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382.魔属性と呪術





「――そもそも魔属性って、他にできることが極端に少ないんだよね。


 そういう意味では、火属性と似てるかもね」


 買い物に行くというアイオンを捕まえ。

 紳士的かつセクシーな誘いで、椅子に座ってもらった。


 そして、決してセクシーではない現状を話すと。


 アイオンは自分の話をしてくれた。


 彼女は錬金術と魔道具造りを得意としているそうだ。


 もっと言うと。

 魔属性の活かし方がそれ以外思いつかない、そうだ。


 日常生活の中では、攻撃的な魔術など必要ない。


 だからできることがあまりない。

 そういう意味では火属性と似ている、と。


 火属性も、日常で火力が必要なシーンがほぼないから。


「そういえば、魔属性って魔道具制作に向いているらしいですね」


 クノンも心当たりがある。

「実力」のジュネーブィズがそうだった。


 光、闇、魔は希少属性である。

 使い方や使い道がわかりやすい四大魔術と比べて、この三つは違う。


 何に有効で、何ができるか。

 パッと思い浮かぶのは、光属性の治癒くらいのものだ。


 魔属性は、対象の性質を一時的に変えるもの。

 ジュネーブィズもそう言っていたが、彼曰く「よくわからないことも多い」とのこと。


 今ならクノンも、少しわかる気がする。


 先の魔人の腕開発実験。

 アイオンの魔術の効果はわかりづらく、だが決して無駄だったわけでもない。

 

 クノンの知らない魔属性の使い方があるのだろう。


 ――あの時の記憶を振り返るなら。


 魔属性は、深い(・・)

 一時的に性質を変える、なんてほんの一部の効果で、もっと違う使い方がある気がする。


 もっと言うと。

 ジュネーブィズもそれを知っていて、秘密にしている気がする。


 彼もまた、特級クラスの生徒だから。

 優秀でないはずがない。


「向いてるっていうか、さっきも言ったけど……」


 と、アイオンはポケットから小さな丸い何かを出した。


「これ、ただの粘土なんだけど……」


 その粘土を、両手でこね出す。


「こうやって、形を作って、性質を変えると……金属製になったり」


 コト、と硬質な音ととも、テーブルに置かれたそれは。


 鉄色の、小さな猫の置物だ。


「ガラスにしたり……ね」


 今度は透明度を増し、透き通るほど綺麗な色になった。


「これが魔属性のわかりやすい説明だと思う」


 これは知っている。

 まさにジュネーブィズがやっていたことだ。


 クノンが水で形を造り。

 彼が性質を変える。


 こうやって仮組みして、試行錯誤していった。


「……性質を変えるっていうのは、ね。こういうことでもあるの」


 猫の置物が、どろりと溶けた。


 テーブルには、こぼしたような水が残っている。


「更に、こう」


 今度は水も消えた。


 もう、粘土細工の猫の痕跡は、一切残っていない。


「水を蒸発させたんですか?」


「うん。

 つまり魔属性は、物質を消したり、素材を掻き集めたりすることもできるの」


 アイオンは空気に漂う水分を集め。


 また、猫の置物を誕生させた。


「まあ、ここまでやったら本質まで変わっちゃうけどね。


 これはもう粘土じゃない。水になっちゃった」





 極々短い抗議だったが。

 それは驚くに足る内容だった。


「……万能?」


 驚きを通り越して呆然としているシロトが、呟く。


 そう、万能だ。

 魔属性の可能性を多いに感じさせる話だった。


 もしかしたら、土魔術より何かを造ることに長けているかもしれない。


「ううん、決して万能じゃないよ。

 何にでも変えられるわけじゃないし、何でも造れるわけでもないし。


 そもそも普通の魔属性なら、効果時間はあまり長くないし……」


 普通の魔属性なら。


 ――アイオンの左目にある、呪詛師の紋様。


 これは「呪術」という固有魔術が使える証である。


「呪術」。

 呪い。


 この固有魔術。

 単純に言えば、超長時間持続の抵抗力低下魔術である。

 

 一度掛ければ、解除しない限り。

 年単位で対象を弱らせ続けることができる。


 使う魔力が小さいので、発覚しづらい。

 術者がいなくても持続する。


 まさに呪いである。

 最初は効果がなくても、一ヵ月、二ヵ月、三ヵ月と続くと、目に見えて変化が出てくる。


 アイオンの「災約の呪詛師」の二つ名も、ここから来ている。


 災厄の予言、予告、確約。

 気が遠くなるほど持続する弱体化に、そんな意味が付けられた。


 ――本当に「呪い」のような使い方をしたら、まさに最悪の魔術となるだろう。


 二つ名が付いて有名になったのは、周囲の警戒心からである。


 有名になれば注目される。

 注目されれば、アイオンは動きづらくなる。


 きっと権力者ほど警戒しているはずだ。


「二人には、わかったと思うけど」


 確かにわかった。


 魔属性のことを知った今なら、納得できた。


「空飛ぶ魔道具に何かを入れて燃料にするとか、そういう感じですか?」


「そうそう。

 原理はすごく単純なんだよ。若い頃の私が造ったくらいだから、難しくなくて……」


 ――と、アイオンは昔を思い出す。


 ゼオンリーと過ごした日々。


 一緒に錬金術をしたり。

 家を爆破したり。

 魔道具という文化を知り、夢中になったり。


 彼の横顔を見て過ごした、あの日々。

 もう戻ってこないあの日々が、懐かしい。


 クノンとシロトを見ていると、なんだか重なって見えるのだ。


 あの頃の自分とゼオンリーが。


 まあ、全然似てないが。

 なぜ重なるのか疑問に思うくらいには、似ていないが。





「こうなると、自ずと結論が出てしまいますね。アイオンさん」


 シロトの声に、アイオンは思い出の世界から戻ってきた。


「その『空を飛ぶ魔道具』をぜひ見せていただきたい」


 そうですね、とクノンも頷く。


「これだけ色々聞かされたら、興味を抱かない方が変です。


 あなたの奥ゆかしい魔道具、この紳士と淑女に見せていただけませんか?」


 ――まあ確かに、とアイオンは納得する。


 自ずとそんな結論が出る話をした、とは思う。


「見せるのはいいけど、学校にあるんだよね……」


「ではこれから取りに行きましょう」


「え?」


「買い物に行くのでしょう? ついでに学校へ寄ればいいでしょう」


 これが若さか、とアイオンは思った。

 行動力が違う。


「えー行くのー? 学校まで行くのめんどくさーい」と思ったアイオンとは大違いだ。


「クノン、もうじき暗くなるから、おまえは帰れ。

 私も我慢するから、披露会は明日にしよう」


「わかりました。

 いやあ、明日が楽しみだなぁ!」





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― 新着の感想 ―
[良い点] さらりと家を爆破(笑) ハッ!? 今なら、魔建具で瞬時に家を作れるから爆破し放題!? 毎分、家を壊せますね! ギネス記録、待った無し! [気になる点] 魔属性の能力。 科学的に言えば、…
[一言] またしても了承してないのに勝手に予定を決められるアイオンさん(妙齢の美女)
[一言] しかし形状変化させたものに別のものを混ぜた場合はどうなるんだろう。例えば普通は混ざらない物同士も混ぜる事が出来るのかな?
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