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死神少女はどこへ行く  作者: ハスク
漆 ―王国脱出―
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死神少女は懐かしむ

【ブランウェル王国 キューズル街道】

「街道を進めば人の住む場所に着くでしょう。この子達はそこで一旦保護してもらいましょう。」

「多分向こう側に村があったはず、この場所来たことあるし。」

「ということは……あれはレイド山ですわね。帝国までかなり近くなってきましたわ。」


見覚えのある街道はかつてレイラがエミリアに竜化を見せた場所だった。

記憶が正しければレイラと出会った村がこの先にあるはずだ。


少女達はエミリアと離れることを悲しんだが帝国まで連れていくわけにはいかない。






【ブランウェル王国 鉱山麓の村ガンダル】

ナタリーらが助けた少女達を村長に保護してもらっている間、エミリアとレイラは村の中心にある噴水広場で寛いでいた。

ちなみにエミリアはいつもの白いブラウスに黒いスカートを着ている。


久しぶりに好物のクロワッサンを食べることができてエミリアはご満悦のようだ。彼女に寄り添うレイラは初めて会った時のことを思い出していた。

出会った当初は怖くて話しかけることはできなかった。パンをくれたから悪い人じゃないんだろうなとは思っていたがそれでも一歩踏み出すことができなかった。だが拐われたレイラを怪我しながら助けに来てくれてからはエミリアは一番の存在になっていた。

………やり方はかなり残忍だったが。


ふと、レイラはエミリアの顔を見る。

ナタリー、クリスティアナと出会ってから彼女はどこか生き生きとしているように感じた。

表情には乏しいがレイラにはなんとなくわかった。


レイラの視線に気づいたエミリアは優しく頭を撫でる。ほんのりとした温かさが手に伝わる。



そういえばとエミリアはある人物に会うことにした。

以前エミリアに頑強な板状のナイフをくれた鍛冶屋の髭もじゃ…………まだいるだろうか。








「よぉ久しぶりだな。」

「髭のおじさん。」

「あん?俺はガードナーって名前があるんだ、こう見えてこいつらの親方やってんだ。」


鍛冶屋の髭もじゃ………ガードナーは元気そうだった。


「おじさんがくれたナイフ曲がったから捨てちゃった。」

「曲がっただと?」

「すっごく熱くなって曲げられた。」

「一体何と戦ったんだおめーは………ん?その剣、見せてみろ。」


ガードナーはエミリアがぶら下げてる剣、グリムリーパーに目をつけた。


「グリムリーパーだよ。なんか聖剣だったみたい。」

「随分なもん持ってるじゃねーか。聖剣といやぁ持ち主を選ぶっつー話だが…………まぁお前なら妥当なところだな。」


自信作だったプレートナイフを破損させた少女は只者ではない。

まして自分より小さな人間がそんな戦い方をするということは相応の敵と戦えるのだろう。

聖剣が選ぶのも納得できた。


「取り敢えず投げナイフちょうだい。」






去り際にガードナーが忠告してきた。


「お前さんが何したかは知らんし問い詰める気はねぇ、俺の客だからな。だから教えてやる、何人かの冒険者がお前さんを探しにこの村にいる。早めに出た方がいいぜ。」

「ありがと。」


鍛冶屋から出ると三人が待っていた。


「どなたと会っていたのですか?」

「前に相棒作ってくれた人。壊しちゃったけど。」

「ドワーフ?私初めて見たよ。」

「意外ですわね、ハンターならお世話になってるかと。」

「お母さんいなくなってから生きてる人間と会ってなかったからね。」

「すごい生活をしていたんですね……」


クリスティアナが思わず同情の目を向けた。






村から出た辺りで彼女らは遭遇した。

十数人の冒険者は森へ向かおうとするエミリア達と対峙する。


「ようやく見つけた、金貨一万枚はいただきだ!」

「お嬢ちゃん達ー、痛い目見たくなけりゃ大人しくしてなー。」


「邪魔。」

「面倒ですわね、まとめて凍らせてあげますわ。」

「お姉ちゃんに近づかせないから!」

「誰から行こうか?」

「あまり戦いたくはないのですが………」


冒険者は複数のグループが組んでいるようだ。

じりじりと距離を少しずつ詰めてくる。


「全員でかかれば怖くはねぇ、やれぃ!」

「おっけー。」


場違いなのんびりとした声と共に人が斬られる音がした。



倒れたのは攻撃指示をした男だった。


「何をっ?!」

「おい標的はむこうだぞ?!」

「いんや、あたしたちの敵はあんたらだ。」


振り向き様にもう一人斬りつけた。

冒険者二人を斬ったのは赤いビキニアーマーの女性、セリカだ。


「セリカ!!裏切るのか?!」

「裏切るも何もあたしは元からこっち側だし?」

「狼狽えるな!一人敵が増えた所で数じゃこっちが上だ!」

「いやあんたたちさぁ、あたしが一人でいるわけないじゃん?」


セリカが言うと同時に冒険者達の足元から無数の手が生え、足を掴んだ。


「なんだこれは!?」

「うっ、動けねぇ!!」


「みんなー、今のうちに行きなよ。こいつらはあたし達がやるからさ。」


セリカがは振り返らずエミリア達に告げる。

姿は見えないが彼女の相棒の死霊術師リリノアもいるようだ。

地面からゾンビが這い上がり冒険者達に襲いかかっていた。


「セリカさん、ありがと。」


エミリア達はそのまま森の中へと消えていった。



「全く、世の中そう簡単にいくわけないじゃんね?」

「こっちはあんたが斬られないか気が気じゃなかったんだけど?」


セリカの背後から影のように現れたのは仮面をつけたローブの女性、リリノアだ。


「いやいやあたしがこんな奴等に遅れを取るはずないよ。」

「こないだ酔ってスラムの連中に身ぐるみ剥がされそうになったのは忘れてないわよね?私がいたからよかったけど。」

「あー……それはごめん。」




アンデッドに襲われる冒険者達を尻目に二人はエミリア達が入っていった黒の森を見つめる。


「あたし達も早いとこ逃げよっか。」

「お父様達も逃げているし、この国に未練はないわ。でもその前に………。」


リリノアが何かを呟くと真横に黒いゲートが現れる。

中位以上のアンデッドを呼び出すときに勝手に出てくる物らしい。髑髏の装飾が施されている。

ゲートが開くと一体のアンデッドが出てきた。


「ブムゥ。」


リリノアよりも背が高い肥満体のアンデッド、腹には縫い付けられた跡があるその魔物は『掃除屋』同様に死体を食べる。彼は世間では『グール』と呼ばれている。



「貴方のご馳走よ、全部残さず食べなさい。」

「ムゥゥゥン!!」


主人の待てから解き放たれたペットのように冒険者の死体を貪り始める。


「待てっ、俺はまだ生きてっ、いぎゃああ!!」


死体の山にはまだ生存者がいたようだがグールは構わず食べ続ける。




「グールなんてこういう時しか使い道ないのよね。」


先程まで生きていた冒険者達が食べられていくリリノアは無感情に呟く。

味方以外には冷たいのだ。










ベルセイン帝国とブランウェル王国は黒の森が境界線となっている。

世界一の広さを誇る黒の森には多種多様な魔物が住み着き、未だに全貌が明らかにされていない。

黒の森と呼ばれる所以は奥地に進むほど太陽光が遮られ昼間でも夜同様の暗さになってしまう。これにより現在地が分からなくなり毎年行方不明者が続出している。

一応王国と帝国を繋ぐ道は何本か整備はされているため外れなければ迷うことはない。


ここを通り抜けることができれば帝国領へ入ることができる。

そんな彼女達は今、魔物の大群に囲まれていることなど想像もしていなかった。

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