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388.こうしてできた二つの魔道具





「二つ考えたんだね」


 グレイちゃんは帰ったし。

 造魔犬グルミもしゅんとしてどこかへ行ってしまったし。


 そうしてアイオンも含め。

 三人は「火・土で空を飛ぶ方法」を相談する。


「僕としてはやはりオリジナルを考えたいんですが、どうにも危険みたいで」


 クノンは爆発を駆使して飛びたい。

 どうしても爆発がいい。爆発させてみたい。


 だが、事故が怖い。

 そして空でのトラブルも怖い。


 もし上空で事故を起きたら。

 落ちるようなことがあったら。


 火と土の魔術師では、対処ができない。


 いや、土ならなんとかなるか。

 大急ぎで泥か何かでクッションを作れば。


 しかし、火は恐らく、どうしようもない。


 その辺のリスクを考えると。

 爆発メインでは色々難しそうなのだ。


 どうしても爆発させてみたいのだが。


「そうだね……やめた方が無難かも」


 アイオンはクノンの言い分に頷き、メモを見る。


「一つは、竹とんぼだね」


 ヘラを高速回転させて浮上する力を生む、というものだ。


 見た感じ、構造上はできると思う。

 思うが、しかし。


「これ、鳥とか巻き込んだら、落ちないかな……」


 人が乗っても飛ぶほどの高速回転だ。


 ヘラは繊細な厚みになるだろう。

 きっと巻き込んだものは切れるか、あるいはヘラが壊れるか。


 些細なことで事故を起こしそうだ。


「巻き込み防止のカバーとか着けるとどうでしょう?」


 シロトの意見に「そうなると重量が増えるね……」と、更なる問題が浮上する。


 そう、理屈では飛べるのだ。

 三人とも、飛べるだろうとは思っている。


 しかし、飛んだ先の問題が、思った以上に多い気がする。


 そして危険を伴う。

 軽はずみに試せない程度には。


「現実的なのはこっちかな……」


 アイオンは、二つ目を指示した。


 やはりそうなるか、とクノンは思った。


「それは前例がある形なんですよ。

 アイオンさんの生きた美しくも可憐で儚い世代なら知ってるんじゃないかな」


「うん……ちょっと心当たりがある」


 そう、ちょうどその世代だ。

 可憐で儚いかは知らないが。


 ――この構造は、ゼオンリーが作った「空飛ぶ船」の縮小版だ。


 昔、アイオンも少しだけ手伝った。


 簡単に説明するなら。

 浮力を発生させる巨大な魔法陣を敷き、その力で巨大な船を飛ばせる。


 そういう仕組みだ。


 試作メモの二つ目は、その縮小版という感じだ。


 開発当時も安全面に気を付けただけに、安定感は抜群だと思う。

 事故の心配も少ない。


 問題は、動かすための魔力がかなり必要なこと。

 あくまでも特級生が使用する、を前提にしたものだ。


 もちろん縮小版なので、必要な魔力も少なめだが。


「もっと単純でいいんじゃないかな……あ、ごめん。これ以上はやめておくね」


 と、彼女はメモをクノンに返す。


「二人はまだ、アイデア出しに詰まってないでしょう? 必要な時しか口は出さないよ」


 これは二人の共同制作、現役学生の開発実験だ。


 アイオンはあくまでも手伝い。

 必要以上に口出ししてはならない。


「ちなみに、私としてはボツにした案の方が気になるかな……」


 最後にそれだけ言って、アイオンは口を噤んだ。





「ボツの案か……」


「ふむ……」


 アイオンは、遠くでしゅんとして穴とか掘っていたグルミを呼び。

 また「水球」を投げて遊び出した。


 そしてクノンとシロトは、再び相談を始める。


 乱雑に書き殴り、バツを付けてポケットに突っ込んだメモ。

 くしゃくしゃのそれらを引っ張り出し、睨む。


 できるけど問題あり。

 とりあえず作ってから改良を……と思っていたが。


 試行の段階で危険を伴うわけだ。


 今回の試作品は、まず安全を考えた方がよさそうだ。


「とりあえず、消去していきましょうか」


「消去?」


「失敗したら大怪我しそう、というのを排除してみましょう。

 万が一にも、大事なシロト嬢のお肌に傷が付いたら大変ですからね」


「大怪我したら肌の傷どころじゃないと思うがな」


 クノンの話は、突き詰めると「高度は必要か」だ。


 地形を無視して移動する。

 それだけなら、上空高くを飛ぶ必要はないだろう。


 それこそ、ちょっとした樹木より高く飛べれば、問題ないはずだ。


「……なるほど、確かに切り捨ててもいいかもな」


 火と土は、空を飛ぶのに向いていない。

 そこを認めた上で、空を飛ぶ方法を考えよう、と。


 仮に事故が起こっても。

 落ちることになっても。


 怪我で済む程度の高さなら、まだいいだろう、と。


 シロトは納得し、その上で考える。


「高度が必要ないなら、それこそ大掛かりな仕掛けはいらないかもな」


 と、そこにあるローズピンク……いや、空飛ぶ円盤を見る。


「クノンの『水球』には浮力があるよな? それでいいんじゃないか?」


「そう、ですね……」


 それは、クノンの「飛ぶ水球」と同じ理屈でいけるが。


 ただ、あれは直接自分で操作している。

 だから結構自由に飛べるのだ――正確には移動しているだけだが。


「高度が必要だと、その分大きさも必要になるんですよね」


 地面から一定距離を保つ。

 重力の影響も考えると、どうしても大きくなってしまう。


 大きくすることで浮力を上げるのだ。


「でも、高度が必要ないなら、さほど大きくなくていいかも」


 それこそ、「桃色の(ローズピンク)浮遊板(ボード)」くらいの大きさでいけそうだ。


 そう、ああいうので……。


 じっと見詰めて。


「――そぉぉぉぉぉぉい!!」


 その強肩っぷりを如何なく発揮するアイオンを見詰めて。


 ついでに走るグルミを可愛いな、と思って。


 そこでピンと来た。


「シロト嬢、こういうのはどうでしょう?」





 翌日。

 各々にやることを割り振り、再びロジー邸の庭に集まった。


 幸い天気もいいし、風も穏やかだ。

 これなら天候を気にしなくていいだろう。


 ここには、試作品の魔道具が二つある。


 一つはボード型。

 非常に簡単な作りで、これはクノンが作って持ってきた。


 もう一つはフラスコ型。

 説明が難しいが、そういう形態のものだ。

 これはシロトとアイオンに頼んだ。


 特に二つ目。

 これはクノンの強い要望で作ってもらった。


 絶対に爆発で飛ばしてみたかったから。


 今回なぜこれを作ったかというと、試乗者に問題がないからだ。


「――変わった形だね!」


 試してくれるのは、グレイちゃんだから。


 昨日、誰に試してもらうか、という話をした時。

 シロトが言ったのだ。


 ――「グレイは火属性らしいぞ」と。


 なんでもグレイちゃんは、シロトに嘘を吐いていたらしい。


 いや、嘘ではない可能性もあるのか。


 彼女の魔術属性を、クノンは知らないから。

 ただ、あの影の魔術などを見るに、火ではないことだけは確かだと、思わなくもないのだが……。


 これも定かではない。

 だから、断言はできないのだ。


 まあ、とにかく。


 頼んでみたら快諾してくれたので、来てもらった。


 グレイちゃんなら大丈夫だろう。

 何があっても。


 遠い上空から落ちても。

 事故で爆発が起こって巻き込まれても。爆心地にいても。


 この世が消えるようなことがあっても、彼女だけは大丈夫な気がする。

 きっと何食わぬ顔で生還するに違いない。


 



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― 新着の感想 ―
ヒデェ(笑) 爆発後もっのすごい笑顔で「次お前らな?」って言われる未来しかみえんのだが(笑)
なぜ投球の掛け声がソレなの?とピンクローズちゃんに聞いてみたい そして、普通だと失敗しそうでも火属性意外を駆使して乗りこなさそうなテスターやわ、別の意味で命知らずな選択を…
[一言] 安全を一緒のパッケージにしようとするから難しいのであって、安全は別口で用意すればいいのに。パラシュートとか。 風呂の時に得た知見が活かせてないぞ! てっきり伏線かと思ってたんだけど違ったよ…
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