死神少女は心の中で謝罪する
【ブランウェル王国 シルフの森】
第三騎士団を処理したエミリアは何事も無かったかのようにテントへ戻り、二度寝を慣行した。
思うことって少しもあの場にいたものの、まだ誰も起きてないことに一安心。寂しそうにしていたレイラを抱いて眠りについた。
心なしかレイラは嬉しそうな顔をしていた。
寝坊助のエミリアが起きたのはそれから三時間後。
「あ、おはようお姉ちゃん。」
「んぅ~……………おぁょ。」
寝起きで舌がうまく回らないエミリアはなんとかレイラに返事する。
「おはようございますお姉様。」
「おはようございます、エミリア。」
ナタリーとクリスティアナも気づいた。
「ナタリー………顔どうしたの?」
エミリアはナタリーの顔が赤く腫れているのに気づいた。
騎士団を相手するまでは何もなかったはず。
「あの…………エミリア。私です。」
ものすごく申し訳なさそうにクリスティアナが手をあげる。
どうしてクリスティアナが?
エミリアが起きる数十分前。
何か息が苦しいなとクリスティアナが目を開ける。
「ひっ?!」
すると目の前には何故かナタリーの顔があった。しかも抱きつかれている。
思わず声があがってしまった、エミリアをこんなことで起こしたくなかったが彼女の眠りは深かった。
「………んぅ?」
今の騒ぎでナタリーが起きた。
目が虚ろな所を見るとまだ寝ぼけているようだ。そのくせ抱きつく力は緩んでいない。
「ナタリー、離してくれませんか?私はエミリアではないです。」
このシスコンはエミリアと間違えて抱きついている。
引き剥がそうとするも意外と力が強く、自力では脱出できそうにない。
「んふふ……お姉様ぁ~。」
「なっ?!」
寝ぼけたナタリーが顔を近づけてくる。
ソードタイガーに狙われたフォレストラットの気持ちがわかる………いやそんな呑気なことは言ってられない。
「このっ………!!」
「ぷへっ!?」
形振り構ってられないクリスティアナは渾身の聖女ビンタを放った。
その後これでもかとビンタしてナタリーを無理矢理起こしたのだが顔がものすごく腫れてしまった。
原因がなんとなく自分だとエミリアはわかったが黙っておく。
怒ったクリスティアナは怖いのだ。
「賢者様、大丈夫?」
「えぇ、このくらい平気ですわ。悪いのは私ですし。」
心配したのかレイラがナタリーの頬を撫でた。ほんのり暖かい。
ハンナは例のごとく食糧狩りに出掛けていた。
肉ばかりでは飽きるかもしれないと、今回は木の実や茸も採っている。
勿論食べられるものだ。
今朝の獲物はグリーンバード数羽。彼等はその名の通り緑色の体で森の中だととにかく見つけづらい。
エミリアのような感知能力や熟練の冒険者、ハンターでないと探し出せない。
そろそろ戻るかとハンナがテントに向かおうとした。
突然彼女の目つきが変わった。
一本の樹木に近づくとそれに付着した液体を眺める。
「急いで森から出ないとやばいかも。」
「何だこれは………」
第一騎士団長ラッセル・カノラとその部下は戦慄した。
第三騎士団が消息を絶ったとあかう報せを受け森へ入った。
彼等がいた場所には寝袋。
その全てに剣が突き刺さっていた。刺さった場所に血の染みが………つまりそういうことだろう。
数人が寝袋に入っていないがそちらにも喉元に剣が刺さっていた。
その中には第三騎士団長グレックも含まれていた。
少し離れた場所にも騎士が二人死んでいた。
この二名は特に酷く、一人は木に枝で縫い付けられていた。
もう一人は顔をぐちゃぐちゃに潰されており、もとの顔がわからなくなっていた。
あまりの惨状に騎士の数名が吐いた。
数年前に魔物の大発生で派遣された事があったが、それでもここまで酷い現場ではなかった。
ラッセルは周囲を警戒しつつ進んでいく。
彼としては気は進まないが、王命となると仕方あるまい。
第二王子のためにもあの少女をみつけなければ。




