境下で生きることを好みます。そのため精霊を友とするエルフの女性は、あまり森から出ようとしないのです》
エコーが思念による会話で、そのように補足説明してくれるが。
けれども残念ながら、その説明だけではよく意味が判らなかった。
「……それは、どういう意味なのでしょう?」
レビンも意味が理解できなかったらしく、首を傾げているようなので。エコーにお願いして、ナギ達にも判るよう易しく説明し直して貰う。
エコーは|《少し長くなりますが》と前置きした上で、語り始めてくれた。
《エルフは『精霊魔法の使い手』の種族として世間では知られていますが。これは彼らが種族特徴として『精霊語』という、精霊に語りかけるための言葉を会得しているからです。この時点では男女とも同じであり、性差もありません。
但しこの『精霊語』は、あくまで『精霊に語りかけるための言葉』であり『精霊が話す言葉』では無いのです。ゆえにエルフは、精霊に向けて話しかけることはできても、精霊が話す言葉を聞くことはできません。会話は成り立たないのです》
「ふむふむ……」
《但し、ここから性差が出てくるのですが。エルフの『男性』は、自身が口にする精霊語に自分の『感情』を乗せることができます。精霊は本質的に『感情』に揺さぶられやすい存在であるため、特に下級の精霊は『感情』が乗せられた言葉に全く抗うことができません。
精霊自身は自然が多い環境下で生きることを好みますが、それでもエルフの男性から『着いて来い』と命令されれば、下級精霊はそれを拒否できません。ですからエルフの男性は実質的に精霊を『支配』する形で、都市部のような自然が少ない土地にも精霊を連れ歩くことができます。エルフの男性にとって『精霊魔法』とは、自分が支配する精霊に『命令』して精霊に力を振るわせることを意味します》
「『支配』や『命令』だなんて、穏やかじゃないですね」
「あら。わたくしはお姉さまになら『支配』も『命令』もされてみたいですが」
ナギのつぶやきに応えるように、レビンがそう告げてくすくすと笑った。
レビンのような稚くて可愛らしい少女に『命令』するなんてことは、正直言ってナギとしては抵抗感しか覚えないが。
《他方、エルフの『女性』は精霊の『感情』を聞くことが可能です。エルフの女性は精霊語で意志を伝え、精霊がそれに『感情』で応える。―――つまり、エルフの女性だけに限れば、実質的に精霊との『会話が可能』とも言うことができます。
このため、エルフの男性が精霊を『支配』するのとは対照的に、エルフの女性は会話により精霊と『友好』を結びます。エルフの女性にとって『精霊魔法』とは、自分が友好を結んでいる精霊に『お願い』して、精霊に力を振るって貰うことを意味します》
「なるほど……。一口に『精霊魔法』といっても、男女で違いがあるのですね」
「そういえば、エルフが行使する『精霊魔法』は男性よりも女性のほうが強力だと聞いたことがありますね。それは事実なのでしょうか?」
《エルフの男性は『下級』の精霊しか支配できませんが、エルフの女性は『中級』もしくはそれ以上の格を持つ精霊にも『お願い』して力を振るって貰うことが可能です。そういう意味では女性のほうがより強力な『精霊魔法』を行使できます》
「そういう意味だったのですね……。ありがとうございます、エコーさん。わたくしにも大変よく理解できましたわ」
《お役に立てましたなら、何よりです》
レビンの感謝に応えて、エコーがそう言葉を告げる。
その声は何だか、少し嬉しそうであるようにも聞こえた。
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お読み下さりありがとうございました。
[memo]------------------------------------------------------
ナギ - Lv.4 /掃討者[F]
〈採取生活〉2、〈素材感知/植物〉2、〈収納ボックス〉3
〈鑑定〉1、〈非戦〉2、〈繁茂〉1
【浄化】1、【伐採】1
〈植物採取〉3、〈健脚〉1、〈気配察知〉2、〈錬金術〉1
5,113,312 gita
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