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底辺採取家の異世界暮らし  作者: 旅籠文楽


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11. 対話と取引 - 5

 


     [4]



 森の深い場所へ踏み入るに従って〈素材感知/植物〉スキルに引っかかる素材が増えていることは判っていたが。それと同じぐらい、オークと遭遇する機会もまた増えてきたように思う。

 10分も歩けば、5体前後のオークの小集団と2度は遭遇するだろうか。

 結構な遭遇(エンカウント)率のように思えるけれど。一体この森の全域に、総量で何体のオークが棲んでいるのだろう……。かなり膨大な個体数でもおかしくない気がする。

 古代竜エンシェント・ドラゴンの子供が棲んでいるという話さえ無ければ、間違いなくこの森は『竜の揺籃地』ではなく、『オークの森』と名付けられていたに違いない。


「サケ、楽シミニシテイルゾ」


 森の中で出逢うオークは大抵、ナギにそう一言だけ伝えると、軽く手を振って離れていく。酒好きにも程があるだろう、と内心でちょっと思わなくもない。

 エコーの話によれば、殆どの魔物は人間を見れば即座に襲い掛かってくる、凶暴な存在であるらしいが。戦わずに済むなら、意外にオークは気さくな人柄の持ち主なのかもしれない。


 魔物は確かに人間を襲うのかもしれないが、人間だって『掃討者』の職に就いている人達は、金を得るためにオークを狩ったりするだろう。

 人間を襲うからといって、一概に『オーク=悪』という単純な話でも無いのだ。

 少なくとも―――オークから襲われないナギにとっては。オークを恐れる必要が無いのと同じぐらい、彼らを嫌いになる理由もまた存在しない。


《もしかすると魔物は、全体で共通の意識を……。もしくは、固有の伝達手段などを持っているのかもしれません》


 考え事に耽っていたナギを、エコーの言葉が引き戻す。

 どうやらエコーはエコーで魔物について何か思案する所があったらしい。


「それは、どういうことですか?」


《先程から遭遇するオークの殆どが『酒』の件について言及している様子ですが……。ナギ様の口から『数日中に酒を供与する』という話を聞いているのは、オグルスなる個体に率いられていたオーク8体の小集団だけの筈ですよね?

 にしては―――オーク全体に『酒』の話が広まりすぎてはいるような》


「ああ。言われてみれば確かに……」


 オグルスに率いられた8体のオークが、仲間に話を言い触らしていたのだろうと。ナギはそう、漠然とだけ考えていたが。

 ナギが遭遇するオーク達の殆どが、必ずと言って良いほど『酒』について一言触れているというのは……。確かにエコーの言う通り、オーク全体に情報が拡散しすぎているようにも思えた。


 しかもオーク達は、明らかにナギという『個人』を識別している。

 ナギが『数日中に酒を届けてくれるらしい人間』という情報自体は、仲間に拡散するのも別に難しくはないだろうが。とはいえナギという個人を識別可能なレベルで、容姿に関する情報を共有するというのは―――他人に会話で伝えようと思っても、なかなか難しいことではないだろうか。


《もしかするとオークは、個々の人格や意識、記憶とは別に……何か『オーク』という種族全体で情報を共有可能な、何かを持っているのかもしれません》


「その、何か(・・)というのは一体……?」


《申し訳ありません。漠然とした憶測に過ぎませんので、これについてはただ『何か』であるとしか申し上げようがありません。

 どのように説明申し上げるのが適切か、判断が難しいですが……オークに属する者であれば、誰でも自由に閲覧(アクセス)可能な記憶領域とでも申しますか。一種の『クラウドストレージ』のように『個体(ローカル)が記憶した情報を全体で共有する機構(システム)』を有しているのかもしれませんね》


「く、クラウドストレージ、ですか?」


 エコーの口から出た単語に、思わずナギは驚かされる。

 まさかゴブリンやオークが実際に存在する、ファンタジー色の強い異世界まで来て、そんな現代的な通信用語を聞くことになるとは思わなかった。


《あくまで憶測を元に立てただけの、根拠に乏しい仮説に過ぎませんが》


 エコーはそう謙遜するが。

 けれど―――なるほど、考えさせられる視点であるともナギには思えた。


「いえ……なかなかユニークで、面白い仮説だと思います。つまり、容姿に関するものを含めた『僕』という個人についての情報が、オグルスさんからクラウドストレージ上に上流転送(アップロード)された結果、オーク全体に共有(シェア)されたということですか」


《はい。もちろんオークがインターネットに接続されているというわけでは無いでしょうから、あくまでもそれに近い形で、何らかの『記憶共有システム』が存在しているのではないかという推測に過ぎませんが》


 オグルスと名乗ったオークは、ナギが後日酒を運んできた時には『適当なオークに渡してくれればいい』と言っていた。

 それはつまり、ナギが酒を持って来るという情報を、オグルスが種族全体に効率良く拡散できる手段を有しているからこそ、彼は同族の誰に渡してくれても構わないと告げたのではないだろうか。


「オグルスさんから頼まれたのは『酒を1樽』だけですが……。買える範囲でなるべく多めに酒を購入した方が良さそうですね。遭遇頻度から考えて、この森にはかなり沢山のオークが棲んでいるのでしょうし、1樽だけ持ち込んでもほんの一部のオークにしか行き渡らないでしょうから」


《それは、そうかもしれませんね……》


 情報が全体に拡散され、オークの人達の誰も彼もから酒を期待されてしまっている以上、少しでも多数に行き渡るように努力した方が良いだろう。

 どうせ〈収納ボックス〉に入れて移動するだけなのだから。運搬労力的には酒を1樽だけ運ぶのも、10樽以上運ぶのも、全く同じことだ。

 変わるのは購入数に応じて商人に支払う額が増えるということだけでしかない。


「ちょうどいいですから、情報が本当にオーク間で共有(シェア)されているのか、少し試してみましょうか」


《……えっ?》


「すみませーん、ちょっといいですか?」


 都合良くオーク4体の集団が視界に入ってきたので。ナギのほうから駆け寄り、彼らに積極的に話しかけてみる。


「ム……ドウシタ? マダ酒ヲ持ッテキタワケジャナイダロウ?」


 武器を持っていないことでスキルが発動しているからなのか、話しかけられたオークは特に警戒することもなくナギに応対してみせた。

 やはりと言うべきか、このオークもナギのことを既に把握しているようだ。


「そのお酒の件ですが、もしよろしければ頂いたお金で買える量よりも多めに調達して来ようかと思っています。その場合、追加でお金を頂くことが可能かどうか、オグルスさんに確認(・・・・・・・・・)してみて頂けませんか?」

「多クナル分ニハ問題無イト思ウガ……。

 ウム、オグルスガ言ウニハ『酒が増エルノハ幾ラデモ歓迎スル』トノコトダ」


 殆ど間を置かず、オークはそう即答した。

 この場に存在しない相手の回答を、一瞬で確認できる。

 これはつまりオークが―――いわゆる『思念通話』かそれに近い形で、同族の他者に対して遠距離交信を行える手段を有しているということだ。


「では運べる範囲で多めに持ってきますね。

 そうだ、オグルスさんから名前を教えて頂いたのに、うっかり僕のほうからは名前を伝え忘れていました。僕はナギと言います。オグルスさんによろしくお伝え下さい」

「ナギダナ、判ッタ。俺ノ名ハ『ガウム』ダ。マタアオウ、ナギ」


 ガウムと名乗ってくれたオークに、手を振って別れる。

 生憎とナギにはオークの見た目の違いがよく判らないので、名前を教えて貰ったところで相手を識別するのは難しそうだが。それでも、せめて名前だけはしっかり覚えておこうと思った。


《オークはそれぞれが『個』としての名前を持ち、一方では『全体』で共有できる情報記憶も持っている……?》


 何か思案しているエコーのつぶやきが、ナギの頭の中に漏れ聞こえてくる。

 どうやらエコーは深く考え込むと、口に出てしまう癖があるらしい。


 エコーの思考を妨害しても悪いので、ナギは黙々とひとり採取しながらロズティアに向かっての移動を再開する。

 既に数時間は歩きっぱなしだし、採取作業で身を屈めることも多いので、身体や足への負担は相応に掛かっている筈なのだが。ナギは昨日森を歩いたとき以上に、疲労感を全くと言って良いほど感じなかった。

 〈健脚〉のスキルを会得できただけでなく、単にレベルが上がって能力値が成長し、ナギ自身がより逞しい身体になれたことも大きいのだろう。

 戦闘するつもりが無い以上、能力値など増えても仕方が無いとも思っていたが。こういう形で恩恵があるなら、やはりレベルは率先して上げておいた良さそうだ。




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 -> ナギは『マハウフ』を『1個』採取。

 -> ナギの〈素材感知/植物〉スキルが『Rank.2』にアップ!

 -> ナギは経験値『2』を獲得。

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 視界の端に表示させている行動記録(アクションログ)を示すウィンドウに、〈素材感知/植物〉のスキルランクが『2』にアップしたことが伝えられる。

 ―――と同時に。ナギが周囲にある素材を感知できる有効距離が、大幅に拡大されたのが判った。




+--------------------------------------------------------------------------------+

 〈素材感知/植物〉Rank.2 - 採取家スキル


   周囲10メートル以内にある植物系の素材アイテムを感知できる。

   スキルランクが上がると感知範囲が拡大される。


+--------------------------------------------------------------------------------+




 〈鑑定〉のスキルで自分が修得している〈素材感知/植物〉のスキルの詳細を視界に表示してみると、感知範囲が『周囲5メートル』から『周囲10メートル』へと拡大されていた。

 半径が2倍になったというのは、つまり感知できる面積が4倍にまで拡がったことに等しい。当然それだけ今まで以上に素材を見つけるのが楽になる。

 単価が高い代わりにまばらにしか見つけることができなかったペルメットも、これで随分と発見するのが容易になった。




+--------------------------------------------------------------------------------+

 -> ナギの〈植物採取〉スキルが『Rank.2』にアップ!

 -> ナギの〈収納ボックス〉スキルが『Rank.2』にアップ!

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 それが嬉しくて移動しながら採取しまくっていると。今度は立て続けに〈植物採取〉と〈収納ボックス〉の二つのスキルが、ランクが『2』へとアップした。




+--------------------------------------------------------------------------------+

 〈植物採取〉Rank.2 - コモンスキル


   自身が採取した植物系素材アイテムの品質値が『2』高くなる。

   スキルランクが上がると獲得素材の品質値がより高くなる。


-

 〈収納ボックス〉Rank.2 - 採取家スキル


   異空間にアイテムを20種類まで収納することができる。

   スキルランクが上がると収納枠が拡大される。


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 〈植物採取〉の効果は相変わらず微々たるものだけれど、〈収納ボックス〉の収納枠が倍の『20』に増えたのはかなり嬉しい。

 これならロズティアへ到着した後に沢山の採取道具や衣類などを購入しても、収納に苦労する事も無いだろう。

 貯まっている素材を売れば相応額のお金も手に入るだろうし、それに折角異世界へ来ているのだから―――。都市に着いたら旅行気分で、色々と買い物に没頭してみるというのも面白そうだ。





 

-

お読み下さりありがとうございました。


[memo]------------------------------------------------------

 ナギ - Lv.3


  〈採取生活〉2、〈素材感知/植物〉1→2、〈収納ボックス〉1→2、

  〈鑑定〉1、〈非戦〉2、〈繁茂〉1

  【浄化】1


  〈植物採取〉1→2、〈健脚〉1


  91,990 gita

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