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373.やはりすぐに追い越された





「――あれ?」


 魔術学校の敷地内にある、空いたスペース。


 そこに屋敷が建っていた。


 昨日までなかったはずだが、確かにある。


 温かみのある木造建築だ。

 古めかしい印象もあるが、その分だけ由緒正しい歴史のようなものを感じさせる。


 まあ、歴史はないと思うが。


「ほほう……」


 クノンは近づき、手を伸ばす。


 見た目は完全に木造だ。

 しかし、外の壁……板に触れて撫でれば、すぐにわかる。


 指先に伝わる、ざらつく手触り。

 砂の粒子だ。


 やはりこれは、木造に見える土の屋敷。


 魔建具の産物である。





 アイオンから温泉を頼まれた翌日。


 今日もクノンは魔術学校へやってきた。

 諸々の調べ物と、ついでに温泉についても調べてみるつもりだった。


 魔術と温泉。

 繋がりがあるのかどうかわからないが。


 わからないだけに、ちょっと探してみたくなった。

 何か面白いことでもわかるかもしれない。


 ――で、この屋敷だ。


 見慣れない建物が気になって、近づいてみたわけだが。


 やはりこれは、誰かが作った魔建具の産物らしい。


 誰が作ったのかは知らないが。

 随分大きなものを作ったものだ。


 まだ公表されて日が浅いのに。


 生徒だろうか。

 それとも教師だろうか。


 どちらにせよ、優秀な魔術師の仕事で間違いないだろう。


「……」


 訪ねてみようか。

 中に誰かがいる気配はするので、ドアをノックすれば応じてくれるかもしれない。


 それとも、ここはスルーしておこうか。

 後で誰かに聞いてみるのもいいだろう。


「あっ」


 ほんのかすかに、女性の声がした、気がした。


 ならば訪ねない理由はない。


 ここは一つ。

 紳士的に堂々と訪問してみよう。




 

「――あ、クノン」


 何度かノックすると、女性が出てきた。


 そして納得した。


「おはようございます。そうですね、エルヴァ嬢ならできるでしょうね」


 出てきたのは、「調和の派閥」エルヴァである。


 派閥一の美女と言われる彼女だが。

 魔術師としても大変優秀だ。


 魔術を入れる魔道具「魔帯箱」を一緒に開発した仲である。 


「この屋敷? うん、作ったの。魔建具で」


 多少魔術ができる土魔術師なら、魔建具は簡単に作れる。


 ただ、この大きさはすごい。


 師ゼオンリーもすぐに凝ったものを作っていたが。

 彼女も同じことをしているようだ。


「まあ、共同制作なんだけどね」


「共同でも充分すごいと思いますよ。あなたの美しさに相応しい美しい木造建築風ですね。まるで世界樹があなたの美貌のために用意した家のようだ。あれ? これって世界樹でできた家ですか?」


「いえ、土だけど」


 そう、魔建具は簡単なのだ。

 術式は単純だし、土魔術師ならすぐに慣れるだろう。


 ただ、ここまで大きいものとなると、話が違ってくる。


 魔建具への深い理解と。

 単純な建築技術と。

 そして、デザイン方面の知識も必要になるだろう。


 木造に見える加工といい、立派な佇まいといい。


 これはすでに、クノンの実力を越えたものだと思う。

 やっぱりすぐ越えられたなぁ、という感じだ。


 魔建具を最大限扱えるのは、やはり土魔術師だ。 


「どうした――ああ、クノンか」


 あ、とクノンは声を漏らした。


「ラディオ先輩、お久しぶりです!」


 本当に久しぶりに見た顔だ。見えないが。


「合理の派閥」の土魔術師ラディオ。

 大柄な彼も、ともに「魔帯箱」の開発を行った先輩である。


 細工物の仕事の関係で、ほとんど自分の部屋から出てこないそうで。

 だから、なかなか会えない人である。


 前にいつ会ったのか思い出せないくらいだ。


 ただ、気になるのは。


「二人は派閥、違いますよね?」


 ラディオは「合理」だ。

「合理の派閥」代表ルルォメットの紹介で知り会ったのだ。


「……クノン」


 ラディオは返事をせず、クノンの手を取った。


「……やはり君の発想は素晴らしい。面白いよ、魔建具」


「は、はい」


 初めて会った時もこんな感じだったな、とクノンは思った。


 まあ楽しんでいただけて何よりだ。


 加えて、エルヴァとラディオが揃ったなら。

 これくらいの物は余裕で作るだろうな、と思う。


 二人の実力はよく知っているから。





「へえ、そうなんですか」


 魔建具なる新技術が誕生した。


 そんな噂を聞いたラディオは、詳細を聞くためにエルヴァを訪ねたらしい。


 彼女なら、きっと着手しているだろう。

 そう確信していたから。


 そこでエルヴァから誘われたらしい。

 どうせなら一緒にやらないか、と。


 そしてやったそうだ。


「ちょっと調子に乗り過ぎた気はしてたけど、楽しくて楽しくて」


「……ああ。あれもこれもと欲張ったらこうなってしまった」


 わかる、とクノンは思った。


 魔建具は単純な構造だ。

 容易にあれこれできてしまうから。


 やっている内に、試したいことがどんどん溢れてきたのだろう。


 まあ、なんにせよ。


「それで、お風呂ってどうしました?」


 この二人の仕事だ。

 内部もきっちり作り込んでいるだろう。


 決して大きいだけのものではないはずだ。


「ふっふっふっ、この家の一番の自信作よ」


 と、エルヴァは笑った。


「なんとお風呂も木目調に仕上げたの。なかなかいいわよ。

 もちろん実際使えるようにしてあるわ」


 やはりこだわったようだ。


「実はセララも一緒に作ったのよ。昼頃に来る予定になってるわ」


 魔建具生みの親も参加したらしい。


「絶対、絶対に一緒にお風呂に入りましょうね、って力強く言ってたからね。だからこだわっちゃった」


 それはそれは。

 好都合。


 正直、更なる技術を公表していいのかと迷ったが――


 もうここまでできている人たちだ。

 なんならクノンの魔建具技術を、すでに越えているのだ。


 今伝えなくても、すぐに同じ技術に辿り着くだろう。


 だったらもう。

 隠す必要などないだろう。


「実はこの魔建具なんですけど――」


 クノンは伝えた。


 風呂に湯を満たす術式が組み込めそうだ。

 これからそれを開発するけど、一緒に来るか、と。





 こうして、三人は図書館へと向かうことになった。



 


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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱりこの世界の魔術師達、腕もいいし性格も悪くないけど、圧倒的に魔術狂いだから楽しい、大好きだわw
[気になる点]  セララ、置いてかれちゃった…?
[一言] ブレねぇな、百合令嬢
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