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精霊世界のINJECTION  作者: 如月誠
第四章 未来は嗤う
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  初出勤は週明けに決定した。

 それからの数日間というもの、まるで夢の世界に迷い込んだ心境だった。

 嬉しいような、でも困惑しているような自分でも心の整理が付かない状態。奇妙な浮遊感を抱きつつ、モエナに今回の件を話してみると「あ、そ」と、ものすごく興味なさそうにあしらわれてしまった。まあ、彼女があらゆる物事に関心が薄いのはいつものこと。少しがっかりもしたが、一度事件が起きれば真っ先に飛び出す。猫の姿を借りているのも、生来の気まぐれからだろうか。




 そして、インジェクターとしての初日。


「ほ、本日付けでこちらに配属にな、なりました織笠零治です」


 それっぽく自己紹介したつもりが、堅苦しい言葉遣いに慣れていないせいで思いっきり噛んでしまった。


「あはは、そんなかしこまらなくってもいーのに」

「そーそー。警察じゃねぇんだから挨拶なんてテキトーでいいんだよ」


 出迎えてくれたアイサとキョウヤの背後から、眉間にしわを寄せたカイがやって来る。


「……朝早いからって寝ぼけているらしいな、キョウヤ。どうだ? お望みならお前の頭上からたっぷり水をかけてやろうか?」

「遠慮シマスー」

「敬礼ぐらいあるだろうが。……ったく、少しはレイジを見習え」


 呆れたように溜息を吐くカイに織笠は苦笑いになる。


「おはようレイジ。手続きは完了しているよ。……ほら、これを渡しておこう」


 カイが差し出したのは手帳のような大きさの黒い端末。幅も薄く、受け取ってみると軽い。触れた瞬間、ボタンも押していないのに空中に画面が投影され、自分の写真が表示された。


「これは精保の職員全員に支給される……まあ言わば身分証明のようなものだ。中でもインジェクターの権限は最上位でな、これさえあれば精保内の施設ならどこでも出入りできるぞ」


 操作してみると、織笠の個人データの他にも精保のコンピュータと情報をリンクしているのか、現在地から周辺約十キロ範囲のマナ変動値に加え対象のマナ測定機能――要は簡易式ラボがこの小さな箱に詰め込んであるようだ。


「これでレイジさんも正真正銘、インジェクターの一員ですわね」


 我が事のように喜ぶユリカにそう言われ、織笠にもようやく実感が湧いてくる。


「それと……」


 カイがデスクの方へ歩き出す。T字型に配置された入り口に近い角の机で止まると、そっと手を乗せる。アイサとは対面、キョウヤの隣だ。そのデスクを優しく撫でながら織笠に言った。


「ここが君の席だ」


 インジェクターは基本五人編成となっている。しかし現在、B班は四人。空席となっているその机を複雑な表情で全員が見つめていた。


(ああ、そっか……。ここって……)


 アイサの辛そうな顔で、記憶が甦った。

 造園会社暴動事件のときだ。B班には昔、もう一人メンバーがいた。誰にも理由を告げず、ある日を境に消息を絶った凄腕インジェクターが。どんな人物なのか、男か女なのかさえも織笠は知らない。モエナの元飼い主でもあるので興味はあるが、詮索は失礼だ。B班における禁忌の話題だと、なんとなく織笠は認識していた。


「アイツがいなくなってもう一年だ。お前らも知っての通り、事件性の低さから捜索も既に打ち切られている。きっと、自分の意思でいなくなったんだ。そんな者のために費やす時間も金の余裕もない……冷たい言い方で悪いが、それが上層部の決定だ」


 カイは毅然と言った。本当は彼だって辛いはずなのに、リーダーとして自らを律し彼らを説得する。現実を受け入れろ、過去と決別しろ――と。


「ま、しゃーねーわなぁ」


 しんみりとした雰囲気を払うように、空元気にキョウヤが言う。


「……ですね」

「アイサちゃん……」


 無理矢理笑顔を浮かべ、それでも本心では納得がいっていないだろう、アイサの小さい肩を抱くユリカ。


「んで? めでたくレイジは就任したわけだが、これからどうする?」


 全員が着席し、キョウヤが話の先を促す。今は事件が起きてはいないので、目下の問題は織笠の今後についてだ。


「レイジの能力の解明にはまだまだ時間がかかるだろう。だから並行して、レイジにはまず精霊を自分で発動できるよう訓練をしてもらうと思う」

「訓練……ですか」


 カイは頷く。


「要は精霊使いに成り変われってことか。……でもよ、そんなの可能なのかよ?」


 キョウヤが背筋を倒し、手を頭の後ろに組んで訝しげに尋ねる。


「……断言はできない。なにせレアケースだからな」


 精霊は、精霊使いの血液中にあるマナと空気中に含まれるマナとの混合物。しかし、人間である織笠には当然マナは持っていない。それでも精霊が扱えるのは、他人のマナを拝借している“らしい”という現段階での推察だ。


「レイジは自力で精霊は生み出せない。しかも、切迫した状況でのみ発動する条件がある。だから訓練には我々の誰かが付き添い、精霊を引き出して意識的にコントロール可能なレベルまで持っていく」

「…………!」


 その言葉を耳にした瞬間、何故かユリカの瞳が爛々と輝きだした。視界の端に捉えた織笠はユリカの反応に疑問を抱えるも、カイへ質問を投げかける。


「具体的にはどんな訓練内容になるんですか?」

「俺たちは生まれたときから自然と精霊を発現できるわけじゃないんだ。幼少期にマナを――この場合は両方の意味だが、まず流れを自覚するところから始めて、そこから結合させるという段階を踏む。主に精神鍛練だな」

「あれ嫌だったなぁ……。里にいる頃なんか、真っ暗な洞窟でやらされるんだよ、より感覚を掴み易くためにってさ。しかも親と離れて一人だからね。寂しいし怖いし……、うぅ……」


 トラウマなのか、苦々しい顔で当時を語るアイサ。向こうの世界では精霊使いは里と呼ばれる場所で人間とは離れて生活している。その話を聞くと、やはり彼らとは世界観の違うのだなと、再認識させられてしまう。


「レイジの場合はこの方法を使えるかどうかが怪しいところだが、マナを感じられないことには始まらないからな。それで……誰を付き添わせるか、だが――」


 カイは視線を部下の面々へと順番に流していく。と、ある女性のところで目が留まった。

 ユリカだ。まるで、ご飯を今か今かと待ち望む子犬のように目をキラキラさせている。


「えー……と……」


 どうしたのか、カイの頬がひきつった。そして、ゆっくりとユリカから視線をそらす。


「誰が適任か……」


 ……なんだろう。

 ユリカがその役に買って出ようとしているのは空気的にも明らか。が、カイはあからさまに避けたがっているようだ。あんなに嫌そうな顔は、犯人を対峙した場面ですら露にならない。ふっと視線をずらすと、アイサもキョウヤもユリカに悟られぬよう同じ表情で首を左右に振っている。


「できれば……、そうだな……。懇切丁寧に、それでいて理路整然と教えられる者がいいんだが……」

「じゃ、じゃあここはいっそリーダーのカイさんが――」

「私がやります!」


 カイの決定を待っていられなくなったのか、アイサの意見を遮るようにしてユリカが手を上げる。


「私がやります。やらせてください」


 もう一度、今度はさらに力強く、ユリカが言った。


「ユリカ、あのな……?」

「私、教えるのは得意なんですよ。皆さんもご存知のはずでしょう」

「いや、お前が修練の類いが好きなのは知っているよ。だがな、お前のはその……」

「ほ、ほらユリカちゃんって精霊使いの中でもトップクラスの能力者じゃん? だからさ、初歩の段階でユリカちゃんが出るのは勿体ないっていうか、さ。……な?」

「そうそう! レイジは初心者なんだから相手もそれなりのキャリアで大丈夫だと思うんだなー! 基礎ならアタシも教えられるし!」


 口下手なカイを援護するようにキョウヤとアイサが矢継ぎ早に説得を試みる。まるで暴れ馬を宥める調教師のような光景だ。

 ……が。


「あら。戦闘の指導なら熟練者の方が絶対にいいじゃありませんか。カイさんはこの班の長ですから、大事があればいつでも対処できるよう待機しなければなりませんし、アイサちゃんはこの仕事の他に学校があるでしょう? 負担が大きすぎます。キョウヤさんは――失礼ながら普段の言動から察するに、教えるのは苦手そうですし。向いているとは思いません」

「裏表のない辛辣なお言葉どうもユリカちゃん……」

「まあ、それは否定しないが……」

「テメエは余計だ!」

「消去法としてもやはりここは私が適任かと」


 説得失敗。頑としてユリカは譲る気はないらしい。

 三人がどうにかしてユリカの指南役を回避させようという、その理由が分かった気がする。まだ基礎訓練だというのに、戦闘というワードが飛び出す不穏。


「それではレイジさん本人に決めてもらいましょう。――レイジさんはどう思います?」

「え!?」


 いきなり振られてしまい、織笠の背筋に脂汗が一気に噴き出す。


(そ、そんなこと言われても……)


 選択を委ねられても、話の流れからして決定権は無いようなものだ。

 ユリカの情熱的な瞳が有無を言わさず威圧してくる。「私しかいないでしょう?」――と。例え別の人間を選んだとしても、頑固なユリカは絶対了承しない筈である。


「せ、せっかくですし、ユリカさんお願いします……」

「はい! お任せください! レイジさんがインジェクターとして邁進できるよう、末長く助力致しますわ」


 ぱあっと花が咲くようなユリカの魅力的な笑顔。他の三人は、こうなってしまえば致し方なしと、揃ってため息を吐く。織笠は対極のリアクションを見つめながら渇いた笑いをこぼすしかなかった。

 彼らと知り合ってそれなりに経つが、ユリカに関してはあまり人間性については知らない部分が多い。ならばこれはいい機会かもしれない。ユリカとの二人きりの訓練に期待と不安を抱きつつ、早朝の会議は進んでいった。




 午後。

 昼食もそこそこに、織笠とユリカはオフィスを後にした。余程特訓が待ちきれないのか、ユリカが織笠の手を強引に引きエレベーターの中へ。トレーニングルームがある数階下のフロアへと降りる。

 実を言えば、当初の予定では初日ということもあり、特に事件もないので精保全体の案内だけで終わるはずだった。――が、一刻も早く訓練をしたいユリカの強い強い要望……というか圧力により、変更を余儀なくされてしまったのである。トレーニングが好きな人種は一定数いるだろう。自己を鍛えるのはインジェクターにとって重要なことだ。しかし、ユリカがそこまで特訓好きだったとは。意外な性格だ。うずうずして堪らなさそうなユリカを横目に織笠は苦笑する。

 エレベーターを降りると、短い通路の先に視界を埋め尽くす程の壁面ガラスがあった。ユリカが手帳型のデバイスを認証端末にかざし扉を開く。二人の入室を感知し、照明が灯る。

 全面真っ白に覆われた無機質な空間。呆然と織笠は一応周囲を見回してみるが、設備らしい設備はなく、床も衝撃吸収の素材ではなさそう。おおよそトレーニングルームらしくない造りに疑問を抱く。

 あるといえば、扉付近の床からせり出した円柱形の台座。ユリカがそれに近づくとコンソールが浮かび、手慣れた手つきで操作する。着物の古風な女性が現代機器を巧みに扱う姿はちょっと珍妙だった。


「広くて驚きましたか?」

「は、はい……」

「インジェクター共用の場所ですからね、三班合同演習のときもありますからこれぐらいは必要なんですよ。精神の鍛練はもちろん、肉体強化もかかせません。凶悪犯罪に立ち向かうには、常日頃から鍛練しておかないと足元を掬われますから」

「それにしては……殺風景ですよね」

「これは、あくまで生け花でいうところの花器のようなもの。花はこれからです」


 首をかしげる織笠に「見ていてください」とユリカが微笑む。細長い指先のしなやかな動きが止んだ瞬間、照明の明かりが強くなった。急激な光の変化に目がくらむ。


「…………ッ!?」


 閃光は一瞬。かざした手をどけて、織笠は目を剥いた。

 どこまでも広がる青空。太陽が煌々と輝き、ゆるやかな風に誘われた薄い雲がいくつも流れていた。

 

「は……え?」


 つい数秒前まで自分は室内にいたはずなのに。どういうことだ。唖然としながら、足を踏み出しかけた、そのとき。


「レイジさん、危ないですよ」

「へ……、うわあっ!!」


 前方からユリカの声が聞こえ、視線を下へ向けて思わず叫んだ。

 なんと、自分が立っているのは、これまた広大な峡谷の上だった。ユリカが注意してくれなければ崖から足を踏み外すところだったらしい。雄大な景色は感動ものだが、混乱に加え恐怖まで重なった織笠にはそれを楽しむ余裕などあるはずもなく、その場にへたり込んだ。


「どうです、美しいでしょう?」

「ななな、何ですか、これ……。ホログラム……なんですか……?」


 それにしてはリアリティがありすぎる。手のひらに伝わるザラザラとした土の感触。谷間から見える何重もの地層は長年かけて生み出された歴史がうかがえる。


「一般の企業が使っているのとは少々違います。照明に内蔵されたホログラム(投影器)は精保独自のもの。私も科学のことはあまり詳しくありませんが、この部屋は通常、空気中に含まれるマナを何倍にも高めてあるそうです。それによって感覚が鋭敏になった我々の神経と同期させることでより本物に近い仮想空間を造り上げる……と技術班の方々が仰っていました」


 ちなみに、この峡谷は大地の里を再現しているらしい。髪を耳にかきあげ、風を受けながら風景を見渡す瞳はどこか懐かしげだ。


「さて、始めましょうか」


 涼しげな声と共に、ユリカは右腕を前に突き出す。大地の精霊を示す黄燐の光がいくつも現れ、手のひらに引き寄せられていく。

 顕現した細長い物体。それは織笠にも見覚えのある、彼女の髪の色と同じ美しい藍色の業物。

 E.A.W――霊滅地穿(れいめつちせん)

 左手に鞘を持ち刀を滑らせるように抜く。ゆっくりと構えたその瞬間、彼女の魅力的な微笑は影を潜めていた。


「――参ります」

「いやいやいや、ちょっ、待ってください!」


 剣呑な目付きに堪らずストップをかける織笠。


「何をする気なんですか!? 殺気が凄いですよ!?」

「特訓ですよ。レイジさんが力を扱えるように」

「でも今にも斬りかかりそうじゃないですか!」

「ええ、正しくその通りですが――何か?」


 切っ先をしっかりと織笠に向けたまま、冷淡な声で静かに聞き返すユリカ。


「朝の会議でカイさんが言ってたじゃないですか、まずはマナの流れを掴めるようにするって! 段階を踏んでいく予定じゃ――」

「ええ。ですがその前に、私も貴方の力がどのようなものなのか拝見したいのです。レイジさんの力は己が危機に瀕した場合に発動するもの。ですから、私が今からその状況を敢えて演出しようと考えたのです」

「メディカルセンターのときに一度見たはずでしょう!?」

「あのとき、私は第三者の立場でした。視覚でしか情報は得られていない。それだけでは物足りないんですよ。私が知りたいのは、レイジさんが私の大地の力を吸収した際、どれだけの力がレイジさんに渡り、私はどれ程搾取されてしまうのか――実際に体感してみたいのです」


 果たしてそのサンプルは必要なのか。織笠には甚だ疑問である。

 ユリカの足元が黄金に輝く。彼女に張り付くように脚部から腰、腰から腕へと光が絡まる。そして刀身へと宿り、纏う輝きがより強さを増す。

 ――解放。

 光が弾かれ、衝撃波が起きた。大気が泣いているのか風が唸りを上げ、地面には一瞬にして亀裂が走った。

 暴力的なまでの力の渦。織笠は飛散する石つぶてを腕で庇いながら後退りしていく。何度も精霊使いの戦いは間近で見てきたが、ユリカのは次元が違う。最早反則の域だ。

 ユリカはその清涼な声色をさらに低くさせ、織笠へ言い放つ。


「レイジさんを殺してしまうわけにはいきませんので六割程度の力に抑えます。――ですが、油断すれば最悪死んでしまうかもしれません。気をつけて下さいね」

「ちょっ、待っ――‼」


 織笠が咄嗟に制止の言葉を口にするも、時は遅し。瞬時に飛び出したユリカの黄金の太刀が、彼の顔面へと迫っていた――。





「大丈夫かなぁ、レイジ……」


 一方、オフィスでは。アイサが暇をもて余して読んでいた雑誌から目を離し、ふと呟く。


「心配なら見てくればぁ? 退屈ならよー」


 隣で携帯をいじっていたキョウヤが、意地の悪い笑みを浮かべる。


「勘弁してくださいよ。下手したら私まで巻き込まれるじゃないですか」

「あー、十中八九、そうだろうなぁ」

「知ってて言ってるでしょうが」

「だってよ、さっきからソワソワして落ち着かねぇから」

「キョウヤさんこそ、女の子とメールなんかしてないで、ユリカ姉のお相手をする方がよっぽど有意義でしょ」

「ぶわぁか。あのな、ユリカちゃんは大変に魅力的よ? くんずほぐれつならこっちからお願いしたいわ」

「今まで一回もオーケーされたことないくせに」

「うっさい。ユリカちゃんの牙城は鉄壁なんだよ」

「きっと、あの人が異性を選ぶ基準って、自分よりも強い人とかなんでしょ」

「そんな奴いるかぁ? 大地の精霊使いの中でも稀に見る逸材だぞ、ユリカちゃんは。――とにかく、特訓の鬼と化したあの状態だけはゴメンこうむる」

「ですよねー」

「レイジ……合掌」


 同情の意を込めて揃って手を合わせる二人。その会話を作業をしながら聞いていたカイは、何をしているんだ、と嘆息する。


「やめろ、縁起でもない」

「だぁって、ユリカ姉の加減のなさったら、半端じゃないんですもん。カイさんだって体験したことあるでしょ?」

「まぁな……。あのときは、E.A.Wの調整を兼ねての戦闘訓練だった……のに、いつの間にか死闘に変わっていたな。――結果、あばら三本はイカれた」

「あれが本物の戦闘狂だよなぁ……」

「実戦に出る前に、レイジ死ななきゃいいけど……」

「だからやめろ。縁起でもないから」


 ユリカの指導がどんなものか容易に想像できる一同は、レイジの安否を願うばかり。


 だが。


 そんな心配をよそに、事は起こった。

 全員のPCからアラートが鳴り響く。赤色の平面画面が強制的に開いた。

 事件発生の合図である。

 場所は板橋区の導水路。標準値を超過するマナを計測。原因を探るため、至急現場に急行せよ――そう表示されてある。

 瞬時に席を立つ三人。


「やれやれ、お仕事ですか」

「ユリカ姉たちはどうします?」


 スーツの襟を正していたカイはアイサの質問に少しばかり逡巡したものの、すぐに答えを出した。


「呼び出せ。もしレイジが難しいようなら休ませておいて構わない」

「了解」


 三人は足早に部屋を後にする。




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