411.植物大好き世代
「レイエスの世代って、植物に関心がある子が多いのね」
輝魂樹周辺の植物を見ていると。
規制や注意点。
そして植物の説明をしていた教師エヴィラケが、そう漏らした。
「レイエスさんの世代?」
リーヤが問うと。
「ああ、世代っていうか、同期ね。
リーヤ君もクノン君も、去年度入学の特級生でしょう? 二級クラスから上がってきたわけじゃなくて。
いわゆる生粋の特級生よね。
そういう子って毎年少ないのよ。進級に併せて特級に上がる子の方が多いから。
確か今年の特級生は、二人だけだったはずよ」
今年は二人だけ、というと。
「セララフィラ嬢?」
クノンが名前を挙げると、エヴィラケは足元の薬草を摘みながら答えた。
「そう。彼女とあと一人、火属性の子がいるわ。ちなみにその子は『実力の派閥』ね」
「そうなんだ。初耳です」
セララフィラと一緒に入学した特級生が、もう一人いたそうだ。
属性が違うせいだろう。
クノンとはまるで接点がなかった。
興味がないでもないが……会う理由もない。
いずれ会うだろうか。
でも、それでも二人だけである。
「最初から特級生、ってそんなに少ないんですか?」
「少ないわね。毎年一人か二人か、って感じ。いない年もあるしね。
それで――話を戻すけど、去年度の特級生は四人もいた」
去年度は、クノンたちの代である。
春を過ぎれば三年生だが。
まだ二年生である。
彼女の話を聞く限りでは、確かに多いようだ。
「まあ一人は例外として、それでも三人は多いわね」
「例外って、ハンクさんですか?」
リーヤが上げたのは、一人だけ年齢が離れている同期だ。
「ええ、そう。
あの子は特級クラスに入るために長く下積みしていたから、例外だと思う。
彼の下積み、本当に長かったのよね。
正直ちょっと笑えなかったわ。
名ばかりの入学試験なんて、さっさと受ければよかったのに」
名ばかりの入学試験。
まあ、その通りではあるのだが。
なにせ「絶対に合格する試験」だったから。
特級クラスに入れたかどうかはともかく。
入学は必ずできたはずなのだ。
試験を受けることさえすれば。
それを知らなかったハンクは、何年も下積み生活を過ごすことになった。
「僕はいいと思いますけどね。無駄な時間じゃなかったはずだから」
クノンとしては、下積みは悪いことではないと思う。
ジェニエにゼオンリー。
二人の偉大な師匠に課せられた基礎と下積み。
それがあったからこそ、今クノンがここにいる。
今のクノンを形作ったのは、間違いなく二人の教えだ。
無駄だなんてとんでもない。
なければならなかった時間だった。
聞けば、ハンクは庶民出らしい。
家庭の都合などで、急いで故郷に帰る必要もなさそうだ。
しっかりした下積み生活は、きっと彼の実力を裏付けるものになっているはずだ。
「そうね。
とっくに特級生らしい実力はあるのに、なぜ下積みしているのか。
そんなもやもやする気持ちもあったけど、実力は身に着いたわね。
――そんな同世代四人が、すでにこの森に入っているという事実よ」
明らかに植物を専攻していて。
更には、この森の元凶の一端を担うレイエスはともかく。
ハンクは昨日。
クノンとリーヤも、今森に入っている。
「言われてみると、植物大好き世代って感じですね。僕は女性の方が好きですけど」
「クノン君」
「はい?」
「植物への好きと、異性への好き。同じようであっても意味が違うのよ」
「えー? 愛と恋の違いってことですか? 先生は大人だなぁ」
――これに関しては、エヴィラケの誤解である。
クノンの女性好きなど、植物が好きと同じくらいの意味しかないから。
「言われてみると、確かに不思議だなぁ」
クノンは首をひねった。
自分は、聖女と一緒に植物関係の実験や研究をしたことがある。
それくらいには植物に興味がある。
いずれ己のものになる、あの未開の領地。
開拓作業を進めるなら、植物の知識は絶対に必要になるだろう。
だが、しかし。
「リーヤも植物に興味あるの?」
思えば、なぜ彼は今ここにいるのか。
この同期が、植物への興味や関心を語ったことがあっただろうか。
クノンは覚えがない。
「植物っていうか、スパイスとか香辛料に興味があるよ」
スパイスに香辛料。
この数日、縁があるフレーズだ。
「もしかしてハンク絡み?」
「わかる? 僕、時々ハンクさんのベーコンとか燻製肉とか加工肉とか、それ以外とか、作る手伝いをしてたんだよ」
意外な事実である。
「ほんと? そんな重要なこと、なんで僕に教えてくれなかったの? 僕が上から話してるから?」
「上からは関係ないけど。
手伝い始めたのは、例の遠征に出る少し前くらいかな。
正直、何度も頼まれるとは僕も思ってなかったんだよ。
一度切りとか、時々とか、それくらいになると思ったんだけど……。
あのね――儲かるんだよ、肉」
儲かる。
肉。
なんという即物的な発言。
だが、大事なことだ。
特級生は、自分の生活は自分で稼いだお金で賄う。
稼ぐ方法はとても重要なことなのだ。
「家に仕送りしてるんだっけ?」
「うん。これで安定して稼げれば、下の弟妹の学費とかが工面できそうなんだ。
だから本格的にやってみようかと思って」
その答えが、スパイスに香辛料か。
「風属性で燻製を作るの?」
エヴィラケも気になったらしい。
「ええ、高温の熱風で炙るんですよ。
最初はハンクさんの火を増大させて、火力を出したり風味付けを工夫したりって手伝いをしてたんですけど。
でも、熱風だけでもできるみたいで。
火を使わない加工方法で、ただの燻製とは違う感じに仕上がるんです」
面白い発想だ、とクノンは思った。
「それって僕のため?」
「え? あー……広い意味では?」
購入者、という点では。
間違ってはいないだろう。
「ありがとう、リーヤ。
女性じゃない君にパフェをおごるよ。この僕の感謝の気持ち、伝わるかな?」
「すごく伝わるよ。
クノン君がそこまで言うくらいなんだ、ってちょっと驚いてるよ」





