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375.熱風と、別の力





「ああ、なんか土の連中が騒いでたっけ」


 丁度いいタイミングで現れた、「合理」のカシス。


 クノンらはすかさず彼女を確保し。

 集まっていた理由を説明する。


 さりげなく包囲しつつ。

 トライアングルの中央に立たせつつ。


 逃がさないように。


 なんの打ち合わせも、目くばせさえなく。

 この陣形を選んだ。


 やはり、考えることは同じらしい。


「魔建具か……」


 カシスは真剣な顔で考え込む。


 研究者、魔術師の顔だ。

 不機嫌そう顔しか知らないクノンには新鮮である。


 そう、彼女も特級クラスの魔術師だ。

 優秀なのである。


 そして。


 幸か不幸か。

 逃げ道を断たれていることには気付いていない。


 匠のトライアングルフォーメーションには、気付いていない。


「家が建つの?」


「はい。

 すごく簡単に言うと、術式を描いて、魔力を込めたらその形に土が出るってやつなんですけど」


 更にクノンが説明すると、カシスは眉間に眉を寄せて深く頷いた。


「なるほど、土を出すっていう基礎魔術を術式に描いて、形を制御するわけね。

 発動すると術式でデザインした土が出る、と。


 こりゃ騒ぐ理由がわかるわね」


 ――風属性持ちのカシスである。


 土は管轄外だ。

 だから、周囲が騒いでいても、あまり気にならなかった。


 だが。


 騒ぐ理由がよくわかった。

 そして、クノンらがカシスに近づいてきた理由も、自ずと見えてきた。


「もしかして、その魔建具の家に風を組み込みたいって話?」


 さすが特級生、話が早い。

 色々と癖の強いカシスだが、やはり優秀だ。


「そうです。できそうですか?」


「風を吹かせるだけならね」


 と、カシスは笑う。


「また面白いことしてるじゃない、クノン君」


 なんとなく。

 今のこの表情こそ、本来のカシスである、ような気がした。





「――髪を乾かす風っていうと、やっぱり熱風よね」


 今考えている案は、風呂の後のこと。


 髪を乾かす風。

 洗濯物を乾かす風。

 あとは、身体を乾かす風があってもよさそうだ。


 その辺のことを伝えると、カシスは「熱風よね」と答えた。


「というか私はすでにやってるし」


 実体験付きなら間違いないだろう。


「それを組み込みましょう!」


 これで風呂周りの悩みは解決である。


「待って。お風呂もいいけど、温泉は? 温泉はできないの?」


 どうやらカシスは、温泉が欲しいようだ。


「温泉は――」


 と、エルヴァが温泉は難しそうだ、という説明をすると。


「ああ……じゃあ、アレね。そこだけ別の力を借りればいいわけね」


「別の力?」


 気になるフレーズである。


 なんだ?

 クノンの知らない魔術の話か?


「カシス先輩」


「うん?」


「今日の先輩ってお肌のツヤが一味違う気がしますけど、その美貌はどうやって保っている感じですか? それと別の力という魅力的な話の詳細は?」


「うん、あのさ」


 カシスは冷たい目でクノンを見詰める。


「さっきは言わなかったけど。

 髪は切ってないし、髪型も変えてないし、今日のお肌のツヤはむしろ悪い。徹夜明けだっつーの。


 美貌は……」


 チラリとエルヴァを見る。


「今は隣に並ばないで、って感じ。あんたは特に」


「あ、うん」


 実験か、あるいは開発か。

 カシスは本当に忙しいのだろう。


 この後予定がある、と言っていたのも、嘘ではないのかもしれない。


 トライアングルがほんの少しだけ狭まる。


 ――それでも逃がす気はないから。


「別にご機嫌取らなくても教えるって。大したことじゃないし。


 温泉みたいになる薬を入れればいい、ってだけの話。

 薔薇湯とか柚子湯とか、色々あるじゃない? シンプルな薬湯も悪くないと思うわ」


 なるほど、と三人は頷いた。


 別の力。

 つまり、魔建具以外で温泉にする、と。


 ――その方が却って楽かも、とクノンは思った。


 連想したのは、聖女の植物たちだ。

 ディラシックなら薬草も入手できそうだし、果物の皮も使えるだろう。


 そう考えると。

 風呂を変える方法は、たくさんあるわけだ。


 魔建具で多数の泉質を作る。

 それはきっと大変だ。


 しかし、温泉になる薬があれば、それでもいいわけだ。


 むしろ手軽だと思う。

 その時の気分で、色々変化を付けられるだろう。


「柔軟な発想だ。素敵ですよ、カシス先輩」


「むしろなんで逆に思いつかないの、って私は思うけどね。

 無駄に高度なことは考え着くくせに」


 ――しかし、だ。


「でも、いいね。お風呂と洗濯と乾燥か。

 家はともかく、お風呂だけでも充分欲しいわ。思いついたらパッと入れるって最高だわ」


「最高よね」


 女性陣たちの受けは非常に良い。


 そんなものか、と男性陣は思うばかりだ。





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― 新着の感想 ―
生み出す土の成分を変えて溶けやすい温泉成分だけにすれば即席入浴剤も作れそうだけど… 魔力を切ったら効能も消えたりするかな?
[良い点] 聖女が帰ってきたら薬湯の完成か ついでに植物のための温室も完成だ
[一言] 匠だ…まさに匠だ…っ‼ 〇ルヴァニアファミリーみたいにパーツセット販売とかするのかなあ
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