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417.紳士、心に傷を負い癒える





 クノンらは魔術学校に戻ってきた。


 リーヤは、ベーコン用のブロック肉を。

 かなりの量を買い込んでいた。


 クノンは、付き添いのついでに買った加工肉を。

 これまたついでに買った野菜とキノコ少々。


 エリアが買ったのは、小麦粉と砂糖と果物。

 午後、派閥の仲間と一緒に何か作るらしい。


 各々が荷物を持って、戻ってきた。


 とりあえず、「水球」でテーブルや椅子を出し。

 落ち着ける場所は完成だ。


 荷物をテーブルに置く。

 燻製系の加工も、このテーブルでやればいい。


「――お待たせ」


「合理」の拠点前に到着すると。

 リーヤは一旦部屋に戻り、燻製機などを持って戻ってきた。


 クノンは荷物持ちとして付き合おうかと思ったが。

 普通に断れらた。


 納得である。

 リーヤは、風魔術で浮かせて器具を持ってきたから。


 普通に持てば結構な荷物だが。

 風魔術師にはこれがあるから、荷運びが楽で――と、考えたところで。


 クノンは閃いた。


「あぁ……」


 手で顔を覆い、後悔の溜息を吐いた。


「ど、どうしたの?」


 エリアに心配されたが、


「……やっちゃいました」


「え?」


「女の子に重い荷物を持たせてしまいました……」


 ――思い出したのは、今朝のことだ。


 聖女と森を回り、食べ頃の野菜や果物などを回収していった。


 そして。


 聖女を一人で行かせてしまった。

 両手に野菜などを抱えさせて。


 一応あの時も「付き合おうか」といったのだが。

 普通に断られたのだ。


 で、だ。


「これ」


 と、クノンは大きめの「水球」を出し、その辺に浮かべた。


「よくよく考えたら、これに乗せれば荷物くらい運べるんですよね」


 浮力を上げて。

 でも上がりすぎないよう、地面から一定距離を保つようにして。


 表面は膜で覆って。

 濡れないようにして。


 そう、クノンが乗る「水球」より、少し硬いくらいのものだ。


 少し平に、楕円形にしてみた。


「荷物運び用の『水球』?」


 エリアが軽く押すと。


「水球」はすーっと宙を移動する。

 

 ――なるほど、である。


「空飛ぶカートって感じだね。これは確かに便利かも」


 エリアも風魔術師なので、荷運びは楽なものだが。


 あれは意外と、風量の調整が難しい。


 運ぶ物の大きさと重量だって、その時その時で違うだろう。

 その都度調整が必要になる。


 慣れれば簡単だが。

 慣れるまでは、ちょっと大変だ。


 ――それ以前に、水属性で荷運びができるという応用か。

 

 さすがクノンというか、なんというか。


 まあ、今気づいた本人は、落ち込んでいるが。


「なんで気付かなかったんだろう……紳士として失格だ」


 野菜と果物、結構重かったのに。

 聖女が一人で運んで行ってしまった。


「まあ、そういうこともあるよ。次は後悔しないようにね」


「エリア先輩は優しいですね。

 僕の中の紳士が、あなたの女子力ですっかり癒されましたよ」


 ――癒えるの早すぎるだろ、とエリアは思った。


「そして僕の中の紳士が、ぜひお礼をしろと言っています。何がいいですか?」


「あ、そう?」


「デートならいつでも構いませんが?」


「いえ、じゃあ、それ」


 それ、とエリアが指差したのは。


「水球」のテーブルの上にある、加工肉や野菜である。


「今からここで焼いたり燻製にするんでしょ? 少し食べさせてくれる?」

 

 そう。

 この場で焼いたり燻したりするつもりで買ってきた。


 店で見掛けて、味見してみたくなったのだ。


 赤いソーセージとか。

 黒いソーセージとか。

 香辛料で覆われた熟成肉とか、半生みたいなハムとか。


 味付けしていない肉も買った。

 市場ではちょっと珍しい、という触れ込みのやつだ。


「どうぞ食べていってください。味はリーヤが保証してくれますよ」


「――そう言われるとプレッシャーだなぁ」


 燻す準備をしていたリーヤが、クノンらを振りむく。


 設置されたのは、箱型の燻製機だ。

 小型で、まとめて燻すには小さいだろうか。


 量産用ではなく、家庭用という感じだ。


「いずれ大きいのを買うけど、今はこれなんだよね。


 一度に燻せる量が限られているから、……どれからにしようか?」





「――ソーセージは、始めに少量の水で茹でるのです」


 どうしよう、こうしよう、あれから焼こう。


 などと話していると。


 通りがかった「合理」代表ルルォメットが声を掛けてきて。

 簡単に現状を説明すると。


「水分が蒸発したら、そのまま少し焼くといいそうですよ。

 まあ、そこにあるソーセージに向いている調理法かは、保証できかねますが」


 おもむろにソーセージの焼き方を語って。

 拠点へと行ってしまった。


 なんという気になる情報。


 クノンは、串にでも刺して焼けばいいんじゃないか、と思っていた。


 火で炙って。

 皮がパーンと弾けたら食べ頃。


 そう思っていた。


 昔読んだ英雄物語で、そのような食べ方をしているシーンがあったから。


 しかし、ルルォメットが語ったのは、違う焼き方だ。


 茹でて。

 焼く。


 始めて聞く調理法で、なかなか興味を惹く。

 そんなに味に違いが出るのだろうか。


 それも含めて、興味がある。


 そして、それはクノンだけの話ではなかった。


「……リーヤ君、フライパンとかスキレットは?」


「いや、持ってきてないです。燻製するつもりでしかなかったので……」


「わかった借りてくる」


 と、エリアはルルォメットを追うようにして、「合理」の拠点へと走った。


 きっと台所から拝借するつもりなのだろう。


 ――案の定、エリアはすぐに戻ってきた。


 フライパン、ボウル。

 その他色々を持って。


「油も借りてきたから、野菜とかちょっと揚げようよ。小麦粉を薄く溶いて衣にするとおいしいよ」


 なんだか彼女は本題を忘れつつある気がする。


「まずソーセージですね。茹でて焼く、でしたよね」


 クノンもまた、ちょっとだけ、今だけ。

 ベーコンより、ソーセージが気になっていた。


「――よし」


 そしてそんな二人をよそに。


 リーヤは一人マイペースに、燻製やベーコン用の仕込みを続けるのだった。





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― 新着の感想 ―
クノンの水球の温度を上げて茹でるのかな?と思ってたら違った。 何か制約があるのか、気づいてないだけなのか。 きになる。
 エリア先輩とクノンは既にBBQやないか(笑)
アニメ化おめめとうございます!! 聖女は聖女で結界カートいけるんだろうな、階段はやってたし
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