433.あのカシスが
「お待たせしました」
「合理」の拠点から、ルルォメットが表れた。
クノンら四人を呼んだ張本人である。
「各々事情はわかっていると思いますので、省きますね。
これから二級クラスの生徒たちと合流しますので、付いてきてください。
話は道中しましょう」
実に話が早い。
もう顔合わせまでの段取りが決まっているらしい
ルルォメットが歩き出し、クノンたちは追う。
「一応、この人選について話しておきますね。
なぜあなた方に声が掛かったのか。
気にしている方もいるかもしれないので」
と、彼は歩きながら話し出した。
全員暇だったのかな、とクノンは思ったのだが。
「まず、全員すでに単位が取得できていること。
毎年この時期は、単位が危うい生徒が多い。
要は追い込みの時期だから、時間がある特級生自体が少ない。
これで大半が候補から消えます」
大事な年度末である。
進級を左右する最後の時間、と言い換えてもいいかもしれない。
幸い、クノンも単位は大丈夫だ。
今年度も、なんだかんだ実験や研究をしてきた。
申請漏れがあったからその辺を片付けて、この時を迎えた。
「次に技術面ですね。
二級クラスは魔術戦が授業にあります。
が、特級生はありません。
一度も魔術戦をしたことがない、という生徒もいるのです」
言われてみると。
魔術戦自体、なかなか特殊かもしれない。
クノンは自然と馴染んだが。
師ゼオンリーと魔術の応酬を交わして、魔術による戦いを学んだ。
魔術師が最低二人。
しかも、絶対に片方は、それなりの実力が必要。
そうじゃないとただの殺し合いになってしまうから。
よくよく考えると。
魔術戦を学ぶ機会など、少ないのかもしれない。
「おまえ、今回も動きが早かったな」
と、クノンの横にいるベイルが言った。
「望まぬ方向で揉めたら面倒ですからね。
もし魔術戦をしたことがない特級生が、一方的に攻撃されたら。
そんな時に動くのが派閥です。
そして、その場合は穏やかな解決とはいかないかもしれない。
行く行くは準教師たちと特級生の全面抗争が……なんて過去もあったようですから」
派閥は互助会。
何かあった時に助け合うために生まれたもの。
そう。
仲間に手を出されたら。
それこそ派閥が派閥として機能する時である。
ルルォメットが彼らと接触し、話を進めた理由は、この辺にあるのだろう。
まず、二級クラスの行動を止める。
ただの口約束ではなく。
具体的なエサを用意して、絶対に勝手な行動を取らせないようにした。
全ては過去より習ったこと。
準教師との激突を避けるためだ。
まあ、興味がある、というのも本音だとは思うが。
……それと、二級クラスを案じてのことだろう。
特級クラスには武闘派もいるから。
サンドラとか。
下手にあの辺に絡んだら、大変なことになっていたかもしれない。
「話を戻しますが――
単位の問題と、魔術戦の経験があるかどうか。
この二つでふるいに掛けた結果、この四人になりました」
三派閥所属のクノン。
水属性。
「実力」代表ベイル。
土属性。
同じく「実力」のオレアモ。
火属性。
そして「合理」のカシス。
風属性。
「あなた方に声を掛けたら、快諾してくれました」
皆腕が立ちそうで何よりです、と。
前を行く彼は、他人事のように言う。
いや、まあ。
本当に他人事なのかもしれないが。
属性的に参加できないから。
「――私は違うけどね」
そう呟いたのは、カシスである。
「ええ、彼女だけは私が頭を下げて頼み込みました。
単位はもう取っている、魔術戦も強い、ついでに言うと暇そうだったので」
「代表は知ってるでしょ? 私人見知りなんだって……」
そういえば、そんな話を聞いたことがある。
カシスは人見知りだ、と。
それらしい一面など見たことはないが。
本人が言うならそうなのだろう。
まあ、そもそもクノンには一面どころか全部見えないが。
「大丈夫ですよ。今日のあなたも可憐で美しいですから」
「え……そ、そうですか? じゃあ、まあ、……いいかな……」
クノンは衝撃を受けた。
ルルォメットが紳士を出した。
恐ろしいまでの紳士力だ。
あのカシスが、なんかこう。
まんざらでもない感じになっている。
なんか髪とかいじり出している。
あのカシスが。
「ルル、おまえクノンに似てきてない?」
「気のせいでしょう」
とある校舎に到着した。
この辺は、クノンは来たことがない。
二級クラスの校舎とも違うはずだ。
正面を素通りして横手へ向かうと。
そこには、十三人の生徒がいた。
二級クラスの生徒たちだ。
クノンらに絡んだ顔も、そうじゃない顔もある。
そして、そうじゃない顔に見覚えがあった。
「あれ? アゼル?」
そこには知っている顔があった。
二級クラスの授業で会った、あのアゼルである。
――どうやら、彼も魔術戦に参加するようだ。





