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214.もうじき夕方





「――あ? 空飛ぶ船? 見たのか?」


 ダリオが柔らかな土を敷き詰めた鉄車に、荷物を積み込む間。


 そういえば、とクノンはゼオンリーに話した。

 学校に残っていた師の足跡を。


「はい。話半分に聞いてましたけど、本当にあって驚きました」


 ちなみにダリオは「一人の方が早いから」と言って作業に入った。


 身体能力が高い彼である。

 この程度の仕事なら、手伝いはむしろ邪魔らしい。


「そういやそんなのも造ったな。すっかり忘れてたぜ」


 少し前に、クノンの後輩の女の子が誘拐紛いに連れていかれた船のことだ。


 魔道飛行船。


 ゼオンリーの逸話はたくさん聞いたクノンだが。

 やはり、アレの衝撃が一番大きかったと思う。


「あれも飛行機構がクソ面倒臭くてな。マジで二度と造りたくねぇ。……あ、そうだ」


 ぼやきが止まったと思えば、にやにやし出した。


「あれも魔建具で造りゃいいのか」


 できるのか。

 師の発言にクノンは驚いた。


 魔道飛行船の仕掛けはクノンも見た。

 巨大で複雑で、さすがは師の仕事だと感心したものだが。


 まさか師は、あれさえも魔建具で再現できるのか。


 ――いや、できるのだろう。


 不敵な笑みは「できる」と踏んだ時のゼオンリーの顔だ。

 勝算があるのだろう。


「ダメだぞ」


 と、あっという間に荷物を運び入れたダリオが言った。


「許可のある場以外での発明は認められていない。

 例外が認められるのは、ヒューグリアに帰って陛下の許可が出た場合のみだ。


 王宮魔術師が外に出ることを禁じられている理由を考えろ」 


 王宮魔術師の発想は国の宝である。

 メモ書き一つでさえ、金貨の詰まった革袋と同じ価値があると言われている。


 王城に囲っているのも、基本的に外部との連絡が取れないのも。

 彼らの価値を非常に高く見積もっているからだ。


 他国はともかく、ヒューグリア王国はそうだ。


「あ? ここの連中なら知ってる発明品だぜ?」


 まあ、年一回くらいは飛んでいる代物だ。


 ディラシックの住人なら、知らないわけがないし。

 出入りしている商人や旅人は、よく話のネタに聞くことができる。


 この街には空飛ぶ船ってのがあるんだ、と。


「それでもだ。独断による例外はない」


 ひたりとダリオの目が据わる。


「――そうじゃなくてもおまえは違反行動が多い。本来なら強制送還している。気絶させてでもな。


 これでも小さいものには目を瞑っているんだ、これ以上はないぞ。陛下とロンディモンド総監の信頼を裏切るな」


「ちょっとくらいいいだろ。固ぇ野郎だな」


「おまえが緩すぎるんだ」


 ヒューグリアにいた頃と同じだ。

 師とダリオのの言い合いも変わらないな、とクノンは思った。


 と同時に。


 ――この場で魔道飛行船を造るのか、と少しばかりわくわくしていたのは、秘密にしておこうと思った。


 きっとダリオに怒られるから。

 もう彼に怒られたくない。





 それから。

 ホテルで食事をして、もう一度買い出しに出た。


 また同じくらい大量の物品を購入し。

 再びホテルに帰った頃は、陽が大きく傾いていた。


「ご苦労。好きなもん頼んでいいぞ」


 長く付き合わせた割には軽い労いの言葉があり、ようやく終わったとほっとする。


 休憩がてらホテルのロビーにあるテーブルに着き。

 遠慮なく飲み物を注文した。


 もうじき夕方。

 すぐに暗くなるだろう。


 そして、ゼオンリーらは明日の早朝、ディラシックを発つ。


 着々と別れの時間が迫っていた。


 どうしてもそのことを意識しつつ、クノンは談笑に参加していた。


「――あ、クノン君」


 そんな時、ミリカと侍女ローラが帰ってきた。


 夜会う約束はしていた。

 だが、このタイミングで会ったのは偶然である。


「こんにちは、ミリカ様。待ちきれずあなたに会いに来ました」


「え? あ、はい。……今日はゼオンリー様と買い物だったんじゃないんですか?」


「買い物はついで。一番の目的はあなたに会うためです」


「――ほう。ついでか」


 ゼオンリーの声は無視し、立ち上がったクノンはミリカの手を引いてテーブルまで導く。


「今日はどう過ごされていたんですか? 僕のために美を磨いてきたとか? 道理で素敵な香りがしますね。まるで何かしらの花の香りのようだ」


「ああ、ええ、まあ。……色々と回ってきました」


 ――ミリカは答えを濁した。


 今日のミリカは、クノンと親しい人に挨拶をしてきたのだ。

 

 情報収集を兼ねて。

 牽制も兼ねていた、と言ってもいいかもしれない。


 聖女の家に行き。

 狂炎王子と会い。

 クノンからよく聞く後輩の女を待ち伏せし。

 結構仲がいいと噂されていた女とも話してきた。エリアやシロト、カシスといった女だ。会えない女もいた。女が多すぎて大変難儀した。


 色々とクノンの話が聞けた。

 大変有意義な一日が過ごせたと思う。

 

 本当に、色々と、聞いてきた。

 個人的にちょっといい感じにもなったりした。


 その結果。

 クノンにも聞きたいことがたくさんできた(・・・・・・・)わけだが。


 ――まあ、クノンの本心は確かめたので、今回は何も言わないことにした。


 どの道、ディラシックで活動できるのは今日までだ。


 あまり問い詰め、いや話をする時間は取れないだろう。

 だから今回はいいと割り切ったのだった。





「おいクノン」


 ミリカも交えて少しだけ話をして。

 ディナーに合わせてそろそろ場所を移そうか、という話が出た時だった。


「最後におまえの実力を見ておきたい」


 と、ゼオンリーが言った。


「ほんとですか?」


 クノンは期待していなかった。

 

 彼らの滞在は、日程的に自由になる時間が少なかった。

 だからクノンは、自分の用事と要望は極力言わないと決めていた。


 だが、その気持ちに反して。

 師は付き合ってくれるつもりらしい。


 実力を見たい。


 一般的に魔術師が言うそれは「競い合う」という意味である。

 クノンとゼオンリーで言うなら、「戦う」という意味である。


 ヒューグリアにいた頃はよくやっていた。


 もちろんゼオンリーは加減していた。

 それでもクノンは初回の一度しか勝てなかった。


 ならば、今は?


 試したくないわけがない。

 一年半磨いた力を、ぜひ師に見てほしいと思っていた。


 我儘なので言わなかったが。

 ずっと思っていた。


「まあでも、おまえももう一人前の特級生だしな。必要ないなら断ってもいいぜ」


「僕が師匠のお誘いを断ると思います?」


「だから色々都合もあるだろって話なんだが、いいなら構わねぇか」


 怪我をするかもしれない。

 魔力を使いすぎてしばらく使い物にならなくなるかもしれない。


 だから仕事だの生活だのに障らないか、という話なのだが。


 クノンがいいなら、問題ないだろう。


「――よし、じゃあ久しぶりに遊んでやるか。表に出ろよ」





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― 新着の感想 ―
まぁ女の子たちには本気じゃないけど 狂炎王子だけは性別違ったらマジで奪われてただろうからなぁ。 プライベートで一番会ってるのも狂炎王子だし。 ミリカはそこまでは分かってないかもだけど クノンは他国から…
バッチリ狂炎王子も入ってて吹いたw
[気になる点] あー、漫画で丁度やってる1日3回怒られた時の騎士がダリオさんでしたっけ?
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