10.ぼくらの終わらない夏:夏休みの読書案内
夏休みのための、子どもの本の案内。サルの話はありません。
高田敏子の「忘れもの」という詩をご存じでしょうか? これは、過ぎ去ってしまった「夏休み」に、麦わら帽子や波の音などの忘れものを取りにもどっておいでよと呼びかける詩です。
それにしても、なぜ、子どものころは、夏休みってずっと続くもののように、思うことができたのでしょうか。
ということで、今回は、夏休みの子どもの本の紹介です。
残酷なことでありますが(親にとっては、幸いなことでもありますが)、夏休みというものは、必ず終わるものです。
この非日常から日常への移行は、「行って、そして帰ってくる」という冒険の構図とよく似ていると思いませんか? 夏休みの物語は、それだけで冒険の物語だといっても、良いと思うのです……多分。
そんなひと夏の冒険の中でも、王道オブ王道の話をというなら、まちがいなく「スタンド・バイ・ミー」になるでしょう。これは、田舎に住む4人の少年が、何か自分たちですごいことをしてやろうと、死体を探しに行くという「冒険」をする物語です。途中のヒルに襲われたり、不良グループと対決したりというシーンはハラハラドキドキの連続です。
ただ、映画にもなっているのですが、原作については、全年齢向きかというと、微妙にR15かもしれません。少なくとも、ルビは欲しい……日本だと、人気のある本は、子ども向けに焼き直しされたり、ルビ付きになったりするのですが、これは難しいでしょうね。
よく、映画と原作とどっちが良いかという話があがりますが、この作品については、映画に軍配があがるかもしれません。何といっても、主題歌が秀逸なので。それに、リバー・フェニックスが亡くなってしまったので。彼の、この映画での役柄と重ね合わせると余計に。
いや、王道というからには、ほかの作品もあります。『夏の庭』がそうです。
チビ、デブ、ガリの、モテる? 何それおいしいの?の3人組が、近所のじいちゃんが死ぬって聞いて、人が死ぬとこ見てみよ〜ぜと押しかけて……という、これだけで展開と結末が予想できる話ですが。
これも映画化されているので、おヒマな方は、どうぞ。
また、『ぼくらのサイテーの夏』もそんな王道物語のひとつです。
誰がいちばん、階段の高いところから飛び降りることができるかという「階段落ち」の度胸試しをして、負けて、骨折して、罰として学校のプール掃除をするハメになった、いかにも小学生男子!の「ハードボイルド」なひと夏のお話です。主人公も、一緒に罰掃除をすることになった男の子もそれぞれに家庭のジジョーを抱えているのだけど、それをサラッとしか描いていないのもイイのです。
この、ひと夏ものというのは、女の子を主人公にすると難しいです。そうでないものもないわけではないのですが、大抵は恋愛(というか無邪気な自分との訣別)が絡むので。多分、この分野の最高峰は『悲しみよこんにちは』ではないでしょうか。ちなみに、このジャンルの話は、ハッピーエンドというか、少年少女が結ばれないパターンが結構多いです。
主人公がふだんとは違う場所に行って、不思議な体験をするというのは、夏休みのお話のテンプレでもあります。たとえば、『思い出のマーニー』とか『霧のむこうのふしぎな町』とか。
実は、この手のお話って苦手です。ネタバレになって申し訳ないのですが、この、「イナカだって」「オトナだって」「自然だって」というそこはかとなくない、隠れていない隠し味のようなエラソーな感じをありがたがれるほど、私はMではないので。文章は巧い作品もありますけれど、多分、名作なんだろう作品もありますけれど……
さて、夏休みは、ふだん隠れていた大人と子どもの対立というのが、あらわになる時期でもあります。学校があるときは、宿題やら日々の生活に追われていて気づかなかった矛盾とかオトナの社会のしがらみが見えてきてしまいますから。
『ぼくらの七日間戦争』なんて、夏休みだからこそ成立する話の典型だと思います。すべてをリセット&リスタートする春なら忙しくて「戦争」の時期にはふさわしくないし、冬だったら、寒くて話が重すぎるものになりますから。
映画化もされております。ぜひ、主演女優さんの脚(not足!)をご堪能ください。
でもね、大人目線の「オトナだって」でもなく、子ども目線の「オトナって」でもなく、ちゃんと大人と子どもの間に立って、世界を橋渡しできる作品もあるのですよ。
『雨やどりはすべり台の下で』がそうです。夏休みの最後の日に集まった子どもたちが、アパートに住む不思議な男の人、雨森さんのエピソードを話し合う話。魔法や冒険が出てくるわけではなく(ちょっと、ファンタジーっぽい話はあるけど、それがいちばんおもしろくない)、ただそれだけ。なのに、なぜ、心を揺さぶるのでしょう。
多分、それは、ていねいに、何てことのないエピソードを重ねていっているからなのだと思います。少しずつ、子どもたちの話から浮かび上がってくる雨森さんの過去……それが未来へと続いていることがわかるから。そして、子どもがひとくくりにしてしまう「大人」も、大人がひとくくりにしてしまう「子ども」も、単純なものではないことが少しずつ浮かび上がってくるから。
これからたくさんの夏を彼らは迎えることでしょう。大人にとって終わってしまった「夏休み」というものが子どもにはあるというのが、うらやましくて、そして、もう大人になってしまった自分にも希望を与えてくれるような気がします。
ただ、忘れてはいけないのが、夏休みの宿題です。昨今では、ラジオ体操が消え、読書感想文が任意のものとなり、日記も全1枚という、何それ、日記か?というものに成り果てましたが、あるものはある(ただし、地域による)のです。
そんな状況で、夏休みの宿題をやれよ〜、終わらせないと怖いことが待ってるぞ〜というのが、『メトロ・ゴーラウンド』。夏休みの宿題をラクして終わらせようとした、小学生(男子)の「ホラー」な体験の話。
さすが、坂東眞砂子、子ども相手でも容赦ない……
夏休みが楽しいのは、それが子どもだけに許された、いつかは終わるものだからなのでしょうね。だからこそ、戻ってはこないとは知りつつ、戻っておいでよと呼びかけてしまうのだと思います。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
★ザ王道冒険系
・スティーヴン・キング 『スタンド・バイ・ミー―恐怖の四季 秋冬編』山田 順子 (訳)。R15/難易度低。本当は「秋」の話。映画はロブ・ライナー監督。映画はU14。キングの映画は春の「ショーシャンクの空に」と、「デッド・ゾーン」が好き。
・湯本香樹実『夏の庭―The Friends』U14/難易度低。あるあるな話。それでも王道なんで。ほかの本を期待して読むとうんざりするけど。
・笹生陽子『ぼくらのサイテーの夏』U14/難易度低。これは単行本をおすすめします。やまだないとのつっこみ系の絵が良いので。この人は、当たり外れが激しい人ですが、まちがいなく、こちらは当たりの方。この少年の感じは、女性作家しか書けない気がします。
・はやみねかおる「名探偵夢水清志郎事件ノート」シリーズの『そして五人がいなくなる』とか『ぼくと未来屋の夏』とかがあるけれど、あえて、『バイバイ スクール 学校の七不思議事件』を(いずれもU14/難易度低。ちょっと難しい表現もありますが、あえてR15にするほどではない)。文章がイマイチ固いところがあるけど、広がりを持っているので、探偵小説を読みたいという小学校高学年からは特にお薦め。
・さとうまきこ『九月〇日大冒険』どこにも行けないままに終わってしまったはずの、夏休みの最後を飾る大冒険!
・横山充男『少年の海』『少年たちの夏』。どちらもU14/難易度低。少年たちの冒険はいいなあ。
・川端裕人『川の名前』。R15/難易度低。少年3人組が川の源をたどっていくという話だったはず……
・日比茂樹『カブトムシの木』U14/難易度低。カブトムシのたくさんとれる木を巡る秘密の話。切ない。
後は、この辺りなら、大島弓子『毎日が夏休み』とか角田光代 『キッドナップ・ツアー 』とかが定番かと思われます。
一応紹介
・『霧のむこうのふしぎな町』U14/難易度低。残念なことに、もともとの竹川功三郎の絵は、ジブリとの著作権の侵害の争いの中で取り下げられてしまいました。主人公の女の子がかわいくないです。かわいくないけど、愛されるという少女漫画的な世界が楽しめるのなら、問題はありません。「千と千尋の神隠し」のネタ。
★ザ王道恋愛系
・フランソワーズ・サガン『悲しみよこんにちは』朝吹登水子(訳)。女って怖いとは思ってはいけない話……きっと。R15/難易度中。
・イルズ・マーグレット・ヴォーゲル『さよならわたしのおにいちゃん』掛川恭子(訳)。「おにいちゃん」を私(幼女)と母親が取り合う話です。幼女って怖いとは思ってはいけない話……多分。U14/難易度低。
・アン・ブラッシェアーズ『トラベリング・パンツ』。気を取り直して、まっとうなときめき系を。女の子の友情だってあったっていいじゃない。続編『セカンドサマー―トラベリング・パンツ 』『ジーンズ・フォーエバー―トラベリング・パンツ 』もあります。いずれも訳は、大嶌双恵。映画にもなっています。R15/難易度低。良い意味での、定番の少女小説。
・ルーマー ゴッデン『すももの夏』野口絵美(訳)。避暑地の少女たちのひと夏のロマンスという話のはずなのに、なぜか怖い……。R15/難易度中。一応、児童文学作家ですが、書く作品はシビアです。
異色のものだと、
・斉藤洋『サマー・オブ・パールズ』。少年の恋愛もの。主人公がヘタレではないのがいい。U14/難易度中。
・マーガレット・マーヒー『クリスマスの魔術師』山田 順子 (訳)。R15/難易度中。南半球はクリスマスが夏なので。ヒーローの正体がわかったきっかけが、怖すぎる……
なぜでしょう。女って怖い系の話ばかりになってしまいました……
★ザ・テンプレ
一応、名作です。見方が変われば世界が変わるというお話が好きな方でしたら、どうぞ。
主人公が出会った相手の正体が、ことごとく萎える。あらすじの紹介はあえてしません。
・ジョーン・ロビンソン『思い出のマーニー』松野正子 (訳)。U14/難易度低。
・富安陽子『かくれ山の冒険』(同じ著者の作品で『キツネ山の夏休み』もあります。こちらは王道系)。U14/難易度低。文章はうまいです。ドキドキさせます。
・阿部夏丸『オオサンショウウオの夏』U14/難易度低。同じ著者なら『オグリの子』の方がお薦め。
★ザ戦争系
・宗田理『ぼくらの七日間戦争』U14/難易度中。読み返すと時代を感じます。多分、「オトナって……」と思えるのは子どもの特権。
・山中恒『ぼくがぼくであること』U14/難易度中。自分へのいらだちとか親(母親)への疑問とか、そんなもやもや的なものと戦う話。ちょっとだけ『あばれはっちゃく』の感じも残っている。
★過ぎゆく子ども時代に寄せて
・岡田淳『雨やどりはすべり台の下で』。U14/難易度低。いちばん好きな作家です。残念なのは、男の人の名前が「雨守さん」でなかったこと。出てくる人たちが、みないい人で、こんな話もあってもいいと思う。
★宿題やれ、宿題
・坂東眞砂子『メトロ・ゴーラウンド』。U14/難易度低。怖いんだけど全年齢対象。『満月の夜古池で』もそうなのですが、この人、子ども向きの本の方がうまい気がします。とにかく、削ぎ落とされた感じの文章。まあ、でも宿題はやらないなあ。
あえて、戦争の話は除いてみました。次回は、雄ライオンの話か、ネズミの話かどちらかになる予定です。




