第29話
ストーリーの中で、現在あやふやになってる部分が多くあります。
大分もつれた感じになってますが、そこはぐっと堪えて読んで下さい。
後の話しで、少しずつ明確になる予定でござーい。
みちるさんの唇に触れるよりも先に横から聞こえた声に思考も行動も停止する。
いやいやいや……停止してる場合じゃない!
「もうそろそろ……よろしいでしょうか?」
…………
えっと…?
目の前にある驚きで固まったままのみちるさんの瞳の中に、自分の驚いた瞳がある。
同じように固まっている人間を目の前にして、お互いに少し思考を取り戻したわたしたちは、それぞれ顔を離しぎこちない動きで顔を横に向けた。
「……蘭」
「…蘭さんですね」
「…………」
「………………」
「…何か……説明がありますでしょうか?」
「うぁーー!!!!」
「……な、な、な!」
ようやく状況を思い出した!
思い出しましたよーーー!!!
大慌てて、二人して距離をとる…
……い、今更ですか??
「お邪魔をして申し訳ありませんが――」
「ち、違いますよ!?」
思わず言葉を遮ります。
全力で遮ります!!
「そ、そうね!い、色々理由があって…!」
だって!こ、これはですね…
「挨拶ですから!!!」
「挨拶?」
「そうですよ。ねぇ!みちるさん!!」
「…そう……ね」
「そ、そうですか」
そうです!挨拶です!!
挨拶、挨拶……
このキスが挨拶以外の意味を持ってたなら……
…ダメだ
挨拶……挨拶…
挨拶だから……それ以外の意味は無い!
……でも何故そんな衝動に……?
みちるさんを…食べたいと思った……!?
違う!血だけで満足だから!!!
だから!!!……これは挨拶!挨拶なんです!!
「それより、蘭さん!何か質問ですか!!?」
「…何か……と言いますか……。何もかもが疑問なのですが?」
「えっと…」
「そうですね……。まず基本的なところからなのですが、お二人はどういう…――一緒にお暮らしになるのですか?」
「そう…ですね」
というか、そうらしいですね?
そういえば、どういう経緯でそういう話しになったのかは知らない。
「みちる姉さん。ユキさんは修さんと御結婚されたのですね?」
「ええ、そうよ。簡単に説明するなら……偽装結婚だから一緒に家で暮らすストレスを減らせるならば…わたしとの方が良いと判断したの」
「そうですか」
そうですかって……偽装結婚とかサラッと言いましたよ?
「あの…御迷惑をお掛け――」
「迷惑してないわ」
します……
「…………」
はい。ありがとうございます……
「それで…お二人はどういう…―――昨日もお泊りに?」
「…ユキちゃんの精神が不安定だったから、無理矢理連れてきたのよ」
「あの……御迷惑をお掛け――」
「してないわ」
……してないと
「そうですか。ユキさんの体調も心配ですし、みちる姉さんが傍に居られるのは賛成です。それで…お二人はどういう…――みちる姉さん……分かりましたから睨まないで下さい」
あの……
「わたしも聞きたいことが…」
「なんでしょうか?」
「蘭さんは何故ここに?」
「年末だからよ?それに、そろそろ一緒にする良い機会だと思って」
えっと……確かに年末です。
それに、蘭さんが来るのは予定事項だったみたいで、わたし以外のみんなは普通に理解してた。
で?どういうことですか??
「良い…機会……?」
「説明不足のようですよ??」
「そんなことは…」
無いとは言えないけど。
「ユキさん。ユキさんは今誰と御飯を共にされていますか?」
「みちるさん、修さん、和志さん……?」
「そうですね。家族ですから」
うん。ありがたい事ですね。
「では、ユキさんが引っ越して来るまではどうだったのでしょう?」
えっ?
「みちるさん、修さん、和志さん……?」
さっきと同じ回答だけど…そうじゃないの?
「そうですね。では……私はどう思われますか?」
「あっ……」
そうですよね。みちるさんとは姪と叔母の関係だって言ってた。
正真正銘の家族じゃないですか…
「はい。そうです。以前はわたしも御一緒していたのですよ?」
一緒のマンションに住んでる。それに前はみちるさんと一緒に暮らしてたって聞いた。
寧ろ、今蘭さんが一緒に食卓にいない方が不思議なくらいだ…
わたしが引越しをする前までは……一緒だった…つまり……
「わたしが……来たからですか?」
「そうですね」
「蘭っ!」
……迷惑…掛けてるじゃないですか……
「この前お話しをした時に言いましたね?」
…この前?
「何をですか?」
「ユキさんが私に何も話してくれないと」
「…そうですね」
「みちる姉さんも……修さんも話してくれなかったので気がつかなかったのです」
「…………?」
「全員で食事をすることはなくなりましたが、和志さんが食事を持ってきて下さって、私が食事する時も誰かがおられたので、何故皆で食事をしなくなったのか……知らなかったのです」
「蘭…それは――」
「はい。分かってます。というよりは、この前ユキさんと話しをして分かりました。私がユキさんを受け入れることと、ユキさんが私を受け入れること……特に、ユキさんから私に心を開くまで待っておられたのですね?」
「………え?」
わ、わたし??
「…………」
「で、でも…あの……この前も言いましたが蘭さんとは友達でいたいと思ってますよ?」
わたしなりに受け入れたつもりなんですけど…
「はい。もちろん私もユキさんの事を全面的に受け入れていますよ?ですから今回、年末で家族が集まるとういのを切欠にして今後の食事を全員で…と思われたのでは?」
「………」
「…そういうことよ」
「蘭さんは……嫌じゃないんですか?」
わたしのせいで振り回されて…
「何故でしょうか?私としては喜んでいるのですが??」
つまり……?
「やっと呼んで頂けるのですから。今後は是非食事も御一緒しましょう」
あぁ…はい……!
「よろしくおねがいします」
「こちらこそ。それで…お二人はどういう――」
♪~♪~♪♪~
「……あら」
「和志ね。御飯が出来たようよ」
電話かと思ったら、メールでしたか。
画面から顔を上げたみちるさんが、蘭さんに告げる。
「そうですか」
「あ、あの……さっき蘭さんが言いかけたのは何だったので――」
「ユキちゃん。御飯なのよ」
「えっ?あ、はい…」
「……ふふふ。らしいですよ。行きましょう、ユキさん」
「??……はい」
◆―◆―◆―◆
「それで?ちゃんと話しは出来たのかい?」
朝御飯兼お昼御飯のピラフ……
海老…おいしい……
「えぇ」
コンソメスープ……トマトの酸味が玉子でふんわりと…
「蘭にも話しは?」
キャベツのホットサラダ…
「えぇ。問題ないわ」
「ふふふ」
このベーコンの旨味とキャベツの甘味が…
「それで?荷物は運んじゃっていいってこと?」
全ての料理がコンソメベースで、まとまりのある…
「問題ないわよ。ね?」
あー、和志さんに料理習おうかなーー
「………」
「「「…………」」」
「……ふふふ。ユキさん」
ふぇ?
「は、はい?」
「「「………………」」」
「美味しいですか?」
「え?っと…あの……はい…?」
それはもちろんおいしいですけど、何故そんなに皆から注目されてるのでしょう…?
「そう」
「美味しいですね」
「うんうん。嬉しいなー!」
「いい事だね」
何故、そんなに微笑ましいものを見る目で…?
「あ、あの……?」
「ユキちゃん」
「はい」
「荷物は運んでしまっても問題ないかな?」
「あっ、はい。御願いします」
「じゃあ、今日中にやっちゃおう」
あっ
「あの!和志さん」
「うん?」
「お邪魔になってしまうと思いますが…よ、宜しく御願いします!」
「……うん?」
「「「…………」」」
あれ?
「えっと、あの……今日から部屋をお借りして――」
「いや、寧ろ二人ずつになっていいんじゃないの?」
「はっ?」
どういう意味でしょうか?
「二人ずつ?」
「そうだね。今までよりもユキちゃんは気が休まるんじゃないかな」
全く会話が噛み合ってないようなのですが?
「チェンジよ。チェンジ」
「あぁ、そうだね。チェンジだと思えばいいかな。いや、これが正しい形なのか…」
みちるさんと衆さんが言ってるチェンジの意味も分からない……
話しを変えろということですか??
「えーーーーと。なるほど……」
何かに納得してる蘭さん…
「二人して何言ってんの?チェンジ…チェンジ……?」
わたしは和志さんと全く同じ状態です……
「ユキちゃん!大丈夫よ。ユキちゃんの代わりに和志がこっちに来るから」
「へっ?何言ってんの??僕は元々――」
「わたしだけだから同性で気兼ね無く生活出来るでしょ?」
えっと…
つまり、わたしが和志さんを追い出した……?
「そ、そんな!!これ以上の御迷惑はお掛け出来ません。わたしの為に……」
「あの、ユキちゃんの為って言うか、僕は元々――」
「気にしなくていいのよ!」
そんな…気にしますよ……
「わたしは…やっぱりお邪魔でしょうか……」
「邪魔なわけないでしょ?」
「そうだよ。逆にユキちゃんに気を使わせてしまったんじゃないのかな?私たち大人がしっかりしなくてはいけないのに。駄目だね……」
いえ……。修さんもみちるさんも一緒にいたいという気持ちを表に出すことも無く、普段からわたしの為に時間を使ってくれてる。
みちるさんなんか、修さんと一緒にいる時間を削ってわたしの為に一緒に住むと……
「なんか、よく分からないけど…取り合えずユキちゃんが嫌じゃないなら今回の移動はOKなんだよね?」
「そうだね」
「んで、ユキちゃんは嫌じゃないって事だよね?」
「はい」
「はい。じゃあOKということで!」
和志さん、修さんみちるさん……ありがとうございます…
「あのですね……質問しても宜しいでしょうか?」
「かまわないよ」
「どうぞー」
「…いいけれど………」
「………?」
そんなに改まって……どうしたんだろう蘭さん。
「今…、どういう状態なのでしょう?」
「というと?」
「……どういうことかしら?」
「私の認識とユキさんの認識にズレのようなモノを感じましたので」
「わ、わたしの認識ですか?」
えっと…
「わたしが修さんの家から移動してみちるさんの家にお邪魔する…?」
「お邪魔ではないけれど……そうね。ユキちゃんが移動するで間違いないわよ」
「それで今後は、修と僕、みちるとユキちゃんの組み合わせで住み分けする。合ってるよね?」
「そうだね。私もそういう認識だよ。ユキちゃんもそれで大丈夫かな?」
「はい。大丈夫です」
「……認識の違いはなさそうよ?」
「えぇ。では、どなたが組み合わせに疑問を持っておられ――」
「それは、今話す必要があるかしら?」
……ちゃんと、認識してますよ。
わたしも、この組み合わせは悪いと思ってます。
「蘭ちゃんから見て、今回の事は違和感があるってこと?」
「いえ、そうではなく。話しの内容に違和感が――」
「例えば、ユキちゃんが私達の為に無意識に今回の選択をしたのかな?そうだね。その可能性もあるかもしれない……」
本当は……修さんとみちるさんが一緒に住むべきなんですよ…
「いえ、あのそうでは――」
「ユキちゃんは、わたしと住むのは嫌かしら?」
「嫌じゃないです!」
「即答だね」
あっ……
嫌じゃないけど、これはわたしの我が侭だから…
「うん、じゃあ何も問題ないよね?」
いや…わたしは問題ないけど……
「まぁ…いいのですが……」
…そうですよね。蘭さんから見ても違和感はあるんですよね。
「じゃあ、そろそろ食器片付けちゃうよ。修、荷物運びは任せた!」
「あぁ、そうだね」
修さんと和志さんがそれぞれ動き出す。
蘭さんは、まだ何か言いたい事があるのか難しい顔をしているけど…
「ら、蘭さん?」
「みちる姉さんは――」
「蘭?もういいかしら?夕方までに荷物を片付けてしまいたいのだけれど?」
「……分かっていて誤魔化しているのですね」
「…子供の好奇心は大事ね……でも、もういいかしら?」
「…わかりました」
ど、どうしてみちるさんは不機嫌になっているのでしょう?
「あ、あの!」
「どうしたの?」
「すみません!!」
わたしの選択が間違ってるなら、ちゃんと教えて欲しい…
「何を謝ってるの?」
「わたしの我が侭で…」
「意味が分からないわ。わたしと住むのはユキちゃんの我が侭ではないでしょう?寧ろ、わたしから提案したと思うのだけれど?」
「そう…ですけど……」
それは…みちるさんが大人だから……
「ユキさん。みちる姉さんが不機嫌なのはユキさんのせいではないですよ」
「「えっ?」」
「……そうでしょうか?」
もっと、わたしが落ち着いて、迷惑を掛けなくて大人の対応が出来ていれば……
「大丈夫ですよ。みちる姉さんが不機嫌なのは、私がしつこくみちる姉さんの逆鱗を撫でさすっているからです」
な、撫でさすってる?
「わ、わたしが不機嫌!?」
「そうですね。私は楽しく撫でさすっているのでいいのですが、ユキさんが怖がってしまわれます。もう少し大人の対応をお願い致します」
「!!!……お、大人の対応ね…蘭………貴女、何か嫌なことでもあったの?」
「あら?失礼しました。私も人のことは言えませんね。少し表に出てしまいましたか」
えっ?蘭さん怒ってるの?
「…ら、蘭?」
「私達は何も分からない子供なのでしょうか?」
「………?」
「大人と子供。都合のいい時だけそういうくくりにするのは止めて下さい」
…こういうことをきちっと言い切る。蘭さんは大人だと思います。
「…ごめんなさい。失言だったわ。わたし達の甘えね」
「その上でお聞きします。……私の感じている違和感をみちる姉さんは分かっていますね?」
「……分かっているわ」
どうしたらいいですか…?大人の会話過ぎて付いていけません。
「…正そうとは思われないのですか?」
「もう少し……わたしだけの問題ではないから…」
「……分かりました」
えっと…もしかして修さんとみちるさんが付き合ってるのを、わたしが知らないと思ってる?
だから、みちるさんはそれをわたしに隠したい……とか?
「あの――」
「おーい。蘭ちゃんはこっち来ておせち手伝ってくれる?」
「分かりました」
食材の袋を抱えた和志さんが蘭さんと一緒にキッチンに入っていく。
「あの……」
「…わたし達も行きましょうか」
「……はい」
修さんとみちるさんの関係を知ってますよ。
って…言いそびれてしまった………
むむ?
い、意外と蘭ちゃんって大人しいだけじゃなかったのね。
そして……ユキちゃん激ニブやね…………




