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384.反抗期は数百年前に終わったはず



 


 翌日。

 シロトとクノンは、昨日だらだらした応接室に、今日もいた。


「ああ、それはいいな」


 クノンは学校へ行き、それからロジー邸を訪れた。


 今日はアイオンの持っている「空飛ぶ魔道具」を見せてもらう予定だったのだが。

 非常に楽しみにしていたのだが。


 しかし、ひとまずアイオン待ちとなってしまった。


 時間が空いた。

 なので、先にシロトの腕の観察をして。


 雑談がてら、昨夜の侍女とのやり取りを話してみた。


「時間を計る砂時計に、音で報せる機能を付ける、か。素晴らしいアイデアだ」


 シロトは感心したように頷く。


 実は、だ。


「僕、ちょっとピンと来てないんですよね。何に使うんでしょう?」


 音が出る砂時計。

 しかし、砂時計は短時間を計るものだ。


 何かするには短すぎる時間だ。


 音が報せてくれなくてもいいのではないか。

 そんな短時間なら、待っていればいいのではないか。


 そう思ってしまう。


 そんなの、果たしていつどこで使うのだろう。


「もっと長い時間なら、使い道を思い浮かぶんですけどね。

 でも侍女は、砂時計って言っていたから。


 小さくて持ち運べるのが重要なのかな、って」


 長い時間にするなら、砂時計はどうしても大きくなる。

 持ち運ぶには適さなくなりそうだ。


「台所ではありがたいんだ。

 すごく簡単に言うと、半熟の茹で卵を正確に作れる。パスタを正確に茹でられる。


 肉を焼くのも野菜を焼くのも、煮るのも、ソテーも。用途は多い」


 なるほど、とクノンは頷く。


 台所のことはまったくわからないだけに、盲点だった。


 侍女は将来、合法な料理の店を持ちたいと言っていた。


 コックなら使用用途が思い浮かぶわけだ。


「料理は感覚じゃない。

 それこそ錬金術の調合のように、正確さが求められる。


 まあ、家庭料理なら感覚でもいいけどな。


 だが、料理店などでは、毎日常に同じ味が必要になる。

 斑があってはならないんだ、基本的にはな。


 正確に時間を計れるというのは、かなり役に立つぞ。

 おまけにうっかり忘れないよう音で教えてくれるわけだ。いいな、私も欲しいくらいだ」


 と、そういうことらしい。


「正確な調合の錬金術か……」


 台所のことはわからないが。


 熱する、冷ます、煮る、等々。

 この辺の現象においては、使用用途はありそうな気がする。


 時間を見つけて、本当に作ってみようと思う。





「……それにしても来ませんね」


 しばらく話をしていたが、アイオンが来ない。


「今日はちょっと遅いな」


 アイオンは生活リズムが違う夜型だ。

 なので、まだ起きていないのだ。


 いや、起きてはいるかもしれない。

 部屋から出てこないだけで。


 今頃はまどろんでいるかもしれない。

 けだるげな寝起きの時を。


 根拠はないが、それはなんとなく女性っぽいな、とクノンは思う。


 まあ、それはともかく。


 いつも昼辺りには部屋から出てくるそうなので。

 魔道具のお披露目は、少し待つことになったのだ。


 ……で、待った結果、まだ来ない、と。


「昨日、学校まで魔道具を取りに言ったんですか?」


「ああ、買い物ついでに寄って、ちゃんと持ってきている。

 なんかこう、長い板のような感じで――」


「――こんにちは、クノンお兄ちゃん」


 出た。

 シロトが話していると、褐色肌の子供が割り込んできた。


 グレイちゃんである。

 そう、彼女は今日もここにいる。

 いなくなる理由がないから。


 しかも水着姿だ。

 髪も濡れている。


 どうもまたあの魔建具ビーチでくつろいでいるらしい。


「おい、ダメだろグレイ」


「あっ」


 グレイちゃんが持っていたグラスを、シロトが取り上げた。


 ――知らないとは恐ろしい、とクノンは思うばかりだ。


「酒はダメだと言っただろう。

 豪勢に果物まで入れて…………随分凝ってるな、これ。カクテルか?」


 なんだか果物でグラスの淵を飾った、夏を感じさせるカラフルな一杯だ。


 カラン、と氷が鳴る。

 夏を感じさせる音だった。


 今はまだ冬なんだが。


「シロトお姉ちゃん、帰してよぉ。せっかく作ったんだからぁ」


「ダメだ。その歳で酒など飲むな、頭が悪くなるぞ」


 知らないとは本当に恐ろしい、とクノンは思った。


 そして、目を背けた。


 目の前の光景が怖すぎるから。


 まあ、元々見えないが。


「これは先生に処分してもらう。酒以外のものを飲みなさい」


「はーい……チッ。固い奴だ」


「今なんか言ったか? 舌打ちもしたよな?」


「何も言ってないよーだ。シロトお姉ちゃんのカタブツー」


 と、グレイちゃんは行ってしまった。


 想像もしていなかった。

 数百歳を超える世界一の魔女の「言ってないよーだ」を聞く日が来るなんて。


 ……なんか、胃に来るものがあった。


 うずくというか。

 重くなったというか。


「あの子、隙あらば酒を飲もうとするんだ。反抗期だろうか」


 反抗期。

 そんなの何百年前に終わっているはずだが。


「そ、そうですね」


 言えやしない。

 クノンは曖昧に頷くことしかできなかった。





「――ごめん、お待たせ」


 グレイちゃんから取り上げた酒を、ロジーへと持って行ったシロトは。


 待っていたアイオンと一緒に戻ってきた。


 シロトは彼女の部屋を訪ね、声を掛けたのかもしれない。


「ちょっと調整をしてたんだ。最近使ってなかったから……」


「全然構いませんよ。

 それより、それが? その素敵な小脇に抱えた板状のそれが? 例の?」


「あ、うん。例のだね」


 クノンは立ち上がった。


「――早く試しましょう! さあ早く! 昨日からずっと楽しみにしてたんです!」


「あ、はい。はいはい」





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― 新着の感想 ―
知っているからこその胃痛w
[気になる点] 帰す→返すじゃないですか?すみません
[一言] #「あの子、隙あらば酒を飲もうとするんだ。反抗期だろうか」 # 反抗期。 # そんなの何百年前に終わっているはずだが。 第二次成長期とか 第三次世界大戦とか 第四次スーパーロボット大戦とか…
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