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底辺採取家の異世界暮らし  作者: 旅籠文楽


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19/78

19. 要衝都市ロズティア - 3

 


     [3]



 『掃討者ギルド』の建物は、都市の中心に近い場所にある。

 ロズティアは全体が綺麗な円形状をしているので、東西南北の四方の門から都市の中へ入った後は、そのまま大通りを真っ直ぐ進むだけで自然と街の中心部へ辿り着くことができるのだと。ナギに腕を絡ませて歩きながら、嬉しそうな笑顔でレビンがそう教えてくれた。


「都市の主だった施設や大型商店は、その殆どが都市の中心部にあります。ロズティアで暫く生活するのでしたら、中心から近い宿を確保しておくほうが、何かと快適に過ごせると思いますわ」

「ふむふむ……。ですが立地が良い宿は、やはりそれだけ値段も高いですよね?」

「多少はその傾向がありますね。中心部近くで宿を取れば、個室でしたら大体朝食付きでの1泊あたり2,200gitaぐらいはするでしょうか。

 ですが、お姉さまと一緒にわたくしも泊まらせて頂くつもりですから、二人部屋ならもう少し安くなると思いますわ?」

「一緒に……ですか? レビンは森へ戻らなくて良いのですか?」

「はい。別にあの森で、何かすべきことがあるわけではありませんから」


 さも当然のように、レビンは笑顔でそう告げる。

 都市に不慣れなのは事実なので、レビンが一緒に居てくれるならナギにとって有難いことではあった。

 女の子と同室に泊まるというのはちょっと問題があるような気もするけれど……昨晩レビンの家に泊まり、ひとつのベッドで一緒に眠ったことを思えば、部屋が同じぐらいであれば些細だとも思えなくはない。


「中心部にある宿はどこも日が暮れる前に埋まってしまいますから、部屋は早めに確保しておくほうが賢明でしょう。

 お姉さまは今回、掃討者ギルドへ初めて登録されるのですよね? ギルドの登録手続には少し時間が掛かると思いますから、お姉さまがそちらを済ませる間にでも、わたくしが適当な宿に部屋を確保しておきますわ」

「それは助かります」


 宿が埋まり始めてから、慌てて空き部屋を探すことになっては大変だろう。

 有難いレビンの申し出に、ナギは率直に感謝を伝える。


 街路をまっすぐに進んで都市の中心部へ辿り着くと。そこにはかなりの面積を誇る、広大な広場が設けられていた。

 広場の中心には、勢いよく水を噴き上げ続けている大きな噴水も置かれていて。そこから連なる水路に設けられた流水階段(カスケード)が奏でる、せせらぎの音色が何とも耳に心地良い。


(ロズティアは水資源が豊かな都市なのかな)


 噴水を眺めながら、最初にナギはそんな感想を抱く。

 続けてナギが(噴水があるならこの世界にはもう『ポンプ』がありそうかな)とまで考えたところで、ナギは隣に居るレビンからくいっと腕を引っぱられた。


「掃討者ギルドの建物はこの広場の脇にありますわ。お姉さま、参りましょう?」

「あ、うん。そうですね」


 レビンにぐいぐい腕を引かれて歩きながら、ナギは再び広場へ視線を送る。

 広場には沢山のベンチが置かれており、多くの都市住民がくつろぎの場として利用している様子が窺えた。


 ナギは日本に居た頃からインドア主体の生活ばかりを過ごしていたけれど、こういった公園のような憩いの場だけは好きで、日頃からよく利用していた。

 中心部に近い宿を取れば、この広場も気軽に利用できそうだ。

 色々な面倒事が片付いたなら、一度ゆっくりと時間を過ごしに来たい。


「お姉さまは広場に興味があるのですね」


 ナギの心を察したかのように、レビンがそう声を掛けてくる。

 正直そろそろ、ナギはレビンから『お姉さま』と呼ばれることに、あまり違和感を覚えなくなりつつあった。


「ロズティアの広場では週に二度『露店市』といって、沢山の露店が立ち並ぶ催しが開かれています。ですから都市の中央付近に宿を取っておきますと、露店市での買い物もしやすくなって便利なんですのよ」

「露店市……ですか。それは面白そうですね」

「うふふ。次の露店市では是非一緒に歩いてデートしましょうね、お姉さま」


 ぎゅっとナギの腕に強くしがみつきながら、そう提案するレビン。

 嬉しそうに相好を崩しながらそう望まれれば、もちろんナギも吝かではない。


 ちなみに以前エコーから聞いたのだけれど、この世界では『一週間』が『8日』あるらしい。なので週に二度というのは、つまり4日に一度のペースで露店市が催されている計算になる。

 この都市(ロズティア)の住民でも、あるいは旅で立ち寄っているだけ人でも、露店市の開催日であればこの広場内に自由に露店を設置し、思い思いの商品を販売できるそうだ。

 一種の蚤の市(フリーマーケット)のようなものなのだな、とナギは理解する。


 今は〈収納ボックス〉の中身が高価な薬草ばかりなので難しいかもしれないが、次回森に行ったときには安価な野菜や果物を中心に採取して、露店市で販売してみるというのも面白いかもしれない。

 ランデンの村へ持ち込んだトモロベリーが、宿の女将さんやロウネに喜んで貰えたことは記憶に新しい。新鮮で質の良い食材を安価で販売すれば、ロズティアでもおそらく喜んでくれる人は多いだろう。


 レビンに引っ張られながら広場外周沿いの道を数分ほど歩いていると、やがて目的地である『掃討者ギルド』の建物が見えてきた。

 飾り気が全く無い大きな施設で、おそらくは四階建てだろうか。外観を窺うだけでも建物全体がとても頑丈かつ堅牢に造られていることが良く判った。

 重厚な門を押し開いてギルドの建物内へ入ると。まるで吹き抜けのように天井が高い広間(ホール)がナギ達を出迎えてくれた。

 ホール内には大勢の人達がいてとても賑わっている。金属製の鎧を着た人も居れば、いかにも魔法使いを思わせる長い杖を手に持った人もいて、ファンタジーの世界ならではの『冒険者』という単語を彷彿とさせる光景だった。


「お姉さま、まず受付へと参りましょう? 登録手続きを済ませてギルドカードを発行して貰っておけば、何かと便利に使えますから」


 レビンの言葉に従い、ギルドを利用する人達の間を擦り抜けて、ナギ達は受付のある方向を目指して歩く。

 すると、ホール内に(たむろ)している人達が奏でる思い思いの喧騒が少しずつ鳴りを潜めていき、やがてホールの中は水を打ったように静まり返った。


嵐氷(らんひょう)の乙女じゃないか……。ロズティアに戻ってきていたのか」


 静寂が支配するホールの中で、誰かが小さくそうつぶやいた。

 『嵐氷(らんひょう)の乙女』というのは、ロズティアの都市内へ入る際に、門を護る衛士の人からも聞いた言葉だ。おそらくレビンのことを指したものだろう。

 僅かに青みがかった綺麗な銀髪をしているレビンの風貌は、とてもよく目立つ。

 レビンは『Aランク』の掃討者なので、彼女のことを知っている人がこの場に居てもおかしくは無いだろう。


嵐氷(らんひょう)の乙女? あのAランク掃討者のか? ……どう見ても場違いなガキにしか見えないんだが、あれが本当にAランクだと?」

「ああ、本当だよ。……命が惜しいなら、本人に聞こえる所でそういうことを口にするなよ? 嵐氷(らんひょう)の乙女は馴れ合いを嫌う。同業者に対しても愛想笑いひとつせず、冷血で容赦がない。下手に怒りを買えば一瞬で氷漬け(・・・)にされるぞ?」

「氷漬け? 杖を持っていないようだが、氷術師なのか?」

「そこまでは俺も知らないな。剣も相当に使うと聞いたことはあるが……」


 ホールの中にざわついた喧騒が少しずつ戻ってくる。

 どうやら今のナギの身体は随分と聴覚に優れているらしい。少し耳を澄ますだけで、ホールにいる人達の誰も彼もがレビンのことを好き勝手に噂している内容が、手に取るように聞こえてきた。


(レビンが冷血、ねえ……)


 最初に逢った瞬間から、いつだってレビンはナギに対して親切に、とても気安く接してくれているだけに。誰かがつぶやいた『冷血』という言葉が、ナギには全く理解できない。


「ギルドマスターはいるかしら?」


 ギルドの受付に立っていた少女に、レビンが自分のギルドカードを示しながらそう訊ねる。

 受付の少女は一瞬、レビンのことを怪訝そうな視線で見つめたものの。提示されているカードが金で縁取りされた―――Aランクのものだと理解して即座に対応する。


「ギルドマスターは二階奥の部屋で執務をしておられます」

「居るなら都合がいいわ、だったら直接話したほうが早いわね。

 ―――お姉さま、二階へ向かうとしましょう?」

「えっ? 受付(ここ)で登録手続きをするんじゃないの?」

「普通に登録手続きをしたのでは、最も低い『Fランク』からのスタートになってしまいますから。一時的にでも、お姉さまがそのような最底辺のランクで扱われるなど、到底許されることではありません。

 ギルドマスターに直談判して、お姉さまのランクは最低でも『Bランク』から。できればわたくしと同じ『Aランク』からのスタートにして貰いましょう?」


 それはまた―――随分と無茶なことを言っているように思えるが。

 けれどもレビンは、ぐいぐいと腕を引っ張って、ホールの脇にある二階へ昇る階段のほうへとナギを連れて行ってしまう。

 レベルが二度上がったことで、相応に[筋力]は成長しているつもりだったが。勢いよく引っ張ってくるレビンの腕力に、ナギは全く抵抗もできなかった。


「あの嵐氷(らんひょう)の乙女が、他の誰かと仲良くしている!?」

「隣の可憐な黒髪少女は一体何物だ? この辺りでは見ない顔だが……」

「判らない……が、嵐氷(らんひょう)の乙女寄り添うほどの人物だ。おそらく普段は他の都市で活動しているAランクの掃討者じゃないか?」


 ナギとレビンの二人の姿を目の当たりにした群衆が、こちらにはっきり聞こえているとも知らず、好き勝手にそんな噂話を垂れ流す。

 ギルドにまだ登録してもいない内から寄せられる過分な評価に、当の本人であるナギとしては、内心でただ困惑するばかりだった。





 

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お読み下さりありがとうございました。


[memo]------------------------------------------------------

 ナギ - Lv.3


  〈採取生活〉2、〈素材感知/植物〉2、〈収納ボックス〉2、

  〈鑑定〉1、〈非戦〉2、〈繁茂〉1

  【浄化】1


  〈植物採取〉3、〈健脚〉1


  91,690 gita

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