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449.対抗戦当日





「――不安だよぉカシス君……」


「――ヤバイ。毎年上がってるけど、今回特に上がってる。入学試験の時より胃がヤバイ」


「――吐きそうだし洩らしそう……」


「――カシスちゃんだろ!


 今から緊張しててどうすんの! やることはやったんだから、あとはやるだけよ! 女でしょ! 女ならやってやれ!


 あとあんたはトイレ行け! 早く行け!」


 向こうは盛り上がってるなぁ、とクノンは思った。


 早朝、何もない登校途中のいつもの場所で。

 育成計画の関係者が集まっていた。


 いよいよだ。

 二級クラス対抗戦当日がやってきたのだ。


 特級の四人は、受け持った二級生徒へ、最後の激励をする。


 特に、カシスが面倒を見た女子三人だ。

 最初こそどうなるかと思ったが、今はとても仲が良さそうだ。


 女性たちの結束。

 女子たちの友情とは美しいな、とクノンは思う。


 ……そんな女性たちだが。


 かつての侍女イコは言っていた。

 仲良し女子グループとは、得てして一人でも恋人ができたら脆くも崩れ去るものだ、と……。


 彼女らを見ていると想像もできないことである。

 でも、きっと、何かは起こるのだろう。


 そんな現象も、女性の神秘と言えるのかもしれない。


「クノン?」


 いや、女性の神秘はいいのだ。


 気が逸れていたクノンは、目の前の三人に意識を向ける。


「正直、僕から言うことはないよ」


 アゼル、デュオ、ラディア。

 僭越ながらクノンが教えた生徒たち。


 ――はっきり言って、三人とも、とても優秀だった。


 身分的に難しいかもしれないが。

 もし特級クラスに上がって、思う存分魔術に打ち込める環境を手に入れたら。


 充分通用すると思う。

 もっと言うと、今すぐ所属しても大丈夫だろう。


 アゼルは豊富な魔力量がある。

 まだ魔力操作が追いついていないが、それを差し引いても充分優秀だ。


 デュオは魔術、操作、知識と、非常にバランスがいい。

 このまま磨いて行けば、とても優秀な魔術師に慣れるだろう。


 ラディアも優秀だが、特に発想が面白い。

 魔術の好みと傾向を取るなら、彼女はクノンに似ていると思う。

 たぶんものすごく気が合う。


 そんな彼らが、一週間。

 一切手を抜かずに努力し、各々の魔術を追及した。


 カシスの言った通りだ。


 やることはやった。

 クノンも、アゼルたちも。


 他の特級生もそうだろうし。

 この計画に関係ない二級クラスの生徒も、きっと同じだろう。


 皆、勝つために努力したはずだ。


 あとは、勝たせてあげたい。

 その努力を実らせてあげたい。


 ……まあ、どれだけ願おうと、もう見守ることしかできないが。


「急に対抗戦の形式が変わったから、懸念もあるとは思う」


 対抗戦の一分が、コンビ戦に変わったのだ。


 かなり急なことで。

 準備期間も満足に取れなかった。


「でも、条件は皆一緒だからね」


 ここにいる二級生徒もそうだし。

 ここにいない生徒もそうだ。


 限られた時間で、コンビ戦について考えたはずだ。


「誰もよく知らないものだから、単純な実力勝負になる場面が多いと思う。


 でも、それなら負ける理由がないでしょ。


 君たちは強いからね。

 だから、落ち着いて頑張ってね」


 あまり気の利いたことは、言えなかったかもしれない。


 でも、その必要もないだろう。

 実際、彼らの実力は確かなのだから。






「今回の対抗戦は、公開されるそうです」


 二級の生徒たちを送り出す。


 あとは隠れて対抗戦の見学を……という流れなのだが。


「は? 公開?」


 ルルォメットの言葉に、ベイルが反応する。


「二対二の魔術戦。

 これまでに類を見ない、新しい取り組みになります。


 誰もが興味を持ち、見学を希望した。


 特級生はもちろんのこと。

 中には教師も含まれており、とにかく人数が増えた。


 以上のことから、公開が決定したそうです」


 それはわかる、とクノンは思った。


 急遽決まったコンビ戦に関して。

 クノンたちは大いに話し合い、考えつく限りの可能性を模索した。


 ――面白くないわけがない。


 誰かと魔術を合わせる。

 その結果、想像を超えた効果が生まれるかもしれない。


 先日の魔人の腕開発実験。

 あの時も、異なる属性の魔術師たちが集まり、一つの目標を目指した。


 時に魔術を放ち、掛け合わせて。


 あの時感じた可能性を、再び感じる。


 恐らくシロトも、同じものを感じたのだと思う。

 だからこそ二対二の構図を考案した。


 きっとそうだと思う。


「そんな大事になってんのか?」


 ベイルを含めて。


 クノンらはとにかく、コンビ戦に集中していた。

 だから、周囲の反応は知らなかった。


「ええ、思いのほか大事になっていますよ。


 そもそもの話、あのグレイ・ルーヴァが興味を持ったから、特例が出たのだとか」


 グレイちゃん、いや、グレイ・ルーヴァが動いたらしい。


 まあ、魔術師なら興味が向いてもおかしくない。


 あのグレイ・ルーヴァなら、二対二……、

 というか。

 魔術同士を掛け合わせる技術は、すでに学び試行を重ねている気はするのだが。


 それでも興味があるのだろうか。


「まあ、実際面白そうだもんな」


「そうですね。新たな魔術体系の発見にも繋がるかもしれません」


 なるほど新たな魔術体系か、とクノンは頷く。


 確かに、何かしらの法則があるかもしれない。


 魔術と魔術を掛け合わせることで。

 違う魔術が誕生する……かも。


 それを発見できれば、新しい何かが生まれる可能性も充分考えられる。


「代表、早く行きましょう」


 オレアモがベイルを呼ぶ。


 カシスもあらぬ方を向いている。

 視線の先は、対抗戦が行われる校舎だ。


 考えることは一緒なのだろう。


 ただの力比べ、魔術勝負ではない、何か。

 それが、これから誕生するかもしれない。


 クノンの気持ちも高ぶってきた。 





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― 新着の感想 ―
魔術が武器として認識されてるなら、タッグ戦どころかチーム戦が既にあってもおかしくないとは思う
そうか、死人云々が問題になってたけどグレイちゃんいるからなんも問題ないのか。まぁ結界ありになったけども
複数人で戦うのが初めててありえる? 昔の武士みたいに戦いでは一騎打ちが普通という設定なの?
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