434.井の中の覇者
「――以上が特級クラスの四人になります」
ルルォメット立ち合いの元。
特級生と、二級クラスの面通しが行われた。
「では早速ですが、時間が惜しいので各属性で分かれましょうか」
本当に早速である。
誰にも質問や発言を求めることなく、ルルォメットは進行する。
まあ、文句はない。
この場の全員が「時間が惜しい」と思っているから。
彼の指示の下、四属性ごとに分かれてみた。
クノンの傍には、二人やってきた。
その内の一人は顔見知りである。
「彼らは上位勢になるそうです。
私見では、魔術の腕だけ取れば、特級クラスと然程差はないと思います」
上位勢。
荒れている二級クラス。
特にここ一年くらいは、頻繁に序列争いが行われているそうだ。
そこで、実力を示して勝ち上がった。
二級で魔術戦が強い人たち、というわけだ。
言ってしまえばアレだ。
二級クラスを統べる。
それができるだけの力が欲しい。
だから特級生に絡んできて、今ここにいる、と。
「知っておくべきことは、このくらいですね。
あとは皆さんにお任せします。
しばらく様子を見たら、私は行きますから。
よろしくお願いします」
さて。
「久しぶりだね、アゼル」
とりあえず、クノンは顔見知りに挨拶してみた。
「ああ。まさかこんな形で再会するとは思わなかったが」
アゼル。
彼とは、二級クラスに行った時に会った。
魔術戦で戦った相手だ。
さすがに忘れない。
――クノンとしては、あまり意外ではないかもしれない。
あの日会った時も。
彼は力を望んでいた節があったから。
ここにいるのも必然という気がする。
「あ、さっき紹介されたクノンです。君の名前は?」
アゼルは知っている。
だが、もう片方は知らない。
クノンより頭一つ大きい、ひょろりと背の高い男子。
最近、ものすごく大きなアイオンを見てきたせいだろう。
彼のことは、あまり大柄には思えない。
生徒としては大きい方だが。
「俺はデュオだ。ちなみに言うけど二歳くらい年上だから」
「あ、そうなんだ。……そうなんですか、って言った方がいい?」
一応、年上や先輩を立てるくらいの常識はある。
「そうしろ……と言いたいけど、いい。
俺は実力でおまえに負けた。序列的には逆らえん」
前にクノンが彼らに絡まれた時、デュオもいたのだろう。
あの時はアゼルはいなかったが。
「序列かぁ」
クノンは思いを馳せる。
「バカみたいか?」
「え?」
アゼルは言う。
「特級生には考えられないだろう?
狭く暗い井の中で覇者を争う、蛙たちのようではないか」
「いや?」
クノンは首を横に振る。
「すごく楽しそうだよね。
君たちが夢中になる理由がわかるよ。
僕としては、特級生は大人というか、局所的な専門家が多い気がするよ。
自分の得意分野を伸ばすとか、追及するとかね。
それ以外のことはあまり興味がないみたい」
最初の師ジェニエはともかく。
次の師ゼオンリーは、水属性じゃなかった。
だからこそ、水魔術以外のことを教えてくれた。
たくさん、いろんなことをした。
まあ基本的には、術式や方程式の座学が多かったが。
その中に、魔術戦もあった。
クノンとしては、これが結構楽しかったのだ。
どうやってゼオンリーの防御を破るのか。
何をしてもいい。
彼の防御魔術を壊してもいいし、自分の魔術を隠してもいい。
己ができる魔術を駆使して。
ありとあらゆる方法を考え、試行した。
何度も何度も戦ったが。
結局、ゼオンリーに勝つことはできなかった。
最初の偶然の一回だけ勝てた。
が、あれはクノン的にも勝ちとは言いづらい。
あれは、ゼオンリーが油断したせいだから。
――特級クラスは各々忙しいので、魔術戦に誘う雰囲気がない。
魔術戦で序列を争う。
強い者順が決まる。
楽しそうじゃないか。
魔術師としては健全だとさえ思うくらいだ。
魔術を磨いてこそだろう。
だからこその魔術師であり、魔術学校だろう。
「井の中の覇者もいいじゃない。
とりあえず覇者になって、望むなら次のステージに飛べばいい。
着実なステップアップにはなっていると思うよ」
いろんな同年代と魔術戦ができる。
それだけ取れば、羨ましいくらいだ。
こんな形ではあるが。
関われることが、少し嬉しい。
見守る、という口実で見学もできそうだし。
「女性がいないのは残念だけど、僕が君たちに教えるからね。
よし、じゃあ、早速実力を見せてもらおうかな」
と、クノンは「水球」を十個生み出す。
二級クラスの生徒に教える。
どうすれば効率よく教えられるか。
クノンなりにカリキュラムを考えてきた。
師ジェニエから教わったことを思い出しながら。
ちなみにゼオンリーはダメだ。
あの人の教え方は、基本清書による「まず記憶しろ」だったから。
「――僕から『水球』を奪ってみて」





