死神少女の生まれ故郷
【ブランウェル王国 王都ミゼリオナ】
地下闘技場での活躍を労ってセリカ達からご馳走してもらうことになった。
といってもエミリアは例のごとくパンだった。
「意外と食べないのね。二人とは対称的だね。」
エミリアの両隣に座るレイラとハンナは皿一杯の魚、肉料理を幸せそうな顔で食べていた。
「元は食べてたんだけど。」
「エミリア一番動いたんだから食べた方が良いよ?その内倒れちゃうから。」
ハンナがエミリアにエビルベアのモモ肉をフォークで差し出す。
「んー…………じゃあ遠慮なく。」
仕方なくあーんして食べさせてもらう。
油っこいがしつこくない味だ。
気づくとレイラもフォークでシザーハンズと呼ばれる蟹の魔物の料理を差し出していた。
「お姉ちゃんが倒れるのいやっ!」
「いやそんな簡単には倒れないから。」
「いっぱい食べて!」
エミリアが居なくなるという類いのワードを聞くとレイラは途端に頑固になる。
基本的にエミリア本人の意思は無視されてしまう。
心の底から思ってくれるのは正直嬉しいが。
結局レイラとハンナが自分の半分の料理をエミリアに食べさせた。
「…………食べ過ぎ。」
「いやいや全部受け入れなくてもさ……」
「無駄にできない………」
「気持ちはわかるけど。」
エミリアの回復を待ってセリカが切り出す。
生まれ故郷のベルセイン帝国への帰郷の話だ。
エミリアの強さは本物だ。まだ王族貴族には知られてないようだが今日の騒ぎを第二王子が見ていたはず。
噂が広がるのも時間の問題だろう。
一部の貴族は帝国を嫌っている。運悪く見つかったら酷い目に合う。
勿論エミリアならなんとかしてしまいそうだが、それをきっかけに大きな事態に発展してしまうだろう。
「港町でキャプテンが船を用意してくれる。後は貴方の意志次第なんだけど………」
エミリアは左右に座る少女を見る。
二人とも少し不安そうだ。
「……二人も連れていきたい。」
「大丈夫、元からそのつもりよ。」
「ん。」
二人が嬉しそうに頭を寄せてきた。
「ん~モテモテじゃない。」
「随分懐かれてるのね。まぁ仲が良いのはいいことよね。」
「リリノア~、私たちもいちゃつこう~?」
「あんたの場合は人前でやる限度を肥えてるのよっ!」
リリノアが近寄ってくる顔を抑える。
セリカ達と別れたエミリアら三人は宿に戻った。
王都は三日後に出発することとなり、その間は自由時間だ。
「エミリアが帝国生まれって知らなかったなぁ。」
「言ってなかった?」
「うん。」
「考えたら今日まで青い髪の人ってあまり見なかった気がする。」
青髪の子供は王国では滅多に産まれない。
第二王子は暗い青髪のため、多少話題になったことがある。
一方帝国では逆に金髪の子供がほとんど産まれない。
血筋なのか、それとも環境が関係するのか、はたまた女神の気まぐれなのかはわからない。
この話は結構有名で森からほとんど出たことのないハンナですら知っていた。
「お姉ちゃん、帝国ってどんなところ?」
「実はよくわかんない。山とかには登ったことあるけど、他の町とかは知らない。」
「じゃあさ、今度は帝国で旅をしようよ!帝国の魔物がどんなのか見たいなぁ。」
「ん、いいかも。」
夜、エミリアは夢を見た。
忘れたくとも忘れられない忌々しい記憶…………
燃えていく………父も………母も………
幼かったエミリアはただ泣き叫ぶことしかできなかった。
これで僕が一番だ。
「っ?!」
エミリアは飛び起きた。
ここ最近悪夢は見ていなかったから油断していた。
やはり帝国の話が原因か、いやセリカは悪くない。
「はぁ………はぁ………くぅっ!」
思い出す度にエミリアは何もできなかった自分を殺したくなる。
せめて父か母のどちらかは助け出せたはず…………
そして最後に聞こえた男の声は知らない声だった。
だが記憶にあるということは会ったことはあるはずだ。
過去のエミリアが記憶を封印でもしてしまったのかもしれない。
「けほっ。」
なんだか体が熱く感じた。
悪夢を見たせいだろうか、汗もかいている。
服が肌に張り付く感じが気持ち悪い………
(……夜風に当たって冷ましてみようかな。)
部屋には二つの寝息が聞こえる。
二人の寝顔を確認するとエミリアは部屋を出た。
この宿は夜間は宿で働いてる人かチェックインした客以外は出入りできない。
それ以外の者は玄関や裏口で魔法障壁で阻まれ侵入はできないのだ。
ゆらゆらと外に出たエミリアは玄関に寄りかかった。
ブラウスとスカートをパタパタとはためかせて空気を送り込む。
年頃の少女がとても人前ではできないことだが、人通りの途絶えた今だからこそだ。
「………ぅっ!」
嫌な視線を感じたのか投げナイフを構えた。
エミリアは正面の酒場の樽から視線を外さない。
右手はいつでもプレートナイフを抜けるよう柄を握ってある。
本調子ではない今は交戦を避けたい。
「…………ふぅっ。」
嫌な視線は感じるが敵意を向けてこない。
エミリアは部屋に戻ることにした。
去り際に視線を感じた場所にナイフを投げつける。
息を飲むような声が聞こえたが、向こうから仕掛けてこないなら関係ない。
翌日エミリアは風邪を拗らせ、二人から過剰な看病を受けることになる。




