183.ふと思いついた金策
「単位か」
去年はクノンが実験を持ち掛けたが、今年は逆だ。
去年は、「実力の派閥」代表ベイルを中心に、先輩方に協力をしてもらい。
「魔術を入れる箱」改め「魔帯箱」の開発を行ったのだ。
そのため、一年の前半で単位を取り切る方針で動いていた。
今年は逆に。
クノンが誘われたので、それに参加する形となる。
――シロトと別れ「調和」の拠点を出た後、クノンは考えながら歩いていた。
思ったより話し込んでいたようだ。
もうじき陽が暮れるので、今日はもう帰るだけである。
考えることは造魔学のこと……ではなく、単位についてだ。
今年度はすでに一ヵ月が過ぎている。
年度の始めだったせいもあり、色々と忙しく、主立った活動はできていない。
一応、先日の神花捜索の件で貢献したことを認められ、一点貰えるという話にはなった。
これは幸運だった。
そして、単位は残り九点必要なわけだ。
シロトは言っていた。
――「今度やる造魔の実験は、少し高度なものになる。細かい魔術の操作が得意なクノンがいたら大変助かると思う。しかし恐らく数ヵ月単位で時間も必要になると思う」と。
短くても三ヵ月を見ている。
長ければ、もっと掛かる。
そう言われると、確かに危ない。
先に単位を取って進級を決めてから挑んだ方が、精神的にも楽だろう。
「……まあ、その方が都合もいいか」
色々考えた末、クノンは腹を決めた。
まず単位を取る。
これが最優先。
次に、造魔学の勉強をする。
これまでは調べもしていなかった禁忌の学問であり、基礎さえできていない状態だ。
シロトの足を引っ張るわけにはいかないので、ある程度は学んでおきたい。
この二つは、時間がないとできない。
まあ、造魔学の勉強については、合間の時間を使うことになるだろうが。
だから、すぐに着手しないというのは、クノン的にもありがたい。
もちろん気持ちは今すぐ実験したいのだが。
それと、セララフィラのことだ。
今度は忘れない。
少なくとも、彼女の生活が安定するまでは、気に掛けておこうと思う。
今は金欠で仮住まいに移っているそうなので、マイナスと考える。
これがプラスになって住居を検め、そして毎月ちゃんと定額を稼げるようになるまでは。
できるだけ協力したい。
狂炎王子とも約束をしているから。
「――こんな時に思いつくんだよなぁ」
二人で散々話し合った時は、彼女の金策は思いつかなかったが。
今考えてみたら、ふと、思い浮かんでしまった。
セララフィラもできそうな金策の方法。
魔術が盛んなディラシックでも、これまで聞いたことがないやり方なので、きっと新しい商売の形になる。
これはお金になりそうだ。
しかも、考えようによっては非常に面白そうな案だし、広く発展も望める。
案外、とても大きな一大産業にまでなるんじゃなかろうか。
それこそ世界に広まるような。
興味を持つ土属性はきっと多いだろう。
「……これも単位になるかな?」
しかし問題がある。
どれくらい時間が掛かるか、見通しがつかないことだ。
土属性がメインの仕事なので、属性違いのクノンには予想もつかない。
土属性ならわかるだろうか?
ベイルに相談するか?
彼ならきっと興味を抱くだろう。
もちろん、ダメならダメと言ってくれるだろう。その方がありがたいし時間の無駄もない。
「――よし」
クノンは早足に歩き出す。
方向は定まった。
しばらくは迷うことはない。
次の日。
「実力の派閥」の拠点である古城を訪ねると、運よくベイルに会うことができた。
「――おまえよく思いついたな! めちゃくちゃ面白いじゃねえか!」
まあ、彼は何日か徹夜した感じの疲れた顔色をしているが。
きっと何かの実験中なのだろう。
彼はちょうど休憩していたようで、食堂で寝ながら食事しているところを捕まえた。
単刀直入に話すと、ベイルは疲れた顔で目を輝かせていた。
そしてすぐに虚ろになった。
「でも今はちょっとなんか……都合が悪いんだ」
だろうな、とクノンは思った。
「忙しそうですね」
見るからに徹夜顔である。
多くは聞かないが、明らかに疲れ切っている顔だ。
「そうなんだよ。ついでに言うと、次にやる実験も決まってる。今年はまとまった時間が作れるかどうかも怪しくなってきた。ほんと時間が足りねえ」
忙しいのはいいことだ、とクノンは思った。
やはり魔術師としては。
単位のための実験より、自分がやりたい実験をやりたいものだ。
やりたいことが詰まっているというなら、それはそれで幸せだろう。
「ちなみに、僕の話を聞いてみた感じ、どれくらいでできそうですか?」
「一週間あれば形にはなると思う」
「そんなに早く?」
「構造が単純だからな。それと、魔術師としてじゃなくて技術者としての技が必要だろ? あるいはセンスか?
こういうのはラディオが強いぞ」
ラディオと言えば、ベイルと同じく「魔帯箱」の開発に協力してくれた先輩だ。
「でもあの人も忙しいでしょう?」
彼は貴族相手に商売ができるほど、細工物の腕がいい。
それに加えて、あまり人と一緒に何かするというタイプでもない。
一人で黙々と作業するのが好きなんだそうだ。
まあ、必要とあれば普通に誘うが。
どうしても嫌なら断るだろうし、誘うだけならタダだ。
「そうだなぁ。あいつはよっぽど興味を持たないと共同実験はやらないからな。
エルヴァはどうだ?」
「それは真っ先に考えました。僕は紳士なので男性より先に女性を優先します」
「おう、そうか。おまえも変わりないようで何よりだ」
だがしかし。
今回はダメなのだ。
「ちょっと訳ありでして。『調和』とはまだ関われないんです」
まあ、とりあえずだ。
クノンが知りたかったのは、実験期間の目途だ。
ベイルは一週間でできると言っていた。
ならば、長くて一ヵ月と見なして。
それくらいの期間なら、軽い気持ちで挑戦してみてもいいかもしれない。
もちろん単位を狙う意味でも。
単位が取れて。
セララフィラの金策になって。
おまけに、宙に浮いたままになっていた実験も、どうにかなる可能性がある。
我ながら面白い思い付きだとクノンは思った。
いろんな要素が絡み、そのアイデアを後押ししているように感じる。
もちろん気のせいだとは思うが。
――あとはセララフィラ次第だろうか。
いや。
「じゃあ僕はもう行きますね。先輩もがんばって!」
「あーはいはい。これ以上頑張ったら倒れそうだけど頑張るよ」
へろへろと手を振るベイルと別れ。
擦れ違ったエリアとジュネーブィズに挨拶しつつ、クノンは「実力」の拠点を後にした。
恐らく現在。
セララフィラは今頃、聖女の地下温室作りに挑戦しているだろう。
クノンは彼女の様子を見に行くことにした。
どうやら無関係ではなくなりそうだから。





