死神少女の休日
長めです。
【ブラウェイン王国 シルフの森】
シルフの森とは王都の北に広がる森だ。
更に北には極寒の地が隣り合う。
風の精霊や妖精が住むとされ、神聖視されている。
とにかく空気が綺麗で居心地が良い。
奥深くにはエルフや獣人の集落があるが特別な結界が張られ、一般には立ち入り不可能である。
精霊や妖精は姿が見えないが、気に入られると姿を表してくれる。
霧の森とは違う魔物も生息しているが冒険者はあまり入らない。
そんな場所に少女三人はいた。
エミリアは虚ろながら目を開けた。
港町での戦いの後は記憶がなかった。
疲れて眠っていたのだろうか。
だんだん視界が確保されると違和感を感じた。
ここはどこだ?
港町の宿ではない、知らない森だ。
「………っ!!」
背中に痛みを感じる。
そういえばクラーケンから一発もらっていた。
そして頭の柔らかい感触…………枕ではないな。
首を動かしてみる。
ハンナの寝顔があった。
あぁ、これはハンナの膝枕なのか。
わざわざハーフパンツを捲って太ももを出してある。
狩人とは思えないくらい細く柔らかい足だ、もう少しだけ………。
と、ハンナの口から涎が垂れてくるのを見つけた。
爆撃を受ける前に身体を捻って避ける。
「ぶぁっ。」
膝から落ち顔から地面に激突した。
「おはよ~。あれ、頭打った?」
「気にしないで。」
数分後ハンナは起きた。
涎爆弾については言わないことにした。
なんとなく港町から出てきた理由はわかった。
二人は気をきかせてくれたのだろう。
でもせっかく知り合った…………名前を忘れた。
ビキニアーマーと幾何学仮面にさよならをしていないのが心残りだ。
「あ、お姉ちゃーん!!」
少し遠くからレイラがゆっくり抱きついてきた。ちょっとよろけるが受け止める。
抱き上げると頬っぺたをすりよせてきた…………すごく癒される。
そういえばこの子の助けがあったんだっけ。
頭を撫でる。
「頑張ったね、お陰で助かった。」
「えへへー。」
レイラを撫でてるとハンナが顔を胸に埋めてきた。
体勢がきついのでエミリアは寝転がる。
「私だって頑張ったんだよ~?」
「うん、ハンナも頑張った。」
レイラが頬っぺを、ハンナが胸を占領している。
この状態が30分続いた。
「はい、今日は1日お姉ちゃんは休んでもらいます!」
「ん?」
ひとしきり撫でられたレイラは顔を赤くしながら言った。
「私思ったの。お姉ちゃんは働きすぎだって。」
「ん?んー、そんなことは」
「あるの!!」
「おぉ…」
有無を言わせない迫力を感じた。
若干竜が混じっていた?
「今日は私とハンナがお姉ちゃんのために色々するよ!」
「午前と午後で別れてご飯探すだけだけどね。エミリアはそこでゆっくりしててよ。」
「残った方は…………その、甘え係?」
食糧調達以外はほぼいつもと変わらないようだ。
うん、せっかくだし今日はゆっくりさせてもらおう。
野宿だけど。
午前はハンナが魔物狩りに出掛けた。
幼少時代に来たことがあるらしく、ある程度の土地勘はあるそうだ。
エミリアとレイラは適当な倒木に腰かけていた。
足をぶらつかせながらレイラを見る。
首の後ろに何かが張り付いた後が残っている。
あの烏賊の仕業だろう。もういないが。
レイラがエミリアの視線に気付き、にこっと微笑んだ。
レイラの顔をエミリアはじっと見つめている。
「んみゃ?」
レイラの頬っぺたを思わず摘まむ。
物凄いもちもち感だった。
押し込んだり伸ばしたりしてみる。
「んむぅ~、みぃ~っ。」
間抜けな声が出てくるがエミリアはお構いなしに弄くりまわした。
ハンナが戻るまでレイラで遊んでいた。
本人はされるがままだったが満更でもない様子。
レイラが遊ばれている頃、ハンナは魔物ハントをしていた。
すでにグリーンバード六体が背中にくくりつけられていた。
「我ながら絶好調っ!そろそろ戻ろっかな?」
マチェットの血を拭いていた時、ふと近くの茂みを睨む。
「オンナダ、ヒサビサノオンナダ!」
オーク三体が茂みから出てきた。
「あ~面倒な奴、変な臭いするから食べたくないんだけどなぁ。」
ハンナはクロスボウの矢を腰の薬瓶に雑に浸した。
「ブヒヒ!!ハヤイモノガチダァ!、」
オークが一斉に襲いかかる。
一体のオークに矢がささり、もう一体の首が飛ぶ。
残る一体はハンナの腕を掴むが直後膝蹴りを顔面に受け卒倒した。
矢が刺さったオークは身体を痙攣させその場に倒れた。
「キラービーの毒ってオークにも効くんだね、刺されたらすぐ薬飲まないとやばいよー…………持ってるわけないか。」
蹴ったオークへクロスボウの狙いをつけ…………
ハンナが戻った時、二人は抱き合って頬っぺたをくっつけていた。
出掛けた時間から考えるとだいたい二時間くらいいちゃついていたらしい。
少しだけ嫉妬するが元々これが目的みたいなものだし気にしない。
「ただいまぁー!」
二人は座ったまま器用に跳ねた。
夕方……今度はレイラが出掛けていった。
ハンナが目印を付けてきたらしく帰りの心配はないらしい。
二人はさっきレイラといちゃついてた倒木に腰かけた。
「ふふ、いつも甘えさせてありがとうね。」
ハンナはエミリアの胸に顔を埋める。
「んっ……今更じゃないの。」
「えへへ、こうしてる間が一番幸せ。」
エミリアの控えめな胸に亡き母を重ねる。
いずれは決別しなければならないこと。
しかしハンナはまだまだ先の事になるだろう。
堪能したハンナはエミリアに向き合う。
「ねぇ、今度はエミリアがやってみなよ。」
「んぇ?」
「私ばっか堪能してるのも悪いしさ。あと気持ちいいよ?」
「そういう趣味はない。」
「まぁそんなこと言わずにさっ。」
「んむっ!?」
エミリアがハンナの胸に埋められる。
思わず目を見開いて離れようとする。
だがハンナは力任せにエミリアの頭を押さえる。
やがてエミリアは抵抗をやめてハンナに身を委ねた。
亡き母に抱かれた日々を思い出す。
服越しに感じる人肌はエミリアを幼くさせた。
「あぁ………お母さん…………」
言ってしまった。
一度溢れた感情は止まらない。
決別したはずだった。
レイラとハンナと出会って成長したつもりだった。
こんなんじゃハンナのこと言えない。
ハンナの服が涙に濡れていく。
「ぐすっ…………うぅ…………」
大人ぶっていても根本はまだ子供だった。
「……お互いお母さん代わりにはなれない。けど、寂しかったらいつでも胸貸してあげるよ。」
少女の小さな泣き声が森に響く。
「んっしょ…………」
レイラはソードタイガーを背負っていた。
剣のような牙をもつ魔物だがすでに絶命していた。
顔を潰されていた。
「ふぅ……ちょっと休もう……」
小さな身体ではさすがにソードタイガーは大きすぎたのか歩みは遅かった。
「ブヒヒヒ!!ツルペタヨウジョダア!!」
「ひぅ?!」
オークが飛び出した。
「ヒャッハァロリダァ!!」
「イタダキマース!!」
その日、シルフの森の一端が焦土と化した。
日が落ち始めた。
レイラが大物を持って帰るとエミリアがハンナの胸をいただいていた。(レイラにはそう見えた)
思わず顔が赤くなる。
エミリアもそういう一面があるのかと誤解をした。
「お姉ちゃーん!」
声をかけたらエミリアが振り向く。
ハンナの服が胸部分を中心に濡れている。
レイラの目が点になった。
夜が更け三人の少女は寄り添って眠る。
その内一人がそっと起きあがり、森へ消える。
少女の周囲にはオークだったもので散乱していた。
今日は二人のおかげでゆっくりできた。
だから今夜くらい頑張らせてね。
命乞いするオークを容赦なく割り、刺さった得物を無理矢理引き抜く。
今日は平和だった。
少女の中ではそういうことになった。




