死神少女と巨人伝説
聖都ができる1000年以上前、この地で他の地域からやってきた黒い巨人が我が物顔で暴れまわっていた。
圧倒的な巨体を前にあらゆる生物は逃げ惑うしかなく、黒い巨人の行動は激しくなっていく一方だった。
ある日、女神より遣わされた白い巨人達がやってきて黒い巨人を打ち倒した。
人間、亜人達は白い巨人と女神様を讃えた。
邪神が封印され聖都が作られる際に、この巨人達を模した石像が作られたのだった。
『聖都 大陸の伝説より』
【聖都ラ・ブランダス】
騎士のような石像は剣を携え邪神に向かい、ゆっくりと歩みを進めていた。
遠くにも動く石像がもう二体ほど見えた。
邪神の活動に連動したのだろうか。
とにかく自分も向かわないと。
「へぶっ。」
エミリアは何かに躓いて顔から地面に突っ込んだ。
「うぅ~………。」
鼻をぶつけたらしく、抑えながら立ち上がる。
何に躓いたのか、大きさからして石ではない。
下を見ると鎧が倒れていた。
死体?でもこの鎧は見覚えがある。
こんなに大きな鎧を着る奴はそうそう居ない。
エミリアは倒れた鎧に跨がると、乱暴に兜の中に手を突っ込んだ。
以前こいつを見たとき人間らしい気配を感じなかった。
エミリアはなんとなくこいつの正体を看破していた。
やがて兜の中から黒くなった球体を引っこ抜く。
「勝手に居なくならないで、あんたが消えたらクリスが悲しむ。」
球体をスカートのポケットにいれるとその場を立ち去る。
「お姉様を投げ飛ばした罪、その身体で償ってもらいますわぁ!!」
「落ち着いてくださいっ!気持ちはわかりますが!」
エミリアが吹っ飛んでいった直後、ナタリーは冷静さを失い邪神に特攻をかけようとした。
しかしすぐクリスティアナに取り押さえられ未遂におわった。
ナタリーは賢者をしているだけあり、聖都で生き残っている中では間違いなく一番の魔力を持っている。
先程も魔物の相手をしながら邪神に魔法を使っていたのだがまるで効果がなかった。
壁のようなものものに阻まれたのだ。
邪神が少しずつ力を取り戻しつつあった。
聖都の中心部でフレイムドラゴンと邪神が戦う。
時折邪神の体は燃やされ、爆発を起こすもまだまだ動きを止める様子はない。体には大きな風穴が空いている。
ドラゴンのブレスのキレも悪くなっており、不発が目立ってきた。
「これ以上はレイラちゃんが危険ですわ、なんとかしないと……。」
「なんとかと言われてもえぇと…………」
ナタリーの自慢の魔法が効いてないとなると直接叩いていくしかないのか。
あんな物に殴りかかるのはもっての他、魔法無しでは同年代男性に簡単に負ける柔な乙女なのだ。
…………成人男性に殴り合いで勝てるのはハンナくらいか。
大きな足音がした。
邪神でもドラゴンでもないものだ。
あいつの仲間でも来たのかとナタリーはクリスティアナを庇うようにして振り返った。
建物の影から白い石像が現れた。
あれは見たことがある………聖都へ入るときに見かけた男性を象った石像だ。
「あれもあいつの仲間ですの?あまり相手したくないのですが………」
「待ってください。あれはきっと………」
クリスティアナが喋り終わる前に石像は邪神に近づいていく。
渾身のパンチを邪神に当てた。
予想外の方向から殴られた邪神はたまらず倒れ伏せた。
その間にも石像は追撃を始めていた。
「何ダオ前ハ?!」
邪神の注意が石像へ向いた時、ドラゴンは光りだし徐々にさいずが小さくなっていく。
やがて光は赤い髪の少女となった。
白いワンピースの所々が赤く染まっている。
ナタリー達は急いでレイラの元に駆け寄る。
「ごめんなさい………私じゃダメだった………。」
「良いのです!よく頑張りましたわ、ゆっくり休んでくださいまし。」
「うん………賢者様。」
レイラは力なく倒れそうになる、ナタリーがうまいこと抱き止めた。
「ねぇ?!なんか凄いのが来てるよ?!」
戻ってきたハンナが指差す方向には鎧兜をかぶったの騎士風の石像が。
こちらも邪神に向かっているようだ。
「一体何が起きているのでしょうか………?」
ナタリーは眠ったレイラをおんぶしていた。
人型のレイラはあの鈍重な竜型からは思えないほど軽かった。
クリスティアナはただ目を閉じて少し震えていた。
何かを我慢するかのように。
「間に合いましたか………でも貴方はもう…………」
騎士の石像が邪神に剣をぶつける。といっても鉄ではなく、おなじ材質の石で造られており斬るというより打撃に近い。
邪神は両腕を振って二体の石像を同時に攻撃。
男性の石像は倒れたが騎士の石像は踏ん張り、石の剣を邪神に叩きつける。邪神の右腕が少し崩れた。
「石像ナドニ負ケル我デハナイ!!」
邪神は両腕を振り上げ、騎士の石像に思い切り叩きつけた。
直後に復活していた男性の石像が同じく両腕を邪神に叩きつける。
「ウグオォ!?」
男性の石像は顔が少し砕け、騎士の石像は大きな一撃を喰らい右腕を消失していた。
二つの石像は倒れた邪神を執拗に攻撃し始めた。
邪神の体はどんどん崩れていき、砂ぼこりが消える頃には両足が砕けていた。
ナイフを器用に回しながらエミリアは邪神の近くに辿り着いた。
その場から動けない邪神を見る彼女は無感情な表情。
「終わらせてあげる。ね、手伝ってくれるよね?」
グリムリーパーは赤く光る。
「仰せのままに」とでも言うように。




