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456.容赦しない





 防御こそした。

 だが、ほぼ直撃はしている。


 大きな落雷の音が、耳の奥に残っている気がする。


 ――シロトによる、開幕の雷。


 これは読めていた。


 読めないにしても。

 雷は光のような速度でやってくる。


 先に防御を固めておかないと対応できない。


 クノンの初手は、「水球」による雷への対処。

 それと周辺一帯に水の領域を展開すること。


 そして――


「クノン、打ち合わせ通りでいいな?」


「はい、問題ありません」


 ジオエリオンは火蝶を展開した。


 彼の分担は攻撃のみ。

 攻撃に集中するだけ。


 開始前に、簡単に決めていた役割分担だ。


 即興のコンビである。

 相談する間もなかった。


 だから、方針だけ決めた。


「防御と補助は任せるぞ。

 俺は絶対にどちらもしない。君を信じる」


「わかりました!」


 と、クノンは二段構えの「水球」に乗って飛ぶ。


 雷対策の外皮にあたる真水製の「水球」と。

 偉そうな格好の、中の「水球」である。


 格好がアレらしい、という話は知っているが。


 やはりこの格好が安定するのだ。

 代案がない以上、今回もこれでいい。


 激しく飛び回ることになるだろう。

 ならば、やはり、慣れているこの形だ。





 クノンはまず、ジオエリオンから離れた。


 二対二の魔術戦。

 これに関して考えた結果、セオリーらしき流れを考案した。


 まず、できるだけ相方と距離を取る。

 これが最優先だ。


 これは相手からの攻撃を分散するためである。


 二級の生徒にも、できるだけ離れるよう伝えた。

 魔法陣ありなので限度はあったが。


 一ヵ所にいたら、集中攻撃されてしまう。

 最悪、二人同時にやられてしまう。


 しかし片方が離れることで、攻撃箇所が二つになるのだ。


 もし片方を集中攻撃されたら?


 それならフリーの片方が、攻撃に集中している相手を攻めるに決まっている。

 きっと無防備だから。


 二対二は、どれだけフリーになる時間を増やせるか、だ。

 フリーになれば、やりたい放題できるから。


 逆に言うと、相手をフリーにしないこと。


 これが鉄則だ……と、一応の結論が出た。

 実際やってみたら、また変わってくるかもしれないが。


 ――飛びながら、どんどん「水球」を作り出していく。


 今回は全力だ。

 出し惜しみはしない。


 様々な効果のある「水球」を出していく。


 傍目には、ただの「水球」にしか見えないだろう。

 しかし実際は違う。


 時間差、条件付き、特性。


 思いつく限りの補助用「水球」を作っておく。


 最悪、自分がやられても。

 最後までジオエリオンの力になれるように。


「おっと」


 展開した「水球」を押しのけるようにして、風が飛んできた。


 何度か雷が飛んできていたが。

 それは防御していた。


 この辺で、シロトは雷では対処できないと判断したらしい。


 ここからは風が来る。


 注意せねば。

 一応保険も掛けているが、それでは対応できない攻撃もあるだろうから。

 

「――よし」


 クノンの仕掛けが大体できた頃。

 ジオエリオンの仕掛けも終わったらしい。


 火蝶が動き出す。


 速度はない。

 だが、その火でできた蝶は、翻弄するようにゆっくりと対象へ舞っていく。


 そこに――。


「水球」の一つが『砲魚(ア・オルヴィ)』となって、火蝶を撃ち落とした。


 いや、違う。


 蝶は水と同化して。

 火の矢となる。


 水が燃える。

 糸のように細長い水が、恐ろしい速度で、シロトたちへと向かって飛ぶ。


 それを皮切りに、何本もの火の矢が発生する。


 中には「砲魚(ア・オルヴィ)」そのものも混じっている。

 人体くらいは貫く、凶悪なやつが。


 周囲、頭上、背後からも。

 猛攻と呼んで差し支えないだろう数の攻撃が、シロトらを襲う。


 ……が、それは触れる前に弾かれた。


 風による防御だ。


 そして――弾かれた火が消えない。


 球体状に渦巻く見えない風の防御を、浮き彫りにするように。


 少しずつ大きくなっていく火は。

 いつの間にか、青く燃え盛っていた。


 あれはグレイちゃんの魔術だ。

 ジオエリオンの火を集めている、ようだ。


 ――タイムリミットだ、とクノンは思った。


 一定まで溜まったらこれを使って反撃するぞ、という。

 きっとグレイちゃんからのメッセージだ。


 つまり。


 グレイちゃんが動く前に、攻勢に出ろ。

 できることならシロトを倒せ、と。


 そういうことだろう。









「――さすがクノンだな」


 シロトの初手、「雷光」は防がれた。


「雷光」は、異名として広まっている。

 クノンはシロトの雷を食らったことがある。


 これで対策を考えないわけがない。

 現にクノンは、見事に防いで見せた。


 いつか相対する機会があったら。

 そう考えて、以前から雷対策を考えていたのだろう。


 ジオエリオンはわからないが。

 クノンの実力は認めている。


 研究熱心なところも。

 好奇心旺盛なところも。

 変わり者の紳士なところも。


「雷光」が効かないとなると、勝てるかどうか怪しいと思うくらいには。


 認めているつもりだ。


「容赦ないね」


 グレイは苦笑しているが。


「ただの挨拶代わりだ」


 その挨拶が終わった頃。


 シロトらの周囲には「水球」と。

 蝶の形をした「火種(カ・シ)」が飛んでいた。


 とんでもない数だ。

 双方、百以上はあると思う。


 ほんの一瞬のことなのに。

 随分可愛げのないことをしてくれる。


「……やはり効かないか」


 クノンが「水球」に乗り、飛び始めた。


 雷で狙ってみるが、やはり効果はない。

 この試合、もう雷は使い処がなさそうだ。


「どうする? 手伝おうか?」


「私の手が届かない時は助けてくれ。それ以外は好きにしていい――いや、そう言うとすぐ終わりそうだな」


「大丈夫、加減するよ。


 うーん、そうだね、じゃあシロトお姉ちゃんが対処できないのは処理するね」


「頼む」


 火蝶が動き出した。

 それに合わせて。


「水球」の一つが形を変え、細長くなり、「放水」となって飛ぶ。

 それが蝶を撃ち抜いた。


 この現象は……と、考える間もなく。


 それは火でできた一矢となり、恐ろしい速度で飛来した。


「クノンらしいな」


 風で弾いた。

 上や背後からもやってくるので、風を球体のように流して。


 どんどん飛んでくるのも、同じように対処する。


 ……周囲に青い火が蓄積していく。


「まさか……私はしくじっているか?」


 グレイの言葉は「対処できないのは処理する」だ。


 つまり、この青い火は。

 シロトが対処できなかった火、である。


「うん。この火、風の防御を抜けてるね。

風迅(フ・ジラ)』じゃ防御できてないよ」


「……本当か?」


「正確に言うと、燃えてる水は弾いてるけど火は通るみたい。


 この『火種(カ・シ)』は二重なんだよ。

 今シロトお姉ちゃんが防御に使ってる『風迅(フ・ジラ)』より、込められている魔力が断然多いんだよね」


「狂炎か……思った以上に厄介だな」


 ジオエリオンの火は、ただの火ではない。

 あれは対象に当たると、激しく燃え上がる。


 どうやらクノンの水に触れても、その特徴は残っているらしい。


 当たる。

 炸裂する。


 後半の炸裂を、この風では防御できていないらしい。


「これぞコンビ戦だね。

火種(カ・シ)』の速度を、『砲魚(ア・オルヴィ)』が補ってる。


 即興にしてはうまいこと合わせるもんだね」


 こうなると、戦法を変えるしかない。


「グレイ、防御と牽制を頼む。私の方に攻撃が集中しないようにしてくれ」


「わかった」


 シロトは見上げた。

 視線の先には、クノンがいる。


 ずっと水を展開し続けている。

 本当に厄介である。


 ――まず、こいつを落とす。


 さっき何度か牽制はしたが。

 普通に避けられていた。


 ここからは、集中する。


 クノンさえ潰せば「雷光」の防御がなくなる。

 そうなれば勝負ありだ。


 たぶんジオエリオンは対処できないだろうから。


 しかし、だ。


「……」


「……」


 意識を集中するシロトと。

 眼帯を巻いていて、見えないはずのクノンの目が。


 しっかりと噛み合った。


 ――当然、クノンはこの展開を考慮していたのだろう。


 シロトの行動を予想していた。


 まず自分を最優先で狙うだろう、と。


「防御を頼む!」


 止めどなく襲い来る火と「砲魚(ア・オルヴィ)」。


 グレイに対処を頼んで、それを防いでいた風を止め。


 シロトは宙に浮かぶクノンに狙いを定めた。


「――『風真裂災(フ・カジュラフ)』!」


 無数の真空の刃を飛ばす、中級魔術だ。


 効果範囲も広く、速度もある。

 非常に使いやすい、殺傷力の高い魔術だ。


 もちろん、人間くらい簡単に切断する。

 まともに当たれば一たまりもない。


 クノンは当然避ける。


 追い掛けるように「風迅(フ・ジラ)」を連発し。

 時々、「風真裂災(フ・カジュラフ)」を放つ。


 ――これで、仕込みはできた。


 小細工が得意な魔術師は、クノンだけではない。


「本当に容赦ないね」


「油断したら負けるからな」









「あ、あぶなっ、あぶなっ!」


 飛んでいるクノンは、「風真裂災フ・カジュラフ」を必死で回避していた。


 これはまずい。

 速度もあるし、何より「水球」が斬れてしまう。


 ただの風ならなんとかなりそうだが。

 刃物への耐性は、ないのだ。


 シロトは本気である。

 本気で自分を狙ってきている。


 ――ジオエリオンの攻撃を補助し、雷対策を絶やさず、逃げ回る。


 さすがにやることが多すぎた。

 他に気が回らないほどに。


 しくじった、というより。

 順当に追い込まれた、というべきだろう。


 ただの一つのことだけに集中できれば、話は違っていたはずだ。


「――っ!?」


 気付いただけでも賞賛ものである。


 クノンは動揺した。

 それでも魔術の操作を止めなかったことを、自分で褒めてやりたいくらいに。


 ――通り過ぎた真空の刃が、戻ってきた。


 クノンの背後から。

 これまで避けた六発分が。


 広く広く展開して。

 避けられない広範囲に。


 どうする。

 どうすればいい。


「しまっ――!」


 気付いた一瞬。

 気が逸れた一瞬。

 思考する一瞬。


 その一瞬は、許されなかった。


 変わらず連打されていた「風迅(フ・ジラ)」が。

 クノンの乗る「水球」に当たってしまった。


 大きく体勢が崩れた。


 そして、真空の刃が雨のように降ってくる。





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― 新着の感想 ―
クノンは受けダルルぉ?!
2対2なら距離を取るべきってセオリーはグレイちゃんが2対2に求めてるものから離れてる気がする 個人的な妄想+ありがちな設定として、影の魔法は属性が付与される前の魔法かあるいは複数の属性が混ざった魔法…
残念、それは残像だ…
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