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462.幕間  狂炎王子の悩み





「――やはりわからないか」


 これだけ探しても見つからないのであれば。


 もう、接触するのは難しそうだ。


「教師側が気を遣っているように見えたであります」


「そうだな。

 教師たちの口が堅いことから察するに、公には出てこられない理由があるんだろう」


 友人兼護衛たちの言葉に、ジオエリオンは頷いた。


「わかった、もういい。諦める」


 踵を返し、帰途につくことにした。





 この数日。

 狂炎王子ことジオエリオンは、あの褐色肌の女の子を探していた。


 友人イルヒ、ガスイースにも協力を仰ぎ。

 放課後の極々短い自由時間を使い、探し回った結果。


 見つからなかった。

 見つからなかったどころか、名前さえわからなかった。


 それも、ただ見つからなかったわけではなく。


 教師側。

 あるいは魔術学校側。


 そちらが口を閉ざしている節があり、ジオエリオンは諦めた。


 教師たちが秘匿している。

 ならば探すのは困難だろう。


 そして、目撃情報などから考えるに、あの子はこの学校の生徒ではない可能性が高い。


 こうなるともう無理だ。


「諦めるのか、ジオ様?」


「ああ、このまま続けても時間の無駄になると思う」


 校舎を出て、学校の敷地を出て。


 まっすぐ帰宅の道を行く。


「……探すほどすごかったでありますか?」


 イルヒの質問に、ジオエリオンは迷いなく頷く。


「ああ、すごかった。完全に抑え込まれた」


 ――あの二対二の魔術戦。


 あれから数日が過ぎ。

 方々走り回って魔術戦の情報を集めていた者たちが、解析を進める中。


 ジオエリオンの関心は、彼女に向いていた。


「あの感覚からして、彼女は二ツ星だ。

 魔力量は多くなかった。


 にも拘わらず、俺は負けた」


 ジオエリオンは、見慣れぬ褐色肌の子と、魔力操作で勝負した。


 その結果。

 普通に負けた。


 シンプルな魔力での勝負で負けたのは、初めてだった。


 ジオエリオンは三ツ星。

 魔力量は多いし、幸い魔力操作もそれなりに得意だ。


 教師たちには敵わないまでも。

 同年代に負けることなど、まずなかった。


 ……まあ、今回のことで三派閥の代表という女とも事を構えたのだが。


 井の中の蛙だった、とは、少し思っている。


 やはり特級クラスは違う。

 二級クラスとは、まったく違う。


 あれほどできるのが何人もいるなら、驚異的である。


 許されるものなら、特級クラスで過ごしたいものだ。


「俺が彼女に勝てていれば、勝負の行方は変わっていたはずだ」


 自分があの子に勝てなかった。


 それゆえ。

 クノンに捨て身の戦法を取らせてしまった。


 攻撃役は自分だった。

 そして自分は、あの子の防御を突き崩せなかった。


 役目を果たすことができなかったのだ。

 最近、そんな後悔を抱えている。


 あれからクノンには会えていない。


 自分は役目を果たせなかった。

 彼の期待を裏切ってしまったのではないか――。


 ジオエリオンはそう考え、少し、クノンとの再会を恐れている。

 

「勝負の行方かー。

 自分としては、ジオ様もクノン殿も無事生きていた。


 それだけで充分だと思うでありますよ」


 イルヒの言い分も、わからなくはない。


 ジオエリオン自身も、あの爆発を食らって、意識を失ったのだ。

 死ぬほど痛い記憶だけ残っている。


 ――まあ、実際死んだのだが。


「私もそう思う。

 あれはさすがに死んだんじゃないかと思ったからな」


 ガスイースの言う通りだ。


 ――実際死んだことも含めて。


「まあまあ、いいじゃないですか。

 あの子との再会を諦めたのであれば、気持ちを切り替えましょう」


 宣言するイルヒの声が、少し高くなった。


「じき終業日であります。そろそろ帰郷の準備を始めましょう」


「……そうだな」


 あの子と会って、話をして。


 改めて魔力勝負をもう一度……と、思っていたのだが。


 彼女との再会は諦めるしかないだろう。


 となれば、違う予定を進めるべきだ。


「土産を買わないとな」


 身内に。

 特に下の弟妹に。


 ディラシックは魔術師の街。

 ここにあるものは、帝国ではそれなりに珍しいものばかりだ。


 毎回弟妹は楽しみにしているので、持って行かないわけにはいかない。


「何がいいだろうな」


「飛行盤であります」


「飛行盤だな」


 魔道式飛行盤は大人気だ。


 ジオエリオンはクノンからプレゼントしてもらったが。


 なんというか。

 もう二、三枚あってもいいな、と思っている。


 なんでも、色々と調整できるのだとか。


 速度とか。

 高度とか。

 加速度とか。


 クノンから貰ったものは、あまりいじりたくない。

 もっと言うと大切に取っておきたい。


 傷つけたり壊したりしたくないから。


 まあ、もっとも。


 時間の都合で、まだまだ満足に乗り回せていないのだが。


「予約待ちだと言っていなかったか?」


 まだ発売されて間もないのに、三ヵ月の予約待ちだった。

 発売当初に予約して、だ。


 今はどうなっているのだろう。

 きっと半年から一年待ちとか、そんなことになっているのではなかろうか。


 納得はできるが。


 空を飛ぶのは風属性のみ。

 その常識を打ち破る魔道具だ。


 もはや夢の結晶である。


 空を飛びたい魔術師は多いのだ。

 風魔術師の「飛行」に憧れている者は多いのだ。


「そうだ。今度の帰郷、クノン殿も誘ってみたらどうだ?」


 長期休暇を、クノンと一緒に、帝国で。


 望まないわけがない。

 実際何度か誘いたいと思ったことはある。


 が。


「帝国は堅苦しいからな。

 おまけに滞在は王城になる。クノンには向かないだろう」


 そう思うからこそ誘わない。

 立場上、意図せぬプレッシャーを掛けてしまいそうだから、余計に。


 それに、だ。


 ……今は会いづらい。


 あの魔術戦。

 クノンはどう思っているのだろう。


 攻撃役として機能しなかったジオエリオンを、不甲斐ないと思ってやしないだろうか。


 狂炎王子なんて呼ばれて調子に乗ってるくせに同年代の女の子に負けた、とか。

 三ツ星なのに二ツ星の同じ属性に力負けした、とか。

 もっと言うなら年下に負けたとか。


 そう思ってやしないだろうか。


 クノンは三派閥代表の猛攻を掻い潜って攻撃を仕掛けたのに。

 自分は完全に抑え込まれていた。


 こんな不甲斐ない先輩を。

 親愛なる後輩は許してくれるだろうか。

 

 ……帝国へ発つ前に、なんとか解決したい悩みである。


 こんな頭が痛い問題を抱えて何週間も空けるのは、さすがに堪える。





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― 新着の感想 ―
魔術や不思議素材、造魔、名前忘れたけど使用人3号こと他人に変身出来る人。 以前お互いどちらかの性別が違えば……。って言ってたけど、今ならジオ様性別変えてヒロイン枠目指せますよ
薄い本を書く文才がないのが悔やまれる
グレイちゃん(二ツ星)の肉体で中級連発できるならクノンも中級連発できるようになるのかな? 影の魔術は属性を問わず、二ツ星でも使えるのか...
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