442.属性違いの育成方針
面白い。
やはり教育や環境によって、思考がまったく違う。
――雨が止んだので、今日はいつもの道端に集まった。
そんな報告会四日目。
二級クラス育成計画に関わる四人は。
具体的に、魔術戦の育成を始めた。
その結果。
これまでの報告会とは、一味も二味も違う内容となった。
まだ、詳しくは話せない。
それだけに、だいぶ大雑把な報告になってしまったものの。
それでも、興味深い話だった。
「ふうん……なるほどなぁ」
ベイルが思案げになり。
オレアモが無言でメモを取り。
カシスも何か考え込み。
「面白いですね! こんなに差異があるんだ!」
クノンも興味津々で、メモを取っていた。
「確かに面白いな。
でもまあ、あたりまえって気もするけどな」
それも同感だ。
「属性が違えば、当然魔術戦のスタイルも違う。
その属性でしかできない戦い方があるんだから、当然ですよね」
クノンが思い出すのは、やはり師ゼオンリーのことだ。
一番魔術戦を交わした相手。
実力では一度も勝てなかった、尊敬する師。
以前、ゼオンリーがディラシックに来た時も。
結局負けてしまった。
いずれ実力でしっかり勝ちたいものだが――まあそれはともかく。
「他の属性の魔術戦のやり方やコツって、今まで聞いたことなかったかも」
カシスも思うことがあるようだ。
「土はあまり機動力を考えない、か……」
それだ。
確かに思い返せば。
魔術戦時のゼオンリーは、その場から動くことは少なかった。
まあ、決戦用魔法陣があると、あまり動けなくなる。
なので必然的に……という面もあると思うが。
――ベイルが教えたのは、「地面を使え」だ。
動く必要はない。
地面を使って、攻撃と防御を考えればいい。
だから魔術だけに集中しろ、と。
内容までは話せないが、こんな感じだった。
クノンはカシスに顔を向ける。
「風はやっぱり華麗な機動ですか?」
「あ、うん。私の結論ではね」
――カシスは「機動力を使え」と教えたそうだ。
土とはほぼ真逆。
機動、高速移動、または高速の攻撃。
相手の魔術は避ければいい。
どんな大技だって中級魔術だって、当たらなければ関係ない、と。
「カシス先輩にぴったりですね、可憐なところが」
「オレアモ君って魔術戦の経験多いの?」
「……あ、なんだ? 今私に話しかけたか?」
オレアモはずっとメモを取っていた。
恐らく、自分なりの推測なども書き込んでいるのだろう。
――そんな彼の教えは、「自分のテリトリーを作れ」だ。
火による自陣の展開。
それを広げていくだけで封殺できるから、と。
そう言われると、やはり思い出す。
ジオエリオンとの戦いを。
そう、彼もそうしていた。
自分の周辺一帯を火の海に変え、テリトリーを作っていた。
場を支配する。
そんな表現がよく似合う。
あの状態になると、飛べなければ勝負がついてしまいそうだ。
「それにしても厄介だな、風は。こんなの――」
「ストップ。それ以上言わないでくれる? 推測もまずいわ。……まあこのメンツなら、全員同じようなこと考えてそうだけどさ。
でもやめてね。
今はお互い、詳しく話すべきじゃないでしょ?」
「あ、そうか。
ぜひ意見のすり合わせをしたいんだが、まだ我慢しないとな」
その通りである。
詳しく知るのは、全部終わってからだ。
「それで……水か」
と、三人の視線がクノンに向けられる。
「なあ、おまえらどう思う?」
ベイルが問うと、カシスとオレアモは答えた。
「水ってなんかずるいよね」
「知ってはいたが、改めて言われると……水の可能性は多いよな」
「ふふふふふふ」
クノンは笑った。
「水ってすごいでしょ? 僕、水が最強だと思っていますから」
「は?」
「あ?」
「聞き捨てならないな」
まだ学生ではあるが。
皆、己の属性に誇りを持っている魔術師である。
――どの属性が最強とか、どの属性が一番優れているとか。
譲れない部分の話だ。
そういう話題は、少し荒れる。
◆
「じゃあ、始めようか」
やれアレができるから強い。
コレができるから最強だ、と。
そんな舌戦を繰り広げ、無駄に疲れた後。
今日の育成計画が始まる。
アゼルの屋敷に集い、テーブルに着き。
さらっとした軽い話をしながら、昼食を取る。
――しばしの休息は、クノンの「始めようか」の言葉で一変した。
「三人とも、考えてきたかな?」
アゼル、デュオ、ラディアに問う。
彼らに出した課題。
それは、魔術戦の軸となる魔術の選出、である。
軸となる魔術は、一番得意な魔術でいい。
咄嗟に出せるのが理想だ。
攻撃用でも、そうじゃなくてもいい。
それを軸に戦法を確立していくだけだから。
「俺はやっぱり『砲魚』かな」
デュオはそうだろう、とクノンは思っていた。
「私は『水霧』かしら……攻撃魔術でなくともいいのでしょう?」
「水霧」は霧の展開である。
この魔術、一応は初級となっているが。
クノンの感覚では、中級に近い初級魔術だと思っている。
魔力を強く込めれば広く展開するし、逆もありうるのだが。
この「広く展開する」の範囲が、かなり大きい。
教本には「軽はずみ試すな、すぐに魔術が枯渇する」とあった。
最初は実力者の監視下でやるように、と。
そんな注意書きが並んでいた。
「いいね。深い霧のヴェールに隠れた美女の正体は、君なんだね」
「何言ってるかわかりませんけど」
で、だ。
「アゼルは?」
「……すまん」
「やっぱり迷った? 君はそうだと思ってた」
アゼルは使える魔術が多い。
だから、なかなか決められないだろう。
広く浅く得意なのだ。
逆に言うと、これといったものが、まだないのかもしれない。
「まだ時間があるよな? もう少しだけ考えさせてくれ」
「わかった。
でも本当に時間がないから、早く決めないと君の勝率に関わるよ」
「そうだな。早く決める」
昨日、クノンが三人に教えたこと。
それは水魔術の特性についてだ。
水は、個体、液体、気体の三種類がある。
全員が知っていることだが、再確認してもらった。
そして教えた。
魔術戦においては、三つの特性を同時に二つ使えると非常に強い、と。
想像もつかない変化が起こったり。
とんでもない効果が現れたり。
特性を二つ合わせる。
それだけで、数多の魔術を作り出すことができるのだ。
……と、そんなことを教えた。
昨日、雨が降ったのは好都合だったかもしれない。
その分、じっくり話すことができたから。
軸となる魔術は、個体か液体か気体のどれか。
そしてその特性をサポートするように、ほかの要素を加える。
自身の経験からの結論である。
結局ゼオンリーには勝てなかったが、何度かいい感じに追い込めたことがある。
そして、今。
この教訓を得て、彼らはどれくらい伸びるのか。
伸びてくれるのか。
クノン自身、とても気になっていた。





