241.補助筋帯ベルト
「カイユ先輩の言う通りでしたね。
先生、『会話できる生首』出してきましたよ。慧眼ですね」
クノンが言うと、カイユは眉を寄せた。
しゃべる生首こと魔伝通信首。
奇しくもそれは、カイユが予想していた「会話できる生首」だった。
「ただの偶然だろ。……当たってほしくない偶然だったけどな」
カイユ的には適当に言っただけ。
当たったことに、誰よりも驚いているのは当人である。
「――すごい発明品ですね、先生」
と、屋敷からシロトが出てきた。
「有効範囲はあまり広くないんだ。範囲を広げるには装置を大きくしないといけないし、生体パーツの劣化も早い。
まあ、現段階では実用的ではないかな」
ロジーはそう言いながら、シロトが渡すワタン君を箱に戻した。
実用には遠い。
だが、雛形ができているという事実が重要なのだ。
ここから改善・改良を加えて。
完成度を上げていけばいい。
新たに造るのと、あるものを完成に近づけていくのと。
掛かる手間も時間も段違いである。
「もし普段使いできる便利なものにするなら、人の大きさくらいの生首が必要になるんじゃないかな。
誰もが持ち歩けるようになれば、便利な世の中になるかもね」
「生首型じゃないとダメなんですか?」
シロトのもっともな質問に、ロジーは笑った。
「想像したまえ。人の顔以外に話しかけるのかい? そんなおかしなことをしたいかね?」
――おかしいのは生首型だ、そんな不気味なデザインを持ち歩けるか。
何人かは確実にそう思った。
だが誰も言わなかった。
ロジーに言っても無駄だろうから。
さて。
「ロジーの発明品は見事だったね。魔道具という括りで言えば、世界に広まらないわけがない代物だと思う」
クラヴィスの寸評である。
かなりの好感触であることがうかがえる。
造魔として広めるのは……まあ、難しいだろうか。
生首を持つ相手と会話ができる。
世界中のどこにいても、話ができる。
広まらない理由がない。
そう思えるくらい、大変な一品である。
――まあ、そこまで完成に近づけるには、膨大な時間が必要かもしれないが。
ぜひとも開発を進めてもらいたいものだが……
しかし相手はロジーである。
これ以上の開発をするかどうかは、読めない。
「じゃあ次はクノンたちだね」
あんなすごいものを見せられた後である。
クノンもカイユも、少々萎縮してしまっている。
が。
「まあロジーの発明品は『人の役に立つ』というより『便利なもの』って感じだからね。発明品は評価するけど、お題を考えると低評価になっちゃうかな。
――さあ、今度はクノンたちだ。私はとても期待しているよ」
ここでクラヴィスの露骨な優遇が出た。
賄賂の効果が利いているようだ。
これは勝てるっ!
クノンは勝利を確信した。
カイユは色々思うことはあったが、ここまで来た以上は覚悟を決めた。
「――俺たちが造ったのは、これです」
カイユはポケットから、ぐるぐるに丸めて突っ込んでいたそれを取り出す。
形状は、まさにズボンを締めるベルトである。
黒い布製っぽい感じの、柔らかい素材。
ポケットに入るくらい軽く、長さを測るメジャーのようだ。
「補助筋帯ベルトと名付けました。
――先生、少々足をお借りします」
「ん?」
「名前と形状でだいたいわかるでしょう?」
「ふむ……わかった。好きにしなさい」
カイユがロジーの前に跪き、動かない彼の足にベルトを回す。
「――僕の知り合いの女性に、足腰が弱い人がいまして」
装着する間、クノンが発明品の説明をする。
「彼女の歩行や動作の助けになる魔道具は造れないか、ってずっと考えていました。
魔道具関係って、どうしても硬い部品が多いんです。
柔らかいものはほぼ皆無で、人の動作に寄り添えるものは僕は知らなくて。油圧や空気圧っていうのもありますが、これは普段使いするには向かない。
何より破損が怖いです。
補助する意図がある以上、彼女が身に着けるか、身近にある物になりますから。
その状態で油圧や空気圧の仕掛けが破損すると、確実に怪我をします。
いや、怪我では済まないかもしれない。それくらい大掛かりな仕掛けですから。
それに重くて大きくなるから、装着するのも一苦労です」
クノンの説明が進む中、ロジーの足に補助筋帯ベルトが装着された。
「造魔学で学んだ筋肉組織っていうのは、――あ、すごい。あ、失礼」
説明が止まった。
ロジーが車いすから立ち上がったからだ。
ベルトを装着した途端、すぐに使いこなしているように見えて驚いたのだ。
見えないが。
「筋肉組織の伸縮性と弾力性、そして単純な筋力。
これほど人の補助にうってつけの素材はないと思いました。
重労働には向かないけど、人の動作の補助くらいなら充分な力を発揮します。見ての通りです」
カイユに手を引かれて。
たどたどしく、ではあるが。
ロジーは確かに歩いていた。
「――面白い使い方だ」
魔道具はともかく、筋繊維には詳しいロジーである。
ベルトが伝える力のベクトル、可動域がわかる。
動かない足を動かす感覚で、ベルトが伸縮する。
まるで自分の足を動かしているかのようだ。
「こういうのは考えませんでしたか?」
カイユが問うと、「まったく」とロジーは首を横に振った。
「シロトが私の後を継いでくれたら、足を切り落として新しいのに変えてもらうつもりだったんだがね」
「ああ……それは先生らしいやり方ですね」
生体パーツを付け替える、という感覚だろうか。
ロジーならできる。
できることも知っている。
だが、何せ本人の身体だ。自分ではどうにもできなかったのだろう。





