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488.彼のことも気になる





「エリア? 今は実験室にいるんじゃないかな?」


「あいつの実験室なら――」


 一度は古城から出たクノンは。

 手近にいた「実力」メンバーにエリアの所在を聞き、彼女の実験室へとやってきた。


 エリアの実験室も、古城にあった。

 というか、メンバーの九割くらいはあるそうだ。


 この拠点。

 過去の特級生が、古城の設計図を見て作ったレプリカらしい。


 大きいだけに部屋数もあるのだろう。


 古いだけに、侵入者防止の意味もあるだろう。

 造りが少々ややこしい。


 ゆえに。

 曲がり角や通路には、案内表がたくさん張ってある。


 実に助かる。

 これがなければ絶対に迷っていた。


 ……文字の書体、それに用紙がほぼばらばらなのは。


 迷った人が、都度都度張っていったせいだろうか。


「――フフッ。来たねクノン君」


「――あれ?」


 こうして、無事エリアの実験室へ辿り着いたわけだが。


「ジュネーブ先輩、どうしたんですか?」


 さっき別れたジュネーブィズがいた。


 エリアのネームプレートが掛かった、ドアの横に。


「君なら、フフッ、直接エリアちゃんに聞くんじゃないかなって、アハッ、思ってね」


 なるほど。

 クノンの行動を先読みしたわけか。


 そう。

 難しい問題は、多角的な視点で見ることも大切だ。


 視点を変えれば。

 思わぬ解決法が見つかることもあるから。


 まあクノンは見えないが。


 今回のケースだと、やはり。


 贈る側のベイルと。

 贈られる側のエリア。


 双方の視点がほしい。


「鋭いですね。

 もし僕が来なかったら、ジュネーブ先輩が聞きに行ってました?」


「いやあ、ははっ」


 彼は前髪を掻き上げた。


「その時は泣いて帰ってたかな。


 女の子と一対一で話すなんて、私にはとてもとても……。


 ヘヘッ、これまでの戦績なら、平手九割、怒って帰る一割って感じだよ?」


 悲しい統計だ。

 彼がレディと一対一で話すと、そんなことになるのか。


「何せ母親にさえ殴られたことがあるからね。


 思わずやっちゃったんだろうねぇ。

 イラッとしちゃったんだろうねぇ。


 慌てて謝る彼女に、フッ、逆に済まない気持ちでいっぱいになったよね……ははっ。笑っちゃうよね!」


 笑えない。

 身内にさえなのか。


「それ、どうにかならないんですか?」


「ならないんだよね。

 私が笑わないのは、寝てる時くら、ハッ、くらいだよ」


 難儀なものだ。


「……先輩のことも、色々と気になりますね」


「鏡眼」で見れば。


 やはり彼は、人型の何かに、口を押さえられている。


 アレがジュネーブィズの声を。

 声帯を。

 抑え込んでいる。


 そうとしか思えないのだが。


「私のことはもういいんだよ。ハハッ。この学校でも散々調べたしね。

 でも原因の可能性さえ掴めなかったし。


 魔術師に目覚めてからだから、魔術関係、だと、ハハッ、思うんだけどね。

 もちろん医者もわからないって言うしね。


 もう諦めちゃったよ。

 一人でいる分には問題ないしね。……フッ」


 ――もしかしたら。


 彼の原因の可能性くらいは、クノンならわかるかもしれない。


 何せ見えているから。

 原因らしきものが。


 ならば。

 原因がわかれば、解決法も……。


 いや。


 今は置いておこう。

 まずはエリアのことだ。


「話を戻しますね。


 僕はエリア先輩に、もうストレートに質問しようと思っています。先輩も同席しますか?」


「ぜひ。

 私も気になっていることがあるからね」


 というわけで、二人でエリアの実験室を訪ねてみた。





「どうぞ」


 エリアは快くクノンたちを通した。


 片付いた実験室だ。

 すべてが整理整頓されている。


 床に本やら機材やら。

 何かの染みやら。

 何かの素材のカスやら。


 書類やら、レポートやら、メモやら。


 そんなものは一切落ちていない。


 非常に歩きやすい。

 ちょっとよろめいてぶつかった先の本や書類の山が崩れる、なんて事故の恐れもない。


 それに、いい匂いがした。

 花の香りだろうか。


 なんというか……クノンは少しときめいた。


 これは女の子の部屋っぽい、と。

 強く思ってしまった。


「綺麗にしてるね。あははははは。へえ。エリアちゃんの部屋って、こんな感じなのか。……ふっはっはっはっ! いいね! 綺麗にしてるね!」


「……」


 なんとも裏の意味がありそうなジュネーブィズの発言に、エリアの視線は冷たい。


 裏の意味がありそうだからだろう。

 クノンも裏がありそうと思ったから。


「お取込み中でした?」


「昨日採ってきた夕陽草とかの仕分けをしてただけだよ。


 一緒に採ってきた花の匂いが充満してるけど、気にしないでね」


 ちなみに日帰りで帰ってきたらしい。


「飛行」ができる。

 そんな風魔術師ならではのフットワークの軽さである。


「それで、二人してどうしたんですか?」


 椅子を勧められて座ると、エリアが問う。


 快く迎えてはくれたが。

 でも作業中らしいので、忙しくないわけではなさそうだ。


 手短に用事を済ませてほしいのかもしれない。


「単刀直入に聞きますけど」


「うん」


「ベイル先輩のことってどう思ってます? そしてどうしたいんですか?」


「え、……ええー!? なに、なに!? 急に何!? えー!?」


 すっごい照れている。

 すっごい動揺している。


 女子力全開じゃないか。


 なんかクノンの方がどきどきしてくる。


「あのさ」


 ニヤニヤしているジュネーブィズが言った。


「もう、率直に行こうよ。

 二人の仲がアハハハアハハハハハ! はっはっはっはっ! ……はあ。しんど。ごめんね。


 あの、そろそろね。

 二人だけの問題じゃ、なくなってきてるからさ。


 だから君の本心を聞きたいわけだよ」


 いつも通りのジュネーブィズのようで、そうじゃない。


「私はね、代表にはとてもお世話になったんだ。


 孤立しがちな私を、重宝してくれたハハッ。

 仕事を紹介してくれたことも、一度や二度じゃないしね。


 恩返しがしたかった。


 けど、あの人って大抵のことは、フヒッ……自分でできるし、私が手を出す前に周りが助けちゃうから。イヒヒヒ。


 人徳があるっていうか、なんていうか。


 ……そういう感じの人だから」


 どこか真剣みを帯びた声。


 なんとなく、そんな感じがした。


「きっと今だろうなって思って。

 私が彼のためにできることは、ここしかないって思うんだ。


 彼の悩みは、君の悩み。

 できるだけ双方納得できる、方向に、……いっ、行きたいよねアハハハハハ!」


 ……まあ、そんな感じらしい。


「だからさぁ! 君の代表への想いをさぁ! ホッホッ、私に教えてよフハハハハハハ! アーッハッハッハッハッ!」


 クノンは思った。


 ――これは母親にも殴られるかもな、と。


 真面目に話していると思えば。

 急に大笑いするのだ。


 これはふざけているようにしか思えない。


 というか、アレか。


「最後ちょっとだけ煽ってたでしょ?」


「煽ってないよ! 私だって真面目な話なんてしたくないよ! 私が真面目な話なんてしたら不快指数高いんだからさぁ!」


 不快指数。

 自覚があるところも、なんだか悲しい。


 因果な体質と言わざるを得ない。





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― 新着の感想 ―
早くアニメでジュネーブ先輩をみたいですね! 喋りが独特過ぎて難しそうだけど声優さんは誰になるんだろ?笑
ジュネーブ先輩もなんか救われてくれ…読んでる方としては面白いんだけどさ
もう2人の問題どうでもよくね?ってぐらい深刻になっているな 筆談じゃダメなのかね…?
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