467.仲間を探そう
「魔系塗料に近いんだ。
だから魔的要素を含んだ水や洗剤が有効だが、君なら何もいらないだろう」
クラヴィスから詳しく聞いてみる。
第一校舎の掃除。
具体的には、あそこに住んでいる「何か」が汚した箇所、あるいは痕跡の除去。
「魔系塗料か……」
魔系塗料と言えば。
魔人の腕開発実験の際。
床にびっしり描かれていた魔法陣も、魔系塗料が私用されていた
ただ、あれは特別な塗料だった。
貴重な素材をふんだんに使用した、貴重なものだった。
それだけに、簡単には落とせないほど強力だった。
弱い魔術なら、どれだけ当たっても壊せないほどに。
校舎の汚れは、あのレベルの頑固な汚れなのだろうか?
いや、さすがにないか。
だが、もしそうだったら、苦労しそうである。
まあ、その辺は現場を見てからか。
見えないが。
「わかりました。
詳しくは現場で教えてください。
いつから取り掛かればいいですか?」
「すぐにでも始めてほしい。
ただ、私は用事があるから、ずっと一緒にはいられないんだ。
だから説明だけは今日聞いておいてほしい」
魔術学校の教師は忙しい。
クラヴィスもその例に漏れないわけだ。
「それと、君の同期の聖女レイエス。
彼女は同行させないでくれ」
「え?」
――噂に聞くと、第一校舎は幽霊がいるそうだ。
まあ実際いる。
実際会っているので、クノンは知っている。
そのせいで、魔術学校の関係者はだいぶ敬遠しているそうだ。
特に特級クラスの何人か。
知的好奇心旺盛な生徒たちが、実際行ったことがあるとかないとか。
遊び半分で行ってみて。
何があったのか「二度と行かない」と言い切るようになってしまった。
まあ、何かあったんだろう。
あるいは見たのだろう。
そんな場所だけに、来てくれそうな生徒がいるかどうか。
――そこで、聖女レイエスである。
感情が欠落している彼女である。
きっと恐怖の感情も欠落している。
彼女なら来てくれそうだ、と。
何が出ようが平然としているだろう、と。
思っていたのだが。
……。
そういえば、彼女はもうセントランスから帰ってきているのだろうか。
特級クラスは、休むのも登校するのも自由。
進級問題は単位のみ。
だから、始業式だ新年度だと気にする必要はないのだ。
後で確認しておこう。
仕事の話もある。
「クノンはもう知っているだろう?
あそこには霊的な存在がたくさん住んでいる。実際にね」
知っている。
なんならエスコートもしてもらった。
あの冷たい手を、ちゃんと覚えている。
「光属性は、彼らを容易に消すことができてしまう。
そしてセントランスの教義として。
彷徨う霊は神の身許に還すべき、という教えがあってね」
なるほど。
「レイエス嬢、霊たちを消しちゃうんですね」
彼女はやるだろう。
教義にあるなら。
たとえ誰に言われても。
言われなくても。
「先生は霊を消したくないんですね」
クノンが言うと、クラヴィスの目が細くなる。
「私の友人だった者もいるからね。
彼らが自分の意思で天に還りたいと思わない限り、この世にいてほしい」
その声は、目の前のクノンをすり抜けて。
どこか遠く。
はるか遠い誰かへ向けているかのようだ。
「生者ばかりが存在している世界じゃない。
だから、死者が存在していてもいいと、私は思っているよ」
後ほどクラヴィスと会う約束をして。
クノンは自身の教室に戻ってきた。
「誰かいるかな……」
誰なら手伝ってくれそうかを考えながら。
第一校舎。
多くの者が恐れる場所。
それだけに、誰を誘っていいやら。
そして目的は掃除だ。
だから、どの属性でもいい、というわけでもないと思う。
まず光、闇、魔。
希少属性はスケジュールが……いや。
今回ばかりは、有効かどうかだろうか。
掃除には、あまり効果があるとは思えない。
火は除外だろうか。
風と土は、いてくれると助かりそうだ。
水は自分がいればいいだろう。
ただ、校舎一つ分の掃除と言われれば、範囲が広そうではある。
効率を考えるなら。
水魔術師があと一人か二人いて、手分けして作業すれば。
だいぶ早く済むと思うが。
「……まあいいか!」
クノンは必要になりそうな荷物を持って、教室を出た。
今年度の挨拶がてら。
三派閥の拠点へ行ってみよう。
そこで会った顔見知りの先輩方。
特にレディたちに、話を持ち掛けてみよう。
場所が場所だ。
断る者が続出しそうだが。
それでも何人かは捕まえられるだろう。
……と、この時のクノンは思っていた。
「……今更だけど、あたしでよかった?」
「全然問題ないですよ!」
紆余曲折あって。
クノンは第一校舎の前に立っていた。
「合理の派閥」サンドラとともに。





