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471.一方その頃





「――よし、始めっか」


 廊下の奥へ向かうクノンが見えなくなった。


 ただでさえ露骨に暗いのだ。

 どれほど離れたかはわからないが、始めていいだろう。


 サンドラは、とりあえず水を流すことにした。


 廊下は広い。

 外観に寄らないので、恐らく想像以上に広い。


 ひとまず、端っこまで水を広げてみたい。

 それで大まかな規模はわかるだろう。


 水の後始末は……クノンに任せよう。


 なんとでもなるだろう。

 器用なあいつなら。


 サンドラの眼前に生まれたのは、大きな「水球」が一つ。


 クノンの得意な初級魔術「水球(ア・オリ)」だ。


 生まれた「水球」に魔力を流し続け。

 浮いた水球からは、止めどなく水が溢れる。


 さながら小さな滝のように。


 そして、水量が多い。

 小さい滝なのに、なかなか激しく出ている。


 すでに床一面は水浸しで。

 どんどん廊下の先へ、闇の奥へと流れて広がっていく。


「で、これか」


 クノンから受け取った、「洗泡(ア・ルブ)」を固めたという球体。


 洗剤の代わりと言っていたが、実際どんなものなのか。


 とりあえず二個ほど、「水球」の中に入れてみた。


 途端。

 ぼこぼこぼこ、と、すごい勢いで泡が発生し始めた。


「……くそ。あいつやっぱすげぇな」


 認めたくはないが。

 認めざるを得ない。


 クノンの渡した球体は、「洗泡(ア・ルブ)」を固めたもの。


 実際そうなのだろう。


 しかし、原理はそう単純じゃない。


 これは逆の発想だ。


 泡が出ているのではなく。

 触れた水を泡に変換している。


 石鹸のように擦り減るわけではなく。

 魔力が切れるまで、水を泡に変え続けるのだ。


 何がすごいかって、効率だ。


 直接泡を出すより、水を変換した方が泡の発生量が多い。

 それだけ効率的に掃除できるというわけだ。


 些細な差かもしれないが。

 効率がいい方が都合がいいのは確かだ。


「……気に入らねぇけど」


 やはり、クノンはかなりできる。


 特に。

 サンドラの苦手分野が得意だ。


 この先もうないかもしれない。

 一緒に何かする機会なんて。


 これは本当にいい機会だ。

 色々聞いてみよう。


 幸い、他に誰もいない。


 ちょっと黒いもやとか。

 人魂とか。

 床を這う人型の影とか。

 窓からこちらを見ている女とか。


 目の錯覚では済ませられないものも見えるが。

 はっきりくっきる見えるが。

 周囲にいるが。


 しゃべらないならどうでもいい。


 他の特級生に知られると恥ずかしいが。

 ユシータやカシスにだけは、絶対に知られたくないが。


 二人きりの今なら。

 今だったら。


 少しは素直におしゃべりできる気が――


「……あ?」


  がり、がり、がり


 何かを削るような音に、思考が止まる。


 クノンが消えた方向とは逆。

 廊下の暗闇の先から、聞こえる。


  ばしゃん、ばしゃん


 水びたしの床を、誰かが踏んでいる。

 一定のリズムで。


 それはどんどん近くなっていく。


 がりがり、と何かを削る音とともに。


 次第に。

 暗闇の奥に、巨大な影が見え始める。


「……」


 巨大な、見上げるほど巨大な、大男。


 そいつは全身真っ赤で。

 仮面をかぶっていて。

 大きな斧を引きずっていた。


 赤いのは、血だ。

 返り血だろうか。

 斧にもべったりと血がついている。


 仮面の奥で、ぎらぎらと殺意に光る目は。


 サンドラに向いている。





「――てめえ!」


 その姿を認識した瞬間。


 サンドラは、水をまとった拳で、斧の大男を殴り飛ばしていた。


 重い拳だった。

 二倍以上あるだろう重量差などものともしないほどに。


 呆気なくぶっ飛ばせるほどに。


「こっちは掃除してんだよ! きったねえ格好でうろうろしてんじゃねえ! きったねぇな!」


 隅っこで大人しくしてろ、と言うが先か。


 闇の奥へと殴り飛ばした大男の気配は、どこかへと消えてしまった。


「ったく。うちの男どもかよ」


 故郷の父親や兄たちも、こんなんだった。


 外から帰ってきた格好でうろうろして。

 母やサンドラ、使用人たちによく怒られていた。


 ……まあ、サンドラもよく怒られたが。


「……あれ?」


 さっきまで、何か考えていた気がするが。


 思い出せない。





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― 新着の感想 ―
洗泡も魔道具にしちまえば売れそうだね サンドラの力も魔道具で調整出来たら良いのに…赤く塗ってツノ付きなサンドラ専用機!
ジェイソーンーッ! 脅かし役のお化け「そりゃないぜ」
そういえば、フライボートでの魔力調整は上手くいってるのかな。
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