386.訓練用玩具
「爆発による推進力、か」
クノンの意見を聞き、シロトは腕を組む。
思案気な顔だ。
「この前の実験の爆発を思い出すな」
「まさにそこから持って来ました」
爆発が起こった時。
残念ながら、クノンは気を失っていた。
後に聞いたところ、相当すごかったらしい。
その爆発の力を何かに使えるんじゃないか、と。
ずっと思っていた。
「そうか……確かに使えそうな気はするな。
あれほどの爆風なら、推力には申し分ないと思う。
ただ、あれはきっと制御が難しいぞ」
「そうですね。方向転換もまた爆発を使えないかな、って思ったんですが」
「……それ、違う事故が起こりそうだけど……」
小声ながら、アイオンの言葉は存在感がある。
液体火薬による飛行。
小出しにして爆発させて推力に、と考えていたが。
その辺の調整ミスで。
仕込んでいた液体火薬が一気に大爆発、なんてことになったら……。
確かに危険だ。
その事故は、乗っている者が大怪我をする。
「でも、なんかできそうな気はするんですが……」
シロトもアイオンも、そこに異はない。
ただ、現段階では危険すぎて現実的じゃない、と思うだけだ。
「……えっと、それじゃ私はこれで……」
――とにかく、魔道具の披露は終わった。
アイオンは「桃色の浮遊板」を片付け、小脇に抱える。
自分の役目は終わったとばかりに。
「「まあまあ」」
そんな彼女を、現役特級生二人がなだめる。
「もう少しお話しましょうよ、ローズピンクレディ」
「アイデアを出してくれても構いませんよ」
「いや、でも、やることが」
「大丈夫、大丈夫。僕もたくさんやることがありますから。一緒一緒」
「また買い物に付き合いますよ」
「……う、うん……」
――やることがあるんだけどなぁ、と思いつつ。
アイオンは、もう少しだけ二人に付き合うことにした。
「それにしても面白い」
クノンの連想は爆弾。
しかし、シロトは違う。
「属性の違いかな。
私はまるで違うものを考えていた」
クノンは水の火薬を考えたようだが。
シロトは、やはり風力から考えていた。
「ちょっと待っててくれ。持ってくる」
「持ってくる?」
シロトは一度屋敷に戻り、すぐに戻ってきた。
手に、木造の何かがある。
「それは?」
「竹とんぼだ」
と、クノンの前に突き出すが。
「たけとんぼ?」
「なんだ、知らないか?」
残念ながらクノンの知識にはない。
へらのような平たい棒の中央に、細い棒が突き刺さっている。
初めて見るものだ。
見えないが。
「これは玩具だ。こうして飛ばして遊ぶんだ」
「――ええっ!?」
細い棒を両手で擦り上げると、それは高速回転して飛んだ。
これはなんだ。
クノンの予想を超えたアイテムだ。
「す、すごいっ……」
竹とんぼは力強く舞い上がり。
どこかへ飛んで行った。
近くにいた造魔犬グルミが追いかけていき、拾って持ってきた。
「ありがとう――よこせ。……よこせ!」
なかなか離さない犬から、竹とんぼを取り上げ。
シロトは「どうだ」とそれを見せつける。
「こんな玩具があるんですね……え? 玩具なんですか? 魔術の道具じゃなくて?」
「玩具で間違いない。
小さな子供が遊ぶものだが――私は風属性だからな」
今度は、シロトの手からふわりと浮き上がり、回転しながら手元付近で留まる。
「魔術の訓練用に渡された。
こうして維持し続けろ、風で回転させ続けろ、風力を調整しろ、範囲を制御しろ、とな。
結構苦労したが、今ではこの通りだ」
「へえー!」
クノンは、目の前で留まる竹とんぼを観察する。
高速回転で浮く。
原理は、羽の傾きか。
なるほど、確かに風力で飛んでいる。
「面白いですね。この原理も使えそうだ」
まだまだ取り留めのないアイデアだが。
段々集まり始めた気がする。
無言になり、二人は考え込む。
「……あの、私もう行ってもいいかな……?」
「「まあまあ」」
アイオンを引き留めつつ。
動いているのは、宙に留まる竹とんぼと。
飛ぶのを待つ造魔犬だけだ。





