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396.集まる同期





 最後に来たのが、クノンだった。


 三人の座るテーブルに着き、言った。


「――こういうの久しぶりだね」


 聖女レイエスが学校に来た。


 その噂を聞き。

 昼頃、彼女の教室に、同期たちが集まっていた。


 打ち合わせはしていない。

 誰が声を掛けた、というのもない。


 自然と、ここに足が向いたのだ。


 クノン、ハンク、リーヤ。

 そして、一昨日ディラシックに帰ってきたという聖女。


 遠征前と同じだ。

 この四人が時々集まっていたのが、今も継続しているだけだ。


 理由もないし、強いてここである理由もないのだが。

 一年生の頃からそうなので、今もそうだ。


 それだけである。


 きっと、この世代の通例になってしまったのだろう。


「そうだね、久しぶりだね」


「レイエス、随分遅かったな。何をしていたんだ?」


 リーヤとハンクも今し方来たのか、肝心の話はまだのようだ。


 聖女は何をしていたのか。


 遠征で別れて以来だ。

 聖女がなかなか帰ってこないので、心配していたのである。


「家の事情、と言えばいいのでしょうか。

 大神殿内で用事ができましたので、それを片付けていました」


 大神殿に住んでいる聖女だ。

 家の事情、で間違ってはないと思う。


「用事ってその顔?」


「ええ。そんなに以前と違いますか?」


「うん、なんというか……なんとなくだけど、でも確かに違うかな」


 何の話だろう、とクノンは思った。


「リーヤ、何か違うの?」


「あ、クノン君はわからない? レイエスさんの顔の張りとかツヤとか、すごくいい感じになってるんだよ。すごくいい感じに」


 いい感じに。


「へえ、そうなんだ」


 なるほどわからない、とクノンは思った。 


「じゃあ僕にはわからないかな」


 来る、と全員が思った。


「――だってレイエス嬢は常に輝いているからね。張りとかツヤとか常にそうだからね。少なくとも僕にはそう見えちゃうからね。見えないけど見えちゃうんだよ。この矛盾の正体こそ女性の魅力っていうか、レディの底知れない魅力というか。魔術でも解明できないミステリアスな魔性の謎ってことかな? そう考えるとレディっていいよね。常に輝いていて。でもアレかな? 女性を輝かせるのは紳士の努めっていう説もあるからね。素敵な女性を見ると紳士でよかったな、って思うよね。まあ僕は見えないけどね。イメージとしては女性が集まると光の集合体になっちゃうよね。すごいよね、女性って」


 来た、と全員が思った。


 クノンの中身がないセリフだ。

 

「帰ってきた、って気がしますね。これを聞くと」


 ここで、同期たちで集まり。

 クノンのよくわからない発言を聞く。


 これを聞くと、聖女でさえ思う。


 ――ようやく帰ってきた、と。


 これが自分たちの日常。

 自分たちの学校生活なのだ、と。





「昨日と今日で戻しました」


 聖女の教室は、遠征前のように植物に満ちている。


 花の匂い、緑の匂い。

 いろんな植物の匂いが充満し、混ざって、独特の雰囲気がある。


「先生方にも手伝ってもらい、自宅に運んだ植物も持って来ました」


 ――昨日は顔を揉まれまくって、予定通り進めなかったレイエスだが。


 それでも、なんとか、やるべきことはやったのだ。


 帰ってきた報告と、不在中の諸々のお礼と。

 お世話になった人に挨拶はできた。


 まあ、調べ物はできなかったが。

 図書館まで行く時間は、さすがになかった。


「私からはそれくらいですね」


 一昨日帰ってきたばかりの聖女である。

 特に行動は起こしていない。


 大神殿にいた時のことも、まだ話せないそうだ。


 何かしたのは確かで。

 顔が輝く何かはしたらしいが、まだ秘密だそうだ。


 だから聖女が話せることは、これくらいらしい。


 非常に気になるが。

「話せない」という事情は理解できるので、誰も深くは聞かなかった。


「実は、近くまたセントランスに戻る必要があるのです。

 聖女としての恒例行事がありまして」


 なんだか慌ただしい話である。


「そうなんだ。大変だね」


「大変なのは私の周りなので、私は特に。落ち着かない、とは思いますが」


 確かに落ち着かない。


「私からはこんなところです。他に話せることはないと思います」


 と、聖女はクノンを見た。


「今度はクノンの話を聞きたいですね」


「僕の?」


「はい。手紙は読みました。なんでも新しい魔道具の試乗に付き合ってほしい、とか」


「あ、そうそう!」


 ――そろそろ帰ってくるだろう。


 そう思って、クノンは聖女のポストに手紙を投函したのだ。


 奇しくも、手紙を出した昨日である。

 ちょうど手紙を出した日に、聖女が学校へ戻ってきたのだ。


 ただ、時間が合わなかった。


 試乗会は午前中で終わり。

 彼女が手紙を読んだのは、午後だったそうだから。


「あー……まあいいか!」


 クノンはここで話すかどうか迷った。


 ハンクは知っている。

 試乗会に付き合ってくれたから。


 聖女には、これから話す。


 こうなると、リーヤだけが部外者となってしまう。


 が、クノンは「まあいいか」と判断した。


 どの道、彼も関わりそうだから。


「空を飛ぶ魔道具を作ったから、ぜひ試してみてほしいんだ」


 と、クノンは昨日の試乗会のことを話すのだった。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 極論、少し浮かせるだけでも荷物運べるし この道具マジで多様性に満ちてるんだよね 色々遠征の多い聖女の仕事にはすごい役に立つと思う [一言] これぞクノン 偉大なるイコの教えを守りし紳士よ…
[気になる点]  ここから先の展開が気になる終わり方だわ〜
[一言] クノンは肌のキメの細かさや水分量等を知覚出来ても、その辺りを良いか悪いか直接女性に伝えるような教育は受けてないだろうから、この手の話題は厳しそう
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