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374.パズルのピース





「――へえ」


 エルヴァ、ラディオという先輩方と合流し、図書館へやってきた。


 早速、手分けして本を探す。


 目的は、温泉の資料。

 それと排水関係の建築技術だ。


 どちらも魔術とは直接関係していない。

 なので、ここにあるかどうかはわからないのだが。


 しかし、蔵書の量が量である。

 この奥行の果てが見えない大きな図書館なら、一冊二冊くらいはありそうだ。


 結果から言うと。

 温泉の資料は、すぐに見つかった。


「なるほど、魔水も温泉になることがあるのか」


 見つけた本を捲ってみる。


 魔水。

 簡単に言えば、自然の中に存在する、魔力を帯びた水のことだ。


 クノンも存在は知っていたが。

 熱を帯びた湧き水が魔水だった、というケースもあるのだとか。


 魔力溜まりや聖地・聖域。

 あれらと同じ理屈のものだと思えばわかりやすい。


 本によると、魔水は「魔泉」や「魔水源」と呼ばれるそうだ。


 留まる水は魔泉。

 川のように流れる水は、魔水源。


 そして魔水源の場合は、流れている間に魔力が失われていき。

 最終的にはただの水になるのだ、と。


 その辺にある川も。

 源を辿れば魔水源だった、というケースもあるわけだ。


「ふうん」


 興味深い。


 魔水の傍では、植物や動物の生態が若干変わってくるそうだ。


 周囲の生態系を壊すのであれば、毒を帯びた水のようだが。

 しかし、それとも解釈が異なるらしい。


 あくまでも魔的要素。

 魔力による周辺への影響が出るらしい。


 魔水という存在は知っていたが。

 クノンの活動にはまるで関係なかったから、これまで意識することがなかった。


 いずれ現地で調べてみたいものだ。





 何冊か本を持って、エルヴァらと合流する。


 先輩方も数冊は見つけていて。

 立ち読みがてらぱらっと見てみたらしい。


 この辺りが魔術師だ。

 やることがまるで同じである。


「温泉は難しそうね」


 と、エルヴァが言った。


「お湯が出る機能と、効果効能の再現もできると思う。魔建具に触ってみた感じはね。

 ね、ラディオはどう思う?」


「……同感だ。俺たちには少し難しいと思うが、水魔術師なら簡単にできると思う」


 確かにできそうだ、とクノンも思った。


「でも問題は、温泉を利用する人の体質なのよね。

 この温泉なら万人に合う、ってお湯はないと思う。


 いつもは平気な人でも、その時の体調によって受け付けなくこともありそうだし。匂いなんかが強いと、特にあるんじゃないかな」


 なるほど、とクノンは頷く。


「僕は温泉って入ったことがないですけど、でも――」


 さっき本で読んだ情報を、頭の中で整理してみる。


「匂いがある温泉って多いみたいですね。もしかして無臭の方が少ないのかな」


 まあ、あたりまえかもしれない。

 水だって水の匂いがするから。


 温泉でも同じことだ。

 効能が溶け込むと同時に、匂いも付いてしまうわけだ。


「……最初に作るなら、ただの湯でいいと思うが」


 ラディオの言う通りだ。


 まずは雛形を作る。

 温泉だの効能だのにこだわるのは、それからでいいだろう。


「……で、術式はこれでいいか?」


「あ、すごい。そうそう、こんな感じです」


 彼が出したメモには、クノンが考えていた術式が描いてあった。


 これから描くつもりだったのだが。

 すでにラディオは答えに辿り着いてしまったようだ。


 やはり優秀である。


 一応、術式を描くには水魔術師の魔法陣も必要なのだが。

 彼にはある程度、水の知識もあるのだろう。


「これって熱湯出ない?」


 クノンの横でメモを睨むエルヴァも、わかるようだ。


 本当に優秀な先輩方である。


「ここ、ちょっと変えると温度の調整ができますよ」


 と、クノンが口出ししたのは、それだけだった。


「ん? ……ここか?」


「ああ、なるほど。大まかに下げて、微調整は試しながらって感じがいいかもね」


 そんな相談事が始まり。

 更に、話は発展していく。


 果たして風呂には何が欲しいか、と。





「――僕の母が言うには、保冷庫は外せないらしいですよ」


 風呂やサウナ。

 その後に、キンキンに冷えたエール。


 エールを冷やす保冷庫。

 グリオン家では必須アイテムだった。


 クノンの母は、高いワインより何より、これを好んだ。


 先の遠征で発覚した、ミリカの酒好き。

 きっと彼女も気に入るだろう。


 いずれ一緒に楽しめるようになりたいな、と思う。


「――……俺は洗濯ができるとありがたいな。風呂に入っている間に洗って、すぐに乾いていてほしい」


 ラディオは、時間の節約がしたいようだ。


 洗濯と乾燥。

 従来であれば、手で洗って干す必要がある。


 時間が掛かる。

 天候によっては干すことができないタイミングもある。

 魔術が使えなければ、当然そうなる。


 なるほど、確かに家の機能でできると便利そうだ。


「――私はやっぱり髪かな。一度濡らすと乾かすのに時間が掛かるのよね」


 髪が長いエルヴァならでは、という発想である。


 髪の乾燥。

 クノンなら、水分を取り除くことができるので、気にしたこともないが。


 そうだ。

 髪どころか身体だって、濡れたら乾かす必要があるのだ。


「乾燥かぁ……」


 それっぽい魔道具は思いつく。

 が、魔建具に入れるには少しややこしいかもしれない。


 上がった要望で言えば。

 ラディオの「服の洗濯」まではできそうだが、他は向いていないと思う。


 向いていない。

 そう、土魔術師と水魔術師には。





「あ」


 なんだかんだと話していると、第三者の声がした。


 クノンらが振り返る。


「「あ」」


 三人が漏らした声は、綺麗に重なっていた。


 そこには「合理の派閥」カシスがいた。 

 今日もミニスカートから生えた太腿が美しい。


 何冊か本を抱えているので、彼女も調べ物に来たのだろう。


 ――カチリ、と。


 彼女を見た瞬間。

 三人の中にあったパズルのピースが、同時にはまった。


 そう。

 今求めるべきは、風だ。


「カシス先輩、ちょっと来てください」


 クノンは手招きした。


「は? やだけど」


 カシスの反応は悪い。


 色々と根に持たれているせいか。

 あるいは乙女の気まぐれか。


「おいで」


「は、はあ?」


 エルヴァが手招きすると、カシスは動揺した。 


 元々人見知りするカシスである。

 あまり親しくない顔見知り程度の相手に誘われると、少し困る。


 比較的平気なのは、有事の際くらいだ。


「……来てくれ」


「えぇ……」


 ラディオにまで手招きされ、カシスは本当に困惑した。


 ラディオは同じ派閥で、先輩ではあるが。

 正直まともに話したこともない相手だ。


「……いや、私このあと予定あるし、あの、あんまり時間が……」


 ――カシスは後ずさりした。


 気まずい。

 何をさせるかは知らないが、このメンツの中に交じるのはきつい。


 ここは速やかに撤退を――


「すぐ済みますよ、レディ。あ、髪を切りました? その髪型もお似合いですよ、先輩」


 クノンに距離を詰められた。


 ちなみに髪は切ってないし髪型も変えてない。


「まあまあ、ちょっとだけちょっとだけ。ちょっとだから。ね?」


 エルヴァに持っていた本を奪われた。


「……頼む、少し時間をくれ」


 ラディオには普通に頼まれた。


 クノン、エルヴァはともかく。

 同じ派閥の先輩に言われると、さすがに断りづらい。


「……ちょっとだけですよ」


 どうも逃げられそうにない。


 カシスは観念し、話だけは聞いてみることにした。





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― 新着の感想 ―
カシス先輩*弱そう(偏見)
光属性の治癒効果も魔法陣で組み込んで色々癒す温泉って作れる?
[一言] よかった…クノンの地の文でも彼女呼称になってて。レディの範囲が広がって嬉しい。
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