432.男ばかりではない集まり
翌日。
クノンは四度目の遭遇を果たすべく、学校へやってきた。
心持ち、いつもよりちょっと早めだ。
気が逸っているせいだろう。
三回ほど彼らと会った場所には、誰もいなかった。
少しばかり待っていると。
「おはようございます、クノン」
ルルォメットがやってきた。
「おはようございます先輩。彼らはまだですか?」
二級クラスの彼らはどこだ。
ずっと待っているのだが、まだ来ない。
「彼らなら来ませんよ。昨日の内に手紙を貰いましたから」
「えっ」
それはつまり、もう話はついたということか。
「安心していいですよ。予想通りの返答でしたから」
予想通りと言うと、あれか。
「じゃあ先輩が強くする的な話になったと?」
「ええ」
面白い方向に行った!
クノンは俄然わくわくしてきた、が。
「ちなみに言いますが、私はあまり関わりませんよ」
「えっ!?」
なんだ。
どういうことだ。
「じゃあ、誰が関わるんですか?」
「誰がって……クノンはたまに小さなミスをしますね」
ルルォメットはクスリと笑う。
師ゼオンリーにもたまに言われたな、とクノンは思った。
つまらないミスをする、と。
「私は属性が違うじゃないですか」
……言われてみれば。
「彼らの中に闇属性は、というか希少属性持ちはいませんでしたね」
そう考えたら。
ルルォメットは、教える相手なんていないじゃないか。
「二級と三級の在校生には、希少属性持ちはいないはずですよ」
なるほど。
ならば確かに、この話にはあまり関わらないのか。
「……あ、なんか話が見えたかも」
だったら、これからルルォメットがどうするか。
きっと特級クラスから選ぶのだろう。
「ちなみに水属性はまだ空いていますが」
クノンはすかさず挙手した。
「僕これからちょっと時間ができますけど!」
特級クラスから、教えられる生徒を選んで。
二級クラスに送り出すつもりだ。
――やってみたい。
自分の魔術戦の技術を誰かに教えると、どうなるか。
どこまで身につけてくれるのか。
やったことがない分野だけに、とても気になる。
人に教えられるほど、自分は魔術ができるのか。
そんな疑問もなくはない。
それを知るためにも、やってみたい。
まだ見ていない己の可能性。
それを発見してみたい。
見えないが。
「そうですか。それは助かります」
ルルォメットは微笑んだ。
狙い通り、と言わんばかりに。
「初級魔術のみで特級入りを果たした君です。
二級の生徒がどこまで伸びるか。
それは当然気になりますが。
君がどれだけのことを教えて、その結果どれだけ伸びるのか。
それにも、同じくらい興味がありますよ」
――ただ教えるだけなら、腕のある魔術師なら誰でもできる。
ルルォメットはそう考えている。
それだけに。
クノンが何を教えるかは、とても気になる。
先の「水ベッド」のレクチャーも面白いと思った。
思った以上に凝っていたから。
そこまで初級魔術に手を入れているのか、と驚きもした。
今回も、きっと面白い結果を見せてくれるに違いない。
「頑張ります!
それで、僕はいつからどこで何をすれば?」
「その辺の話は、まだ決まっていません。
でも数日中には動くはずなので、午後を空けておいてください。
今の内に、大きな用事は済ませておいてほしいですね」
二級クラスは、午前中は授業がある。
何かするなら午後からだ。
「ちなみに単位は大丈夫ですか? 期末は近いですよ」
「大丈夫です」
たぶん、大丈夫だ。
たぶん。
……後で確認しておこう、とクノンは思った。
「あ、ところでルルォメット先輩。ベイル先輩はこの件どう思ってるんでしょう?」
ひとまず、必要な話はできた。
クノンは二級の生徒に教えることが決定した。
魔術ではなく、魔術戦だ。
ならば、きっと伝えられることもあるだろう。
たとえ初級四つに中級一つしか使えなくても。
「ベイルですか?」
「はい。シロト嬢はやっぱり反対みたいですし……」
いっそ自分から仕掛けるか、みたいなことも言っていたし。
どきどきしたし。
彼女が何をするのかは気になるが。
でも、やはり、根本的に反対ではあるのだと思う。
ルルォメットの陰謀を阻止する形で動く可能性も、大いにある。
となると。
三派閥のもう一人の代表、「実力」のベイルはどうするか。
彼の意向で、少なくとも多数決の体になってしまう。
それで全てが決まるわけでもないが。
しかし、多少の影響は出るのではなかろうか。
果たしてかの先輩は賛成か、反対か。
「この場合は、ベイルがどうこうという話ではないですね」
「え?」
「『実力の派閥』は実力主義で、単独で動いている者が多い。
個人の主義主張を尊重します。
ベイルはあくまでもまとめ役で、よほどのことがない限り指揮は取りません」
「そうなんですか……」
確かに、そんな話は聞いているが。
「実力」は大人数で何かするのは向いてない派閥、と。
「クノンと同じですよ。
面白そうと思えば、あの派閥の何人かは動くでしょう。
ベイル自身も含めてね」
◆
あれから二日。
クノンは、時間を作るために雑事を片付けて。
ルルォメットは、二級の生徒に教える教師役を探して。
それぞれ忙しく過ごした。
――そしてその裏で、シロトも動いていたのだが。
今はまだ、誰も知らないことだ。
「すごい面子だなぁ」
「合理」の拠点の前には、三名の生徒がいた。
ルルォメットからの呼び出しの手紙が届き、クノンはここへやってきた。
拠点の前には、特級生たちが三人。
きっとルルォメットが集めたのだろう。
彼らに自分を入れて、四人。
これで四属性が揃う。
火属性。
「実力」のオレアモ。男。
クノンとは接点がなかったので、顔を知っているくらいだ。
風属性。
「合理」のカシス。どちらかというと女性。
彼女は実技が得意なので、きっと魔術戦も強いのだろう。
土属性。
「実力」の……ベイル。男。派閥代表。
「なぜベイル先輩が?」
意外というか、なんというか。
派閥代表が率先して参加するような話ではない、気がするのだが。
「面白そうだったから。おまえもそうだろ」
まあ、否定はできないが。
クノンらを呼び出したルルォメットは、まだ来ていない。
几帳面な人だ、すぐに来るだろう。
しかし、それにしても、だ。
「よかったですね、ベイル先輩」
と、クノンは囁く。
誰にも聞こえないように。
「お? 何がだ? 何かいいことあったか?」
「カシス先輩がいますよ」
「あ? ああ、いるな」
「紅一点、女子がいますよ。
よかったですね、男だらけの企画にならなくて」
そう、この集まり。
男ばかりなのだ。
かつて地下迷宮に潜った時も、男ばかりだった。
だが、今回は男だらけを回避できたようだ。
「……おまえ相変わらずすげぇな。
そういうとこ本当に尊敬するよ。マジでな」
俺も割り切れたら楽になるんだろうけどな、と。
ベイルが溜息を吐いたところで。
「――お待たせしました」
待っていたルルォメットが、拠点から姿を見せた。





