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383.小鳥の行方





「――あ、あったあった」


 家に帰ってきたクノンは、まず倉庫代わりの部屋へやってきた。


 ここは整理整頓されている。

 調合機材や実験機材、素材関係もここに置いてあるのだが。


 ぐちゃぐちゃにはなっていない。

 学校の教室とは大違いだ。


 管理を侍女リンコに任せているからだ。


 クノン管理とは比べ物にならない。

 おまけに掃除も行き渡っている。


 なんだかんだ言って、侍女はちゃんと仕事をしているのだ。


 もうダメかもしれない。

 リンコなしでは、クノンは生きていけないかもしれない。


 そんなことを考えながら、並んで置かれていた小鳥の置物三つを運び出す。


 今日だらだら話していた中で出た、「音を記憶する小鳥」である。


 ここに置いていたのだ。

 性能テストと経年劣化を見るために。


 遠征があったりなんだりで、すっかり忘れていた。


 ――さて。


 もうじき夕食だそうなので、リビングに持ってきた。


 まずは観察。

 特に変化はない。


 一ヵ月以上前に吹き込んだ魔力も、そのまま残っていると思う。


 三つとも条件を変えて作ってあるが。

 三つとも、変化はないと思う。


 元々そう複雑ではないので、時間の影響は受けていないようだ。


 むしろ使用しての摩耗が心配――


「食事にしましょう、クノン様。ささ、食事の時くらい魔術はやめましょうね」


「あ、うん」


 夕食ができたらしい。

 侍女が皿を運んでくる。


 今日はベーコン入りシチューとパン、サラダだ。


 サラダにはフルーツが入っている。

 ちょっと豪華だ。


「あら? それって倉庫にあった小鳥ですか?」


「そうだよ。……そういえばリンコには話してなかったかな?」


「何も聞いてないですよ。

 いつだったか、急に倉庫に増えていたので、クノン様が置いたんだろうなって思ってましたけど」


 そうだっただろうか。


 クノンの記憶は曖昧だ。

 自分であの部屋に置いた記憶は……ちょっと、ない。


 たぶん疲れている時だったのだろう。

 徹夜明けとか。


「ごめんね、君に隠し事をしてしまって。僕の財産以外の全てはいつだって君やほかの女性たちのものなのに」


「それより可愛いですよね。実はちょっと気になってたんです」


 それより、と言われてしまった。

 財産以外と限定したからだろうか。


 まあ、もう慣れた。

 この侍女は時々すごく冷たくなる。


 が、そこもまた魅力的だ。


 とにかく。


 よくあることなので話を進めることにした。


「これはね、音を記憶する魔道具なんだよ」


「音を、記憶?」


「そう、こんな感じでね」


 クノンが小鳥の頭に触れる。


 すると、以前記憶させた自分の声が流れ始めた。


 ――「君の毛はいつだって僕の心を湧き立たせる毛だよ」


 作っていた時、「自分の声はこんな感じなのか」と少し違和感があったが。


 これも、もう慣れた。


 それより内容だ。

 こんなこと言っただろうか。


「あのー……クノン様。その、魔道具的な驚きもあるにはあるんですけど、発言の内容の方が気になります。


 毛ってなんですか?

 これクノン様は何を思って言ったセリフなんでしょう?」


「うーん……僕こんなこと言ったかな?」


「私は知りませんが」


 まあ、内容はともかくだ。


 記憶させた音は、ちゃんと聞くことができた。


 音に雑音が混じることもない。

 一ヵ月以上放置していたが、内部機構も問題なさそうだ。


「その二つにも、何か声が入っているんですか?」


「うん、入ってるよ。あ、わかった。僕の紳士的な声が聞きたいんだね?」


「ええ、そうですね。特に内容が気になりますね」


 そこまで言われては仕方ない。


 考えるのは後にして、まず聞いてみよう。


 ――「元気な君の毛が大好きだよ」


 ――「すっかり毛が長くなったね。素敵だよ」


 こんなこと言ったかな。

 本当に自分は言ったのだろうか。


 まるで記憶にない。


「毛の話しかしませんね」


 確かに。

 過去の自分は何を思っていたのだろう、とクノンは首を傾げる。


「なんだろうね。僕もよくわから……あ、思い出した」


 吹き込んだ言葉の記憶は、やはり怪しいが。


 吹き込む言葉を考えた時のことは、思い出した。


「近くに犬がいたんだ」


 造魔犬グルミが。


 そう、この小鳥を作ったのは、ロジー邸でだ。

 たぶん近くにグルミがいたのだろう。


 行くたびに歓迎してくれるから。

 グルミは可愛い。

 犬を飼いたい。


 そんなことを思いながら、吹き込む言葉を考えたのだろう。きっと。たぶん。


「あ、犬の話ですか。ああ、なるほど。確かに犬って毛深いですもんね。毛が生えてないところがないんじゃないかってくらいびっしりですもんね」


 ――まさか女性関係ではないか、女の毛の話ではないか、と割と本気で疑っていた侍女だが。


 これには納得である。


 犬の話になれば。

 そりゃ毛の話になるのも当然だ。


 むしろ毛の話以外、話すことなどないだろう。

 犬ってそうだから。


「ああ、びっくりした。さあ、夕食にしましょう」


「うん」





 クノンがスプーンを取り。

 リンコは、テーブルの小鳥を片付けようとそれを手に取り。


「音が出る、か……」


 その不思議な魔道具を、まじまじと見詰める。


 音を記憶する小鳥。

 やはり魔術とは不思議なもので、こんなものを作り出すクノンも不思議だ。


「それ、手紙みたいに使うことを想定して作ったんだ」


「あ、それはいいですね」


 思い出すのは、ヒューグリアの未開の地にいる、リンコの婚約者。


 これなら返してくれるかもしれない。

 あの筆不精でも。


 しかし、まあ、それはともかく。


「ねえクノン様、これって砂時計で作れませんか?」


「ん? え?」


 思ったよりシチューが美味しかったらしく、ちょっと夢中になっていたクノンだが。


 リンコの声で我に返った。


「砂時計?」


「はい。砂が落ち切ったタイミングで音が出る、みたいな感じで」


 煮込み料理を作っている時。

 鍋を火にかけている時。

 お菓子作りの時。


 火元から目を離すのはよくない。

 だが、どうしても台所を離れざるを得ない時がある。


 それは、まあ、気を付けてはいるのだが。


 時々、他所事に集中しすぎて、台所のことを忘れることがあるのだ。


 そんな時、もし声で教えてくれる砂時計があれば。

 うっかりすることも減ると思う。


「それくらいならできると思うけど」


「じゃあぜひ作ってください。これたぶん主婦に売れますよ」


「なるほど、家事に立ち向かう淑女たちの役に立つんだね。


 ――じゃあ、作らないわけにはいかないね」


 こういう時、クノンは本当に頼もしい。

 




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― 新着の感想 ―
毛の意味が分からず爆笑。 キッチンタイマー爆誕。確かに売れるだろうなぁ。
タイマーか 意外と学生にもウケるじゃないのかな? クノンしかりご飯の時間を忘れちゃう人種だから
[良い点] 犬好きからちょっと一言! 犬について話すべきことは、毛だけではありません。 お鼻もお耳もお口も、尻尾もお腹も背中も、ちらりと覗く犬歯も……! 話すこと褒めることはたくさんありますよ!
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