死神少女は妹を倒す
【聖都ラ・ブランダス】
大聖堂を中心に街となった聖都。
ブランウェル王国王都の西方、邪神が封印された場所に作られた。自治権は王国にあるが最終決定権は大神官にある。ちなみに聖女は大神官並の権力を持つ。
四方は王都や帝都と同様に城壁で覆われ、魔物の侵入を防ぐ。聖都の門や城壁、随所に大きな白い人型の石像、まるで聖都を見守るかのように佇んでいる。邪神封印後に作られた石像は人々から守り神として扱われていた。
建物のほとんどが白く、『白の都』の別名を持つ聖都………そんな場所に少女五人はいた。
「ここが聖都………かなり大きい?」
「広さは王国では三番目くらいです。門の大きさだけは一番ですが。」
夕日に照らされた巨大な門を見上げてエミリアはクリスティアナの話を聴いていた。王都の門も大きかったが聖都はそれ以上………竜化したレイラがそのまま入れそうなくらいだ。
「もう今日は遅いですし聖都で泊まっていってください。一部屋くらい空いてるはずです。」
「クリスティアナ様、まさか大聖堂に泊まらせるつもりでは?」
「何か問題でも?」
「一応わたくし達は一般人ですし恐れ多いのでは……」
「問題ありません、聖女が許すのですから。」
権力を私的に使うつもりのようだ。勿論普段から権力を振りかざすような彼女ではない。
聖都に入ってクリスティアナと一旦別れた。先にエミリアの服を新調することにしたのだ。
いつまでもぼろぼろの服を着ていてほしくないという三人の共通の願いだった。
「今のと同じようなのがいいんだけど…」
エミリアはレイラ、ハンナと手を繋いでいる。
嫉妬しそうなナタリーが何も言わないのは珍しい。というのも見た目悪くない二人と戯れるエミリアを見て「あ、これはこれで良い」と考えを改めたのだ。
勿論自分の番が来たらその分甘えさせてもらうつもりである。
服屋に着いた四人。ナタリーは店員に試着室を借りることを告げると目についた服を持ってきた。
「お姉様、取り敢えずまずはそれに着替えてくださいます?」
「んー、かなり大きい気がする………」
エミリアは試着室に入り着替え始める。
「賢者様、お姉ちゃんに何渡したの?」
「以前から着て欲しいものがありまして。」
「すっごい気になる。」
「楽しみにしていてください。」
慣れない服だからか若干着替えに手間取ったらしく、少し時間がかかった。途中で店員が手伝ってようやく完成したようだ。
試着室からエミリアが出てくる。
黒を基調とした服、フリル付きの暗い緑の膨らんだスカート、ボンネットと呼ばれる帽子。
巷ではゴスロリと呼ばれる代物だった。ナタリーは前からエミリアには絶対に似合うと思っておりその機会をずっと待っていたのだ。
人形のような姿をしたエミリアにナタリーはすっかりノックアウトされ、レイラとハンナは呆気に取られている。
「ね、ねぇ………なんか違わない?」
エミリアは困惑しながらスカートを摘まんではためかせたり少し回ってみたりした。
「かわいい………」
レイラとハンナはエミリアに飛び付いた。
「お姉ちゃんすっごい可愛い!!」
「お人形さんみたい!」
「そ、そうなの?」
エミリアは自分の容姿がどうなのかよく知らない。両親やナタリー、クリスティアナは昔かわいいかわいい言ってくれてたがピンと来なかったのだ。
今、血の繋がりのない二人に言われて嬉しさ半分恥ずかしさ半分。エミリアは感じたことのない感覚に戸惑っていた。
結局エミリアは前と同じような服装に落ち着いた。ただ以前とは違い、頭にはナタリーが選んでくれた白いリボンが付いていた。
「大事にするね。」
大切そうにリボンを触る。
ちなみに先ほどのゴスロリ服はナタリーのポケットマネーで購入された。また着せるつもりらしい。エミリア的にはちょっぴり勘弁してもらいたいところだ。
大聖堂地下深くには邪神が封印されている祭壇がある。祭壇には白い剣が突き刺さっており、そこに封印してあるとされている。
正面には祭壇を見下ろす巨大な石像が謎の笑みを浮かべ佇んでいる。
剣の前にクリスティアナが膝をついて祈っている。ぶつぶつと何かを呟くと剣が光始め、暗い地下を明るくしていく。
やがて光は収束していき剣に収まっていった。
「ふぅ………間に合いましたね。」
ローブについた埃を払って地上へ向かうことにする。後ろには転移用の大型魔方陣、地上と地下を行き来する為のものだ。
魔方陣に乗ると正面の石像を見て呟く。
「いつ見ても好きになれませんね…………。」
石像は怪しい笑みを浮かべていた。




