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428.迫る年度末





「え? グレイちゃん、帰ったんですか?」


 聖女の教室を後にして。

 所用を片付けて。


 それから、クノンはロジー邸へとやってきた。


 今日もシロトの腕の観察だ。


「うん。もう用事が済んだから、って」


 屋敷の入り口で会ったアイオンに教えてもらった。


「突然ですね」


「そうだね。まあ基本的に忙しい人だからね」


 グレイちゃんにベーコンを作ってもらった翌日である。


 まるで、そう。


 クノンにベーコンを作るために、ここにいたかのような。

 おとぎ話にもあったような。

 人の姿で恩返しにきた精霊が、正体を知られて逃げてしまったかのような。


 グレイちゃんは、実はベーコンの精霊だったかのような。


 そんな真相も……まあ、あるわけがないか。


「昨日のベーコンのお礼、改めて言いたかったんですけどね」


 クノンも気づいたが、普通のベーコンじゃなかったから。

 クノンも気づいたが、侍女が絶賛していた。


 きっと気合を入れて作ってくれたに違いない。


 だから、改めてお礼を言いたかった。

 クノンも気づいていたし。


「会えたら伝えておくよ」


 グレイちゃんは去った。

 いれば緊張してしまうが、いないとなるとやはり寂しい。


 季節外れの浜辺でくつろぐグレイちゃん。

 その姿は、もう見られないのだろう。


 まあ、そもそも見えないが。


 で、だ。


「アイオンさんはお出掛けですか?」


「うん。昔の知り合いが連絡をくれてね、会ってくる」


「そうなんですか。そんなにオシャレして……デートですね?」


「相手は女性だよ。

 それにオシャレは……別に普段着だし、なんなら寝癖が直らないままなんだけど……」


「あ、そうか! いつもオシャレで美人だから勘違いしちゃった!」


「あはは……とにかく行ってくるね」


 アイオンは行ってしまった。


 女性同士でデートか。

 いいな。

 ぜひ挟まれたいな。


 クノンはそう思いながら、屋敷のドアを潜った。


 シロトはいるだろうか。


 アイオンには話しそびれたが。

 ぜひ彼女にも、今日の出来事を話したい。


 二級クラスの生徒に絡まれて楽しかった、と。


 ――この時のクノンは、まったく考えていなかった。


 あの一件が、まさか。

 あんな大きな騒動になるだなんて。


 本当に。

 魔術学校は事件に事欠かない。





 翌日。


 登校したクノンは、見覚えのある人物と一団を発見した。


「――ジュネーブ先輩?」


「実力」のジュネーブィズだ。

 久しぶりに見掛けた気がする。


 せっかくなので、近づいて挨拶することにした。


「あ、クノン君。フフッおはよう。久しぶりだね」


 久しぶりである。

「実力」代表ベイルとは、なんだかんだ会っているつもりだが。


「そうそう聞いたよ。魔建具。フッ。あれ面白イヒヒッ、いいね!」


「煽ってます?」


 相変わらずの笑い癖である。


 そして――ジュネーブィズと対面にいる、彼ら。


「またやってるの?」


 昨日クノンが封殺した、二級クラスの面々である。


「は、早く行けよ。今日はおまえに用はない」


 彼らのリーダー格らしい彼が言う。


 確か、序列三位と言っていたか。


「クノン君の知り合い? 彼ら何? いきなり勝負しろって、ふふふ、言われちゃって。でもほら私ってこうじゃない? 長々話すと高確率で、あ、あ、相手が不快になっちゃアハハハハハ! 勝負しろって何!? ダメだよぉよく知らない魔術師にケンカ売っちゃあ! 大怪我するし大怪我だけじゃ済まないこともあるんだよぉ!? ダーメだよぉー!」


 これはちゃんと煽っているな、とクノンは思った。


 いや。


 これは本当に笑っているだけか。


 そして――二級クラスの彼らは苛立っている、と。


 正面切って煽られている。

 そうとしか思えないに違いない。


 だってクノンもそう思うから。


「僕も昨日絡まれたんですよ」


「ほんとにぃ? それはよくないなぁ」


 ニヤニヤしながら、ジュネーブィズは言う。


「いいかい君たち、よく覚えておいてね。

 特級生は大まかに二種類いるんだよ。


 一つは研究型。

 要するにうふ、学者タイプだね。


 もう一つは実戦型。

 魔術を極めようってタイプだ。アハ。


 ――学者はともかくさぁ、実戦型は容赦しないよぉ?」


 この話はクノンも初耳である。


 だが、わかる気はする。


 明らかに戦闘には向かなそうな性格の先輩方はいる。

「合理」のラディオとか。

 身体は大きいが、優しくて物静かな先輩だ。


 そして、戦闘向きな先輩も心当たりがある。 

 サンドラとか。

 カシスとか。

 シロトとか。


 特にシロトはめちゃくちゃ強いと思う。


「ちなみに私はどっちだと思う? うふふ。


 ……ほら、怪我しない内に帰りなよ」


 ニタニタ笑うジュネーブィズは、とんでもなく不気味だった。


 



「あー怖かった。怖かったー。あは。金出せって言われたら出してたよー」


 と、ジュネーブィズはヘラヘラ笑いながら零す。


 結局、衝突することなく。

 二級クラスの面々を追い払うことに成功した。 


 きっと、ジュネーブィズがものすごく不気味に見えたのだろう。

 関わってはいけない人だ、くらいに。


 クノンも少し思ったから。


「先輩は研究型ですか?」


「そうだよぉ。ふふ。私が強そうに見える?

 魔術なんて全然使いこなせてないのにさぁアハハ!」


 ――それは嘘だ。


 煽っているかどうかはわからないが。

 魔術が使いこなせていない、というのは嘘だ。


 ジュネーブィズの実力は知っている。

 恐らく、クノンと同じだと思う。


 使える魔術が少ない。

 少ない代わりに、器用に幅広く使いこなしているのだと思う。


 ついでに言うと。


 全然怖がっているようには見えなかった。

 見えないが。


「先輩、僕と勝負してくれません?」


 戦闘において、ジュネーブィズはどんな動きを見せるのか。


 これだけの変わり者だ。

 なんだか気になってきた。


「やらないよぉ。瞬殺されちゃうよぉ。後輩に瞬殺なんてされたら二週間はもうハハッ、なんかアハハッ、……寝込んじゃうよね!」


「今のは煽ってるでしょ?」





 久しぶりに会った先輩と、ちょっとだけ立ち話をした。


「でもまあ、なんだね」


 近況報告をして。

 ベイルとエリアの進展を聞いて。

 ベーコンの話をして。


 そして別れる時に、彼は言った。


「年度が代わる頃って、意外な事件が起こることが多いんだ。

 大きいのも小さいのもね。


 ほら、去年の大きなのは、輝魂樹(キラヴィラ)がっ、うふっ、生えたじゃない?」


 確かに、あれは年度末に起こった事件だった。

 大事件だった。


 後片付けのことは、思い出したくない。


「やっぱり、なんか、ハッ、ハハ、あるんだろうね。

 今年中にやっておきたいこと、やり残したこと、


 そういう心残りを解消したいって気持ち」


 そういうものらしい。





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この魔術学校の年度末は、夏のはずなんだけど 作者さんが「秋に入学」って設定を忘れてるよね?
紳士なればこそ、百合には挟まってはいけないよ。 ジュネーブパイセン絶対つよいよなぁ…って言うか弱い人が居る訳ないよね どんな手札を持ってるのかすごく気になる
 煽ってる時は饒舌になってそう
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