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447.代案の魔術戦





 もうここで集まることはないだろう。


 そう思っていた、登校時の通り道。

 本当に何もない場所である。


 ――緊急事態の報を受け、再び、育成計画の参加者が集まっていた。


 ベイル、オレアモ、カシス。

 そしてクノン。


 四人とも、ほぼ同時に到着した。


 誰がどんなルートで情報を知ったのかはわからない。


 が。


 育成計画に掛ける想いと気持ち。

 それは強かったのだろう。

 

 だからこうして、すぐに全員が集まった。


 きっと全員。

 やっていたことを投げ出して、駆けつけたことだろう。


「いや、実は俺も詳しくは聞いてないんだが――」


 と、大騒ぎしていたベイルが、己が掴んだ情報を話す。


 曰く、二級クラスの朝の連絡事項で。

 教師から通達があったらしい。


「魔法陣なしの対抗戦は中止になったらしい」


「えぇ……」


 カシスが思いっきり顔をしかめた。


 そう。

 その発言はど真ん中なのだ。


 クノンらは、決戦用魔法陣を使わない。

 そんな対抗戦を想定して、二級の生徒に教えてきたのだ。

 

 その前提が覆ることになる。


 教え子たちの結果如何は、レポートには書かない。


 しかし、だ。


 肝心の対抗戦は、しなければならない。


 そこまでやらなければ。

 企画が成立しないのである。


 レポートの存在意義に拘わる。


 こんな企画をやりましたよ。

 二級クラスの生徒に教えましたよ。

 あれこれ教えて、こんなことができるようになりましたよ。


 で、結果は?


 レポートを読んで結果が気になったなら、その人が調べればいいのだ。


 四属性すべての条件が違う。

 スタートラインが違う。


 もっと言うと、教える特級生の学年も違う。


 クノンなんてまだ二年生だ。

 とてもじゃないが、公平なやり方をしたとは言いづらい。


 だから結果の記録は、あまり参考にならないと判断した。


 真に公平を。

 教育関係の資料や試行に。


 後々そう考えた者が継ぐだろうから、結果はその人が記録すればいいのだ。


「代表、なぜですか? 理由は?」


 オレアモは当然のように聞くが、ベイルは首を振る。


「そこまでは知らない。俺はそれだけ教えてもらっただけだ」


 まだ午前中だ。

 今、二級クラスは、授業の真っ最中だろう。


「……聞きに行きましょう!」


 クノンは提案した。


「これ以上の情報がここにない以上、新情報は知っている人に聞くしかないでしょう!」


 ――その新情報は、ついさっき会っていた聖女が知っていたのだが。


 そのことを、クノンはまだ知らない。


「でも今授業中だろ?」


「授業やってない準教師もいるかもしれないし、二級クラスの先生以外も知っているかもしれないじゃないですか!」


 とにかくじっとしていられない。


 クノンらがじっくり一週間掛けた企画だ。

 何ならクノンはレポートまで完成させているのだ。


 最悪無駄になるのは、まあ、仕方ないとして。


 でも、理由くらいは知っておきたい。

 何があって対抗戦がなくなったのか。


 納得できるかどうかは別として。


「そ、そうだな……どうせこのままじゃ何も手に付かないだろうし、とりあえず職員詰め所に行ってみるか!」


 こうして、四人は移動を開始した。





「――……少しばかり遅かった、か」


 足早に去っていく四つの背中。

 彼らの後ろ姿を、「合理」代表ルルォメットが、遠くから見ていた。


 今まさに合流しようとしていたのだが。

 四人はルルォメットに気付かず、行ってしまった。


 彼は一足先に事情を聞いてきたのだが。

 伝える間は、なかった。








 

「――クノン!」


 と。

 あるいはベイルだのオレアモだのカシスだの、と。


 何もないいつもの登校通路に。

 それぞれの教え子たちが、集団でやってきた。


 授業が終わり。

 今は、次の授業までの間にある、休憩時間らしい。


 特級生たちもそうだが。

 二級クラスの生徒たちにとっても、一大事だったということだ。


 きっとここで会える。

 誰も示し合わせていないが、きっと会えるだろうと思ってやってきたのだ。


 まあ、正解である。

 あの育成計画に入れ込んだ分だけ、一大事の度合いは強い。


 皆真剣に鍛えた。

 だから気持ちが強くて、居ても立ってもいられない。


 それだけの話だ。


「アゼル! デュオ!」


 表立ってアゼルと仲良くできないという、ラディアは来なかったが。


 それはクノンもわかっていたので、触れない。

 あとでこっそりアゼルから伝えてもらえばいいだろう。


「よし、ちょっと集まれ。休憩時間あんまりないだろ」


 全員が属性ごとに分かれたものの、ベイルが集める。


「時間がねぇから、確認だけするぞ」


 クノンらも、ついさっき事情を聞き。

 今後の方針を話そうとしていたところだ。


「防御用魔法陣なしの魔術戦は中止になった。

 これを教師から聞いたんだよな?」


 二級クラスの面々は頷く。


「で、代わりに何をするかも聞いたよな?」


 そう、一方的な中止じゃない。

 代案があって、そっちにシフトしたのだ。


 ――聞けばシロトが代案を提案し、それが教師たちの会議で通ったらしい。


 さすがだ、とクノンは思った。


 さすがシロトだ。

「調和の派閥」代表の肩書きは伊達ではない。


 ちゃんと代案として通用する案を考えた辺り。


 なんというか。

 非常に優秀である。


「じゃあ焦るな。動揺もしなくていいぜ。

 これまでやってきたことの全てが無駄になったわけじゃねえ。 


 考え方を変える必要が出てきただけ。

 たったそれだけの話だ」


 それは大した問題だと思うのだが。


 しかし、教え子たちの手前。

 一応は教師役だった特級生たちが、動揺を見せてはならない。


 語るベイルは堂々としたものだ。

 朝すごい焦っていた姿は、微塵も残っていない。


 内心はどうだかわからないが。


「それに、俺たちとしてはこっち(・・・)も気になるからな。


 ……本当に曲者だよな、あいつは」


 シロトのことだろう。


 ぼやく気持ちはよくわかる。


 決戦用魔法陣なし魔術戦も気になるが。

 シロトが考えた代案、クノンも気になっているから。


 むしろ、代案の方が見たいとさえ思えるくらいだ。

 見えないが。


「不満もあるだろうけど、もう決まったことだ。

 早めに気持ちを切り替えて、残り少ない時間で準備を進めてほしい。


 魔術界隈には、こういう急な変更ってのは多い。

 事故とか事件とか毎日のように起こっているしな。


 いちいち動揺してたら身が持たねぇぞ」


「それ、特級だけだと思いますけどね」


 カシスは指摘するが、ベイルは聞き流した。


「さあ、授業に戻れ!

 一応今日また何かしら教えるから、放課後話そうぜ!」


 ベイルは強引に話を締めて、二級生徒を追い返した。


 大した話はしていないが。

 余裕がある特級生たちを見て、彼らも少し落ち着いたようだ。





「……さて、俺らも少し考えないとな」


 ひとまず、上手いこと教え子たちをあしらうことには成功した。


 次は、放課後。

 改めて彼らと話す時だ。


「あの女、ほんと厄介……!」


 カシスがぼやく。


「あの女」とはシロトのことだろう。


 言いたくなる気持ちはわかる。

 だが、もう、言っていても仕方ない。


 ベイルじゃないが、決まったことだから。


「しかし興味がないと言えば嘘になる」


「そうですね」


 クノンとしては、オレアモと同じ気持ちだ。


「はいはいわかってるわよ。


 ……せっかく必勝コンボを教えたのに全部無駄だわ……」


 何それ気になる。


 まあ、その必勝コンボとやらは、いずれ必ず聞くとして。


「よし、俺たちも気持ちを切り替えよう」


 ベイルが一つ手を叩き、言った。


「――二人一組のコンビ戦だ。どんな戦法を思いつく?」


 そう。

 シロトの代案は、魔術師二人一組によるコンビ戦。


 これまで見たことがない形の魔術戦。

 長い魔術学校史でも、記録に残っていない新しい二対二。


 前例がない以上、安全確保が第一。

 何が起こるかわからないから。


 だから、安全のために決戦用魔法陣を必ず使う。


 シロトはこの辺を交渉材料に。

 コンビ戦という代案を押したそうだ。


 本当に、実にいいところを突いてくる。


 教師たちも気になったのだ。

 魔術師がコンビで魔術戦を行ったら、どんな勝負になるのか、と。


 見たいと思った。

 だから代案が通った。


 そしてそれは、クノンたちも同じだった。


 見たことのない魔術戦が行われる。

 そんなの気にならないわけがない。


 まあ、クノンは見えないが。


 ただ、特級生たちにとっても初めてなのだ。


 やったことはおろか。

 見たことさえない。


 更に言えば、そもそもコンビ戦という発想がなかった。


 誰かと協力して魔術戦を。

 そんなの、クノンだって考えたことがなかった。


 個人としての意識が強いからだろうか。


 ――とにかくだ。


 今のクノンらも、二級生徒と同じなのだ。


 知らないコンビ戦を想定して、何を教えるのか、教えられるのか。

 それを考えねばならない。





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チーム戦だと思ってたけどタッグマッチだったか
コメント欄でシロト嬢叩かれてるのおかしいだろ。学校なんだから死人が出ることが一番まずいってわからないか?死人が出ないように手加減するって言っても勝ちたいって生徒同士がやってたら熱くなればやり過ぎること…
M.A.V戦やんけ
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