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死神少女はどこへ行く  作者: ハスク
捌 ―帝国血に染まる―
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死神少女は童話の真似をする

過激な残酷表現に注意してください

アデーレ・ハーブルクは元々商人一家の娘として育っていた。

両親から商人のイロハを教わったアデーレは商才を発揮し家の商店を発展させていった。この才能を認められ彼女は一代限りの爵位を手にいれたが商売は辞めなかった。


爵位を得た彼女は化粧品や装飾品に力を入れ始めた。

貴族女性の注目を集めるため、自身を広告塔として商品を売り込んだ。

皇妃ブリュンヒルデとはこの頃知り合い、彼女も何度か利用していた。


しかし人間たるもの老いには勝てなかった。

武器であった美しい顔には皺ができ、しみも少しずつ広がっていった。

なんとか化粧品で誤魔化したりはしたが隠しきれなくなり、彼女は一時姿を消してしまう。

彼女は老化に勝つためあらゆる方法を試し、更に体をボロボロにしていった。


いつしか彼女は商売の事よりも自身の美しさを求めるようになっていた。



ある日彼女はついにある呪術に手を出した。


人間の血を飲むことで引き替えに美を得る古代の禁術だ。

まずは試しに侍女一名の腕の血一滴。


成功した。彼女の顔は二十代のそれとなんら変わらない見た目になった。


だが翌日には元に戻ってしまった。

血の量に応じて効果が延長することに気がついた彼女だが、いつまでも侍女を使うと城から退職者が大量にでてしまう。



そして彼女は連続で少女を誘拐し始めた。


最初はうまくいったが、騎士団が調査を開始してからは思うようにいかなくなってきた。

城に住む侍女は少なくないが徐々に顔を覚えられていったのだ。



ある日、アデーレは町から逃げてきた醜い顔の男と出会った。


男…………アルバン・ホリガーを匿う代わりにアデーレは役目を言い渡した。



アルバンはアデーレの要求に従い少女を次々と誘拐していった。

少年時代に受けた虐めで彼は警戒心が強い。おかげで周囲の気配には敏感で誰にも気づかれず誘拐を成功させていった。


彼のおかげでアデーレは多くの生き血を得られ、若い頃の美しさを手に入れることができた。



しかしこの時アデーレの体は既に人間ではなくなっており、昼間は外に出られなくなっていた。

後天的吸血鬼となった彼女は生き血無しでは生きられない体となってしまった。また呪術の影響かアルバンも怪物のような見た目になった。







【ベルセイン帝国 巨大湖の町レキノ】

アルバンは地下の石造りの部屋にいた。

周囲には大小様々な器具が乱雑に並べられ、何れも血のようなものが付いていた。

隅には大きな扉の付いた不気味な人形が佇んでいる。


アルバンはこの部屋で多くの少女をいたぶり、血を採取してアデーレに献上していた。

しかし彼はよく勢い余って少女を殺害してしまった。殺してしまった場合は扉のついた人形に死体を押し込めることになっていた。

扉を閉め叩くと肉が絞まるような音が鳴り、次の日には血溜まりのみが残っていた。

仕組みはわからないが死体だけが消えるものらしい。


今日連れてこられた犠牲者は赤い髪の少女レイラだった。

侍女に叩かれたのか頬が赤く腫れ、泣きべそをかいていた。


「ひっ…………?!」


アルバンの顔を見たレイラは小さな悲鳴をあげる。


アデーレの呪術の影響を受けたアルバンの醜かった顔は酷く歪み、無数のイボができ瞼は弛み瞳がほとんど見えておらず、およそ人間の顔をしていなかった。

精神的に幼いレイラには刺激が強すぎた。


「やだ…………来ないでっ………。」


腰が抜けたらしいレイラは後ずさる。

ふと、さっき侍女にやったように魔法で吹き飛ばせないだろうかと思い付く。



「ウオォォォ!!!!」


アルバンはレイラの炎魔法をまともに喰らった。

侍女の時とは違い火達磨にはならず炎はすぐ消えてしまった。

抵抗されたことが気にくわなかったアルバンはレイラを思い切り殴った。


「きゃうっ!!」


顔を殴られ、吹き飛ばされたレイラは一撃で意識を刈り取られた。


壁に激突し動かなくなったレイラ。


アルバンは鉈を手にゆっくり近づいていく。




やり過ぎた。普通の少女なら間違いなく即死する一撃だ。

だがレイラは生きていた。ドラゴンである彼女は生命力のみ小さな体が引き継いでおり、凍えるような環境下にならない限り物理的に倒すことは困難である。



まずは片腕、翌日にもう片方。片足、もう一本。

そして五日後には全てを。


彼のやり方だった。





不意に拷問部屋の扉が開かれた。

この部屋は使用中の時は誰も入ってはならない決まりになっていた。


アルバンが不機嫌そうに唸りながら文句を言いに行く。


「ウゴ?!」


ことはできなかった。

振り向いた直後に首を大きな剣が貫いた。



もがくアルバンの視界が捉えたのは大きく目を見開いた青い髪の少女。


剣が引き抜かれる、また刺され、抜かれた。








エミリアの中で久しぶりに大きな殺意が湧いていた。


頭から血を流したレイラを見た瞬間何かが切れた。

グリムリーパーを首に刺し絶命したところをレイラから引き離すつもりだった。


「ウガァァァ!!」


ところがこの男は生きていた。ただの人間だと思っていたエミリアは反応が少し遅れた。


「づっ………!!」


エミリアの足に切り傷ができた。

痛がってる暇はなく、グリムリーパーを構えて連続攻撃に備える。




「貫き、凍てつかせ。『アイスランス』!!」


アルバンに氷の槍が突き刺さった。


「お姉様に触れるな下賎な怪物!!」


ナタリー、クリスティアナ、ハンナが続いて拷問部屋に入る。


「っ…………この臭いはっ?!」

「ごめん、これだめっ………。」


エミリアとナタリーは気にしなかったがこの部屋には腐敗臭が充満していた。

ハンナの鋭敏な嗅覚は玄関でこの臭いを捉えていたのだ。クリスティアナは再びダウンしかけたハンナを連れて部屋から脱出した。


「レイラを助ける。手伝って。」

「お任せくださいまし。」


物理的に仕留めるのが困難なら魔法に頼ることにした。

膨大な魔力を持つ妹ならあの怪物を倒せるはず。

足は斬られたが歩くのに問題はなさそうだ。


「グワァァ!!」

「貴方の相手はこちらですわ!」


怪物………アルバンがナタリーの挑発に乗った瞬間エミリアが走りだす。

壁に横たわるレイラを担ぎ、唯一の部屋の出口に向かう。


異常に気づいたアルバンがエミリアの逃げ道を塞ごうとする。


「させませんわ!!」


無詠唱の炎魔法がアルバンを包む。

詠唱無しだと威力は低くなるが即応性が高くなる。

とはいえ並の魔導師では無詠唱で魔法は発動させられない。彼女だからこそできる芸当だ。


エミリアが部屋から出たのを確認するとナタリーが詠唱を始めた。


「炎よっ。全てを焼きつくしっ、灰と変えよっ!『インフェルノゲート』!!」


部屋全体を炎が焼き尽くす。

詠唱に感情を込めている辺り、エミリアの怪我に相当頭に来ていたらしい。


そのままナタリーは部屋から出た。







拷問部屋の外ではエミリアがレイラを介抱していた。


「ごめんね…………。」


ぎゅっとレイラを抱きしめる。

横でクリスティアナが心配そうに眺めていた。その隣でハンナが鼻を抑えている。


「頭を強く打って気絶しているのでしょう。」

「レイラに怖い思いさせちゃった………」

「エミリアは悪くありません。」


レイラが連れ去られたことに早く気づけなかった自分を責めているのだろう、エミリアはどこか悔しそうだった。


「お姉様、あの男は消し炭にしてやりましたわ。」


拷問部屋からナタリーが出てきた。

エミリアは静かに目を閉じて集中する。


「…………まだ生きてる。」

「そんなっ!あの炎の中っ…………しぶといですわね!」

「クリス、レイラをお願い。」

「………わかりました。ほどほどにしてくださいね。」

「ん。ちょっとわからせてくる。」


クリスティアナはエミリアが何をするのかわかった。

エミリアにはあまり人殺しをしてほしくない。しかしあの怒気に触れる度胸がないクリスティアナは止めることができなかった。






拷問部屋は全てが黒こげになっていた。

中心部に蠢く黒い塊はアルバンの成れの果てだ。

苦痛に苦しみながら未だに死ぬことができなかった。



エミリアが部屋を見回すとあるものが目に入る。



「お姉様、お手伝いしますわ。」


少し遅れてナタリーが部屋に入る。


「あまりナタリーには見てほしくないんだけど。」

「わたくしはお姉様の妹ですわ。お姉様がやることを助け、見届ける義務がございます。お姉様だけが大変で嫌な思いをするのは絶対に反対ですから。」

「ん……………そっか。」


ナタリーの独自の理論に納得したエミリアは一緒に死にかけのアルバンの足を掴む。


「あれの中に。」

「あれは…………。」



扉付きの人形はかつてこの城の主が拷問の為に取り寄せた代物。


この世界の人間は『アイアンメイデン』と呼んでいた。



エミリアが以前読んだ『グリム君とリーパーちゃん』の中に妹を傷つけた悪人をアイアンメイデンに閉じ込めてしまう話があった。

悪人が押し込められ扉が閉まり、グリム君がアイアンメイデンを叩くと悲鳴があがり、同時に隙間から血が滴る描写を覚えていた。


アルバンをアイアンメイデンに押し込める。が、思ったよりアルバンが大きくはみ出てしまう。エミリアとナタリーが蹴り、体当たりして無理矢理閉めた。

中から何やら呻き声が聞こえる。



エミリアがグリム君と同じようにアイアンメイデンを殴ると中で何かが刺さるような音が聞こえた。


「ガァァァァァァ!!」





アルバンの脳裏に浮かぶのは以前の職場で優しくしてくれた料理屋の看板娘。

少女に暴行を繰り返した彼は彼女にだけは手を出すことができなかった。

あの笑顔を傷つけたくなかった。



せめて彼女には幸せに生きてもらいたいものだ…………。


身体に無数の針が刺さり、アルバンは生き絶えた。








「うっ…。」


さすがにナタリーは顔を背けた。

エミリアと違い、間近で物理的に惨殺される様を見慣れていない彼女には刺激が強かった。


「ナタリー。」

「大丈夫ですわ………このくらい。」


吐くのは耐えた。

姉の前で失態を犯すナタリーではなかった。







「逃げよう。こんな場所にいられない。」

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