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死神少女はどこへ行く  作者: ハスク
陸―聖都の伝説―
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死神少女は聖女を落とす

【聖都ラ・ブランダス】

大聖堂に戻ったエミリアの片手にはパンが詰め込まれた買い物袋がぶら下がっていた。おつかいに行ってきた子供のように買い物袋を揺らしながら歩く姿は年齢に見合わず様になっている。


大聖堂に入ろうとすると番人であろう聖騎士がエミリアに敬礼をした。大神官から聖女の親友と聞かされたための対応だ。エミリアは少し驚くが軽く会釈をしてさっさと大聖堂へ入っていった。






「おかえりなさいですエミリア。」

「クリス………?」

「お邪魔してます。」


部屋に戻るとクリスティアナがベッドに腰かけていた。三人は出掛けているのか姿が見えない。


「ナタリーは二人から魔法が見たいと言われまして出掛けてます。遠くには行ってないと思いますよ?」

「魔法かぁ………ナタリー魔法得意だからね。」


賢者になっているくらいだ、得意なんてものではないだろう。

エミリアはクリスティアナの隣に座る。


「ん、パン食べる?」

「いただきます。」


エミリアがチョココロネを差し出すとクリスティアナが笑顔になる。


「これ、好きでしょ?」

「チョココロネ!覚えていてくれたのですね。」

「親友だもん、当たり前。」


幼少期の大事な思い出は忘れるはずがない。妹と親友に関することはだいたい覚えている。

幸せそうにチョココロネを頬張るクリスティアナを見てエミリアは僅かに微笑む。エミリアはクロワッサンを少しずつ食べる。


「何年ぶりでしょうかね、チョココロネなんてなかなか食べられませんから。」

「聖女だから何でも食べられるんじゃないの?」

「そんなことありません、貴族向けの甘すぎるお菓子なんて食べられたものではないのです。まだ教会の精進料理の方が美味しいです。」

「大変なんだ。」

「聖女というのは大変なのです。まぁ王族貴族に口答えしてもお咎めなしなのが救いです。」


エミリアと出会う前までは婚約話が結構来ていたがクリスティアナは全てを断っていた。好きでもない男と一生を過ごすのは貴族でもない彼女には耐えられないものだ。



クリスティアナは徐にエミリアの肩に身を預けた。


「どうしたの?」

「いえ、少しこのままでいさせてください。」

「んー…………クリスがそうしたいなら。」


エミリアは気にせずクロワッサンの残りを食べ始めた。

周りに誰もいない、二人きりの時にクリスティアナがよくやっていた。この瞬間だけ自分だけのエミリアにできる…………という俗な考えでやってることだ。そして同時に安心できる一時でもある。


「なんか、恋人みたい。」

「えっ!?」


なんとなく呟かれた言葉はクリスティアナを激しく動揺させた。


「前にキクスでこうやってる男女がいたの。仲良さそうな感じだったし、きっとカップル。今、そんな感じだなって。」

「私と………エミリアが………」


クリスティアナの顔は完全に赤く染まっていた。実際彼女はエミリアのことが好きだ。この感情は良くないことだと思いずっと隠していた。しかし魅力的な男性が今まで出現しなかったのが災いし エミリアへの思いが強くなる一方だった。




耐えられなくなったクリスティアナは一度自室に戻ることにした。このまま感情のまま動いたら取り返しがつかないことをしでかしてしまう。

名残惜しいが適当な理由をつけて部屋から出た

。逃げるように出ていったクリスティアナを不思議そうに思いながらエミリアはクロワッサンの残りをかじる。






「聖女様、一体何があったのですか?お顔が…………」

「なんでもありませんっ。体調不良とかではないのです、はいっ。」


世話役の修道女から心配そうに声をかけられたがクリスティアナはごまかす。

動揺しているのは見え見えだが世話役はあえて触れないことにした。


「聖女様。エミリア様が来てからすごく元気になってますが、一体何者なのです?」

「あの人は…………私の大切なこいび…………親友です。」


一瞬自分は何を言いかけたんだとかなり動揺していた。が、修道女には気づかれていないようだ。


「エミリアと…………えへへぇ。」

「聖女…………様?」


やっぱり我慢できなかった。修道女は普段笑顔を見せない聖女の心からの邪な笑顔を初めて見た。







あのエミリアという少女は本当に何者なのだろうか。調べてみるのも悪くない。

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