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243.聖女の父





「レイエス嬢のお父さん、ですか。驚きました」


 クノンは本当に驚いていた。


 予想もしていなかった出会いだった。

 まさか聖女の父親が、ディラシックにやってくるとは。


「初めまして、クノンです。

 レイエス嬢とは魔術学校の同期で、仲良くしていただいています」


「こちらこそ。娘に好くしてくれてありがとう」


 優しそうな初老の男である。

 聖女の父親、と言われて納得……できるような、できないような。


 似ていない。

 少なくとも外見は。


 というより、聖女が特殊すぎるのだ。

 だから似てる似てないで測れるものではないのだろう。


 だが、そう。


 冷静に考えると、心当たりは、あるのだ。


「立場的に言うと、セントランスの高位神官でしょうか?」


「まあ、そうだね。それに近いかな」


 ――実際は教皇であるが、クノンは知らないことである。


「あ、じゃあ、そちらの美しいレディがレイエス嬢のお母さん?」


 クノンがそう指したのは、聖女の父の後ろに控えた女性である。


「私まだ二十代前半なんだけど」


 聖女の父が答える前に、本人が憮然とした顔で言った。


 聖女は十三歳。

 彼女は二十台前半。

 さすがに産みの親とは考えづらい年齢である。


 義母か継母という可能性もあるだろうか。

 

「え、見えないですね。ほんとに? 十代後半くらいかと思いました。お綺麗な肌と声ですね」


「……」


「まあ僕は本当の意味でも見えませんけどね。あはは」


 と、挨拶代わりに言ってみたが。


「君はレイエスから聞いていた通りだね。本当に聞いていた通りで少し感動しているよ」


 聖女の父が強く感心していた。


 ――聞いていた通りの紳士っぷりで感動したのだな、と。


 クノンは己の紳士を誇らしく思った。


「もしかして、……あ、なんでもないです。見たところ今街に到着した感じでしょうか?」


 ――もしかして輝魂樹(キラヴィラ)を見に来たのか。


 そう言おうとして、やめた。


 あの話はまだ公表されていない。

 そしてクノンがそれを知っているのは、魔帯箱が第十一校舎大森林化事件の一要因になってしまったからだ。


 たとえ関係者でも、話すべきことではない。


 話していいのは公表されてからだ。


「そうだよ。これからレイエスの家に行くところだ」


「道はわかりますか? よかったら案内しましょうか?」


「いや、大丈夫だよ。場所は知っているから」


「そうですか。お疲れでしょうし、挨拶は改めてさせてください」


 到着したばかりなら、無駄な立ち話なんてしたくないだろう。

 さっさと荷を下ろしたいはずだ。


「気遣いありがとう。


 ――君とはゆっくり話をしたいから、ぜひまた会いたいな」


 聖女の父は、声こそ穏やかだが。


「あ、はい……」


 一瞬、ものすごい圧を感じた、気がした。


 聖女の家へ向かう四人を見送りながら、クノンは思った。


 ――あの人は、優しそうな見掛け通りの人ではないのかもしれない、と。









 ――あれがクノンか。


 歩く教皇アーチルドは、今話した少年のことを考えていた。


 さっきの出会いは、本当に偶然だった。


 アーチルドたちは今ディラシックに到着したところだ。


 あまり滞在期間に余裕はない。

 かなり無理をして時間を捻出して来たからだ。


 どうしてもレイエスに会いたい、というのもあるが。


 それより何より。

 アーチルドはレイエスの周辺環境を確認したかった。


 この目で、直接。

 報告は聞いているが、その上で、直接確かめたかった。


 レイエスの豹変ぶりに、心配が募りに募ったからだ。


 植物に傾倒したり、キメるという言葉を多用したり。

 男友達が多かったり。

 金回りが非常にいいのも、逆に不安で。


 まあ、それだけなら、まだ我慢できたと思う。


 決定的だったのは、己が誕生日プレゼントだ。

 何せレイエスは、教皇相手にパンツを送り付けてきたのだ。紐みたいなやつを。


 どんな生活をしているのか。

 アーチルドにパンツを贈るという発想は、どこから生まれたのか。男のパンツという男が絡んでいそうな発想は誰からの影響なのか。


 そんな心配が、アーチルドを駆り立て。


 その結果、今、ディラシックにいる。


 レイエスの周辺環境がとんでもないことになっている気がして。

 もう、居てもたってもいられなくなったのだ


 夜に到着するよう時間を調整し。

 できるだけ人目を避け、必要な用事だけこなして帰るつもりだった。


 そんな矢先。


 一番の容疑者と出会ってしまった。


 それが、さっきの少年である。


「ネオン」


 歩きながらアーチルドが呼びかけると、続く女性の一人が「はい」と答える。


「さっきの少年の印象、どうだった?」

 

「驚くほど軽いですね」


 神官騎士ネオン。

 先ほど「十代後半に見える」などと愚にもつかないことを言われた女性である。


 彼女は護衛だが――さっきは護衛らしくない発言をした。


 教皇を差し置いての受け答えなど、許されない。

 だが、今回の旅はそういう役回りなのだ。


 だからあえて崩した言動をした。


 ここにいるのは教皇ではなく、レイエスの父親で。

 自分は同行している仲間だから。


 全員がそれを理解しているので、先の件については何も言わない。


「悪印象は?」


「ありませんでした」


「そうか――私もだ」


 驚くほど報告通りの、ナンパな少年だった。


 あんなにも短い邂逅で、あんなにもわかりやすいとは。


 だが。

 それでも、あまり悪い印象がなかった。


 ネオンの感想もそうだし、アーチルドも同感だった。


 本気で言っていない。

 はっきりそれがわかるくらい言葉が薄っぺらかったからだろう。適当すぎて逆になぜそれを言うのかわからないくらいだ。


 むしろ――アーチルドに対する態度と気遣いこそ。

 彼の本性ではないかと思う。


 立場上いろんな野心家を見てきたアーチルドである。

 人を見る目はあるつもりだ。


 まあ、腰を据えてちゃんと見極めたいとは思うが。


「――あっ」


 街に溶け込んでいる信者にさりげなく誘導され、高級住宅街へ進み。


 門の前に立っていた侍女が、アーチルドらを見て駆け寄ってきた。


「教皇様、遠路はるばるようこそお越しくださいました」


 信者フィレアだ。

 レイエスに付けている護衛兼侍女である。


「フィレア」


「はい」


「この街にいる間は、私はレイエスの父親だ。役職を呼んではいけないよ」


「畏まりました」


「――出迎えありがとう。レイエスは家にいるかい?」


 さあ、娘との再会だ。


 予期せぬ出会いはあったが、気持ちを切り替えていこう。


 ディラシックにいる間は、アーチルドとレイエスは親子だ。


 ぜひお父さんと呼んでもらおう。





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― 新着の感想 ―
いやもうコレ絶対、お義父さん娘にシカトされるの安易に想像できるんだがw
[一言] パンツを候補に挙げたのは誰だったっけ
[一言] なんてこったい。合法的にお父さんと呼んでもらう下地を作っておくなんて、なんて用意周到なんだ。これがパパ活か(違)
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