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370.これからのこと





「――もう会ったようだね。彼女は私の遠縁に当たるグレイちゃんだ」


 戸惑いながらも食堂へ行く、と。


 テーブルには、すでに教師ロジーが着いていた。


 並べられた食事は三人分。


 この時間にクノンが来る予定はなかった。

 だから食事は用意されていない。


 まあ、ちょっと話したら帰るつもりなので、これで問題ない。


 テーブルに着き。

 検めて、ロジーから少女の紹介をされた。


 グレイちゃん。

 つまり、グレイ・ルーヴァの紹介を。


 彼の遠縁、という設定らしい。


「……ええ、さっき本人から聞きました」


 戸惑うクノンが応えると――彼と意思が繋がった気がした。


 冷や汗だらだらのクノンと。

 少々笑顔が引きつっているロジーと。


 クノンは「先生は知っているようだ」と悟り。

 ロジーも、クノンの異変で察してくれたようだ。


 彼女はグレイ・ルーヴァである。

 その情報を、共有できた。


「……?」


 ――シロトは首を傾げる。


 ロジーとクノンの様子がおかしいことには気付いている。

 が、それ以上はわからない。


 まさか隣の席にグレイ・ルーヴァがいるとは、思いもしない。


「目的も聞いたかな?」


「はい。魔人の腕の観察をしたい、とか……」


「その通りだ。

 観察者は多い方がいいからね。……まあ、仲良くやってほしい」


「はあ……」


 仲良くも何も、という気はするが……。


 まあ、決定事項だ。

 考えたって仕方ない。


 気を取り直して。


 明らかに面白がってニヤニヤしているグレイ・ルーヴァが気になるが、気を取り直して。


「レポート、だいたいできました。

 あとは体裁を整えたら完成なんですけど、その前に記述抜けがないか確認してほしいです」


「お、早いね。わかった、あとで見よう」


 で、だ。


「明日からここに通って、シロト嬢の腕の状態を見ていきたいと思っています」


 本音を言えば、泊まって付きっ切りで観察したいくらいだが。

 さすがに難しいだろう。


 理想を言えば、何かしらの開発実験をしつつ。

 その合間合間に観察記録をする、というのが望ましい。


 なんでも、完全に定着するには数ヵ月は掛かるとか。


 今は違和感がある腕だが。

 シロトと一体化していくそうだ。

 

 不思議な現象だ。

 ぜひとも観察したい。

 事細かに記録もしたい。


「そうか。

 実はアイオンも観察に参加することになっているんだ」


「アイオンさんも?」


 ――そういえば、彼女はグレイ・ルーヴァの直弟子だったか。


 その辺のしがらみによる参加だろうか。

 師弟関係はそういうのある、とクノンは知っている。


「いいですね」


 アイオンには色々と聞きたいことがある。


 やはり引っ掛かることが多かったのだ。


 レポートを書いている間、アイオンの魔術に関して何度も考察した。

 自分なりに解釈しないと書けないから。


 しかし、どうもしっくり来ない点が多い。


 特に――やはり魔術の特性、だろうか。


 彼女は魔属性で間違いないはずだ。

 しかし、魔属性だとすると、納得できない点が多々あった。


 クラヴィスの「結界」といい。

 アイオンの魔術の謎といい。


 どうにも、まだクノンが知らない魔術の側面がある気がする。


 知らない法則か。

 あるいは新技術か。


 クノンの知っている魔術の法則、通例。

 それらを大きく逸脱した現象があるのだと思う。確実に。


 ――というか、だ。


 それを体現している人物が、シロトの隣にいるではないか。


 グレイ・ルーヴァ。

 彼女の魔術など、全てが謎だ。

 今のあの状態も、何がなんだかわからない。


 クノンの知識では、何一つ理解できない。

 そんな魔術を駆使しているではないか。


 魔術には、別の法則がある。

 これは間違いないと思う。


 ただ、それが何なのかが、まるで見当もつかない。


「――グレイ、それは酒だ。ダメだろう」


「――え? ああ、大丈夫、大丈夫。私の国では年齢制限ないから。シロトお姉ちゃんも一緒に飲もうよ」


「――ダメだ。その歳から酒など飲んでいるとバカになるぞ」


 その歳から。


 正確な年齢は誰も知らないが、それは数百歳になる人である。

 年齢はクリアしているだろう。


 まあ、肉体に限れば、本人でさえないらしいが。


「――これは没収だ。……こんなの出した覚えないぞ……」


 グレイが持っていた酒瓶を取り上げ、シロトは不思議そうな顔をしている。


 そう。

 その酒瓶は、テーブルにはなかったはずだ。


 いつ、どうやって、グレイは酒瓶を手にしたのか。

 それも、まるで見当もつかない。


 色々と戸惑うばかりだが。

 冷静に見ると、断トツで気になる存在だ。


 ――グレイ・ルーヴァの観察もしたい。

 ――もしかしたら、知らない魔術の可能性に触れるかもしれない。


 クノンがロジー邸に通う理由が、また増えた。





 こうして、魔人の腕観察記録が始まった。


 観察自体は特にやることがないので、すぐに終わる。


 回数こそ増やせるが。

 あまり嵩むとシロトが嫌がるので、程々にしなければならない。


 問題は、その他の過ごし方だ。

 観察以外で、ロジー邸に通う理由がほしい。


 何か開発実験などをしたいが。

 これといったものが思いつかない。


 せっかくグレイ・ルーヴァがいるのだ。

 教師であるロジーもいるのだ。


 とても優秀な先人がいる、この状況。

 今しかできない何かが、きっとあるはずだ。


 あるはず、だが――


「なんだなんだ、随分大人しいじゃないか」


 シロトの目がないところで、ちょくちょくグレイ・ルーヴァに絡まれる。


「す、すみません……」


 これが結構なプレッシャーになっている。


 何せ世界一の魔女である。

 世界中の魔術師が憧れる魔術師である。


 気軽に会話することさえ緊張してしまう。


「ん? 女と見れば口説くのがおまえだろ? アイオンとかシロトとか誘っていたよな? ならば今度は儂を口説けよ。デート行くか? ん? んん?」


「す、すみません、僕には可愛い婚約者と楽しい専属使用人と愉快な同期たちがいるので、グレイ嬢とデートはちょっと……」


「なんだ意気地のない」


 つまらん、と言い捨ててグレイ・ルーヴァは行ってしまった。


 ――とにかく。


 何かやることを考えねば。

 早く何か始めないと、彼女の圧に負けてデートしてしまいそうだ。


 



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― 新着の感想 ―
彼……?グレイって男性?
クノンはグレイちゃんを女性以上に魔術士として見ちゃうんだね。
魔女から酒取り上げたシロト嬢、真実を知ったら卒倒しそう
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