436.報告会
「いやあ、面白ぇな二級クラス。
想像以上に面白いことになってんな」
土属性。
「実力の派閥」代表であるベイルは、ニヤニヤしながら言う。
まず、クノンが教えることになったアゼルが帰宅。
そしてデュオも後を追うように行ってしまった。
一人だけ教わるわけには、と。
それを契機に。
各々の生徒たちも解散となった。
やはり今日は面通しだけ、様子見だけ、みたいな感じだったのかもしれない。
それと、今後のスケジュールの予定を立てた、とか。
――まあその辺はともかく。
「しかも逸材だった。
あいつら特級まで上がって来ねぇかな、『実力』向きだぜ」
二級クラスの生徒たちが解散すると、特級生たちは集まった。
「こちらも逸材でしたよ、代表。
魔術の腕だけ取れば、特級でも通用すると思います」
火属性。
同じく「実力」の一員、オレアモが言う。
「僕のところも同じでした」
水属性であるクノンも、同じ意見だ。
アゼルとデュオ。
魔術の腕も大事だが、何より評価したいのは「学びたい」という姿勢だ。
話してみてわかった。
彼らの向上心は非常に強い。
強さへの渇望。
執着。
目的がはっきりしている分、やりやすくもある。
――そして、彼らも「実力の派閥」向きだと思う。
一人でどんどん進み。
突き詰めて。
ひたすら腕を磨く。
その傾向が強いなら、やはり「実力」がいいだろう。
他の派閥は、横の繋がり……対人関係が求められるシーンが多いから。
……というか、皆そうなのかもしれない。
その傾向しかないだろう。
こんな集まりに来る時点で。
「カシス先輩はどうでした? 華麗かつ美麗に魔術の神髄を、その美声で美しく教えました? 僕も教えてほしいなぁ、華麗に」
実力向きだよねー、実力向きだよー、みたいなことを言っている間。
風属性。
「合理」のカシスは、なんだか微妙な顔をして、黙っていた。
気付いたクノンが問うと。
「……すっごい魔術以外の質問ばっかされた。
美容がどうとかダイエットとか。
髪の手入れとか。
すっごい髪触られたしスカート捲られそうになったし腹筋撫でまわされた。
……グイグイ来る女たちキライ……」
砂利が混じったような怨嗟の声だった。
どうも彼女たちは、カシスの性別のことを知っていたらしい。
なんというか。
なんとも返答に困る反応だ。
「……ああ、まあ、なんだ」
触れづらい話題と察して、ベイルが話を進める。
「今後は別々に教えていくことになるだろう。
このメンツで集まることは、もうないかもな」
クノンとしては同感だ。
今後はアゼルの家に集まり、じっくりやるつもりだ。
だから、このメンツで集まる機会はない。
――と、思ったのだが。
「待ってください、代表」
と、オレアモが異を唱えた。
「私たちは教師じゃない。人に教えるのも手探りになります。
教育方針はそれぞれで決めればいい。
だが、互いがどう教えているか、どんな方針で進めていくか。
その辺の情報の共有はしたいのです。後学のためにも」
「後学? おまえ教師志望だっけ?」
「それはまだ決めかねています。
でも、いずれまた同じような機会があるかもしれない。
その時に、きっと役に立つでしょう。
私は三人が何を教えるのか、単純に興味があります。
そして滅多にない機会だと思っていますので、余すことなく経験をものにしたいです」
「わかります」
クノンは唸った。
言われてみればその通りだ。
ベイルやオレアモ、カシスがどんな風に何を教えるのか。
興味がないわけがない。
たとえ属性が違っても、知っておいて損はない。
――師ジェニエも、師ゼオンリーも。
家庭教師になるなんて、考えもしなかったそうだ。
でも、数奇な縁があって、クノンの師になったのである。
きっと本人たちは予想もしていなかっただろう。
特にゼオンリーなんて。
そもそも人に何か教えられるタイプではないだろう。根本的に。
クノンにもあるかもしれない。
一から誰かに水魔術を教えることが。
その時に、役に立つかもしれない。
「そう、か……そう言われると俺も気にならないとは言えねぇな。
カシスはどうだ?」
「適当にぶん投げて帰りたいですけど」
どうやら今は、冷静に考えることができない精神状態のようだ。
「よし、じゃあ、こうするか。
明後日の午前中から、毎日どこかに集まって報告会をしようぜ」
午前中に報告会をやって。
それから二級クラスに教えて。
そして、翌日の午前中にまた報告会。
これを繰り返すわけか。
なるほど、二級クラスは午前中は授業がある。
その間なら、自由も利くだろう。
「カシスは……まあ、来れそうなら来てくれよ」
「来ますよ。ちゃんと。愚痴言いに」
「お、おう」
まあ、とにかく。
これで今後の方針が決定した。





