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252.候補はあの先生





「うふ、ふふふふふ。……誘ってくれてありがとう。旅行に誘われるなんて、はっ、ははっ、初めてだよ」


 相変わらずの笑い癖だ。


 まあ、嬉しそうではある。

 なので、今は笑ってもいいシーンではあるのかもしれない。


「すごく行きたいけど、ちょっと、急すぎるかな」


「実力の派閥」ジュネーブィズは、やはり笑いながら言った。


 お断りの言葉を。


「そうですか……」


 クノンは今日、「実力の派閥」の拠点である古城へやってきていた。


 食堂に来てもらい、単刀直入に切り出す。


 ――一ヵ月から二ヵ月くらい旅行に行きませんか、と。


「薄々無理だろうなって思ってましたけど、やっぱり無理ですか」


 土魔術師を探すために来たのだが。

 しかし、ここには面識のある、希少な魔属性もいるのである。


 断られたが。


 念のために声を掛けてみただけだ。

 希少属性持ちは忙しいので、結果はわかりきっていた。


「ベイル先輩は?」


 と、同じく来てもらった「実力の派閥」代表ベイルに聞いてみる。


「俺も同じくだ。ちょうど一ヵ月先まで予定が詰まってる」


 やはりこちらも無理だった。


「ですよねぇ」


 提案したクノンさえも、予想していた答えである。


 この二人が、あるいは片方だけでも。

 来てくれたら心強いな、程度の気持ちだった。

 

 逆に考えてみろ、という話である。


 急に「これから一ヵ月以上付き合ってくれ」と言われたら。

 困らないわけがない。

 

 そんなのクノンでも了承できない。

 たとえ女性に誘われても、だ。


 ――紳士として迷うところだが……いや、それでも、答えは変わらないと思う。


 紳士として、女性の期待に応えられないのは情けない限りだが。

 それでも無理だ。


 急なのも問題だが、とにかく拘束期間が長すぎるのだ。


 後輩セララフィラが行けなくなったのが、やはり痛かった。


「ぜひ土魔術師の方を連れていきたいんですが、心当たりはありませんか? できれば女性で。

 ちなみに僕と仲がいいのは、エルヴァ嬢とラディオ先輩です」


 つまり、魔帯箱開発で地獄を見たメンツである。


「知ってる。俺一緒に長丁場の実験したことあるぜ」


「私もあるよ。正直、うふっ、気の抜けたダルダルのエルヴァさんが、ふふ、当時ちょっと好きだった」


「あ、僕も好きでした。気が抜けているレディも素敵ですよね」


「俺も。キラキラしてる普段よりあっちの方に見慣れたよな」


 クノンの紳士的冗談にも付き合ってくれる、優しい先輩方である。

 ぜひ一緒に来てほしかったな、と思うばかりだ。


 ――そして、雑談している場合じゃない。


 クノンが「心当たりはありませんか?」と話を戻すと、ベイルは腕を組んだ。


「エルヴァとラディオも忙しいだろうなぁ。特にラディオは学校に来る間もねぇくらいスケジュール詰まってると思うぜ。

 他の心当たりは……今は全員なんかやってるなぁ」


 この二人やあの二人が忙しい、というより。


 特級クラスの生徒が全員、何かしら忙しいのだ。


「ふふふふふ」


 ジュネーブィズが意味深に笑う。


「……私は友達が少ないから……ふふふ……一人たりとも心当たりがないよ……」


 寂しい笑顔だった。





 古城を後にしたクノンは、歩きながら考える。


 ――本格的にまずい気がしてきた。


 ベイルの紹介で、「実力の派閥」に所属する何人かに話を通してもらったが。

 誰一人として良い返事は貰えなかった。


 返事の保留などもなかった。

「めちゃくちゃ行きたいけど」「すごく興味はあるけど」と、やはりスケジュール的に無理だと言われた。


 個々で動くことが多い「実力の派閥」が無理なら。


 少数や集団で活動するほかの派閥は、より難しい気がする。


「……」


 これから「調和」と「合理」の拠点を訪ねるつもりだったが。

 行くだけ無駄じゃなかろうか。


 早めにメンバーを決めたいところだ。

 そうじゃないと、遠征の日取りも決められない。


 聖女なんてすでに準備を始めているのだ。


 早く決めないと、本当に彼女一人で行ってしまいそうだ。


「……一応行ってみるかなぁ」


 特級クラスは皆忙しい。

 二級クラス、三級クラスは授業がある。


 となると、残る候補は三つだ。



 一、教師を当たる。


 教師は生徒より忙しいイメージはある。

 が、ロジー・ロクソンのような、ほぼ完全に引きこもりという教師もいるのだ。


 探せば、もしかしたら来てくれる人もいる、かもしれない。



 二、「自由の派閥」で探す。


「派閥」と名付けられてはいるが、ほぼ無所属みたいな人たちだ。


 図書館で見慣れない生徒を見かけることがあった。

 彼らが「自由の派閥」である。


 クノンは女性の生徒に声を掛けたことがあり、面識がある。


 ――彼女らは独特な実験開発を行っていて、話していてかなり興味深い。いずれ一緒に何かしたいと思っていた。


 これも難しいとは思うが、一応声を掛けてみたい。



 三、学校外で探す。


 冒険者の魔術師や。フリーの魔術師を雇う方向だ。


 幸い、仕事の関係で冒険者ギルドの偉い人と知り合いである。

 相談したら紹介してくれると思う。



「よし」


 次の行動が決まり、クノンの足が速くなった。


 まずは頼れる恩師。

 サトリ・グルッケに会いに行こう。


 彼女に暇してそうな教師がいないかどうか、聞いてみよう。


 ――結論を言えば、この選択が大正解だった。









「え? 暇してる土属性の教師?」


 サトリに相談すると、たらい回しにされた。


 そしてクノンがやってきたのは、サーフ・クリケットの研究室である。


 ここに来たのは二回目だ。

 前に来た時は、「水球」で飛ぶ実技を見てもらいたいと頼みに来たのだ。


 相変わらず整頓された部屋である。

 片づけられて羨ましい限りだ。


「はい。サトリ先生が、もしかしたらサーフ先生なら紹介できるかも、って」


 どうして風属性のサーフが、という気持ちはあるのだが。


 ダメで元々なので、相談だけはしておく。

 そんな軽い気持ちで来た。


 しかし――


「ちょうどいい。いい人いるよ」


 まさか色好い返事が来るとは思わなかった。


「いるんですか? 教師ですよ? 忙しいんじゃないんですか?」


「正確には教師じゃない。でも知識も腕もある人だよ。

 二ヵ月くらいなら問題ないと思う。


 そもそも彼女には実技訓練が必要なんだ。どこにいても魔術の訓練はできるし――」


「女性?」


 聞き捨てならない言葉が耳に入ってきた。


「その人を紹介してください」


 向こうの諸事情は、ひとまず置いておく。


 女性ならぜひ同行してほしい。

 紳士として。


「あ、そう? でも紹介はいらないから、直接会いに行ってみればいいよ」


「え?」


「セイフィさんだよ。ほら、入学試験の時に会っただろ?」





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― 新着の感想 ―
[良い点] あの何度も名前を呼ばれるセイフィさん!?
[一言] あぁ、準教師でゼオンリー師匠が素直になれなかったっぽい人
[気になる点] 聖女 1、2ヶ月の間 自宅や学校の植物どうするのかな?
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