死神少女の捨て身の抵抗
※過激な残酷描写にご注意ください
【???】
「諦めちゃだめだよ、エミリアおねーさん。」
邪神に取り憑かれたことで身体を乗っ取られたエミリアに幼い子供の声が聞こえた。
懐かしくも、しかし何故か馴染み深いような声だ。
周囲は真っ暗、そこに現れた小さな光がエミリアに近づいた。
「その声…………妖精さん?」
「えへっ、覚えてくれてたんだー。」
間違いない、王国のシルフの森で会った妖精ティカルだ。
「良かった、私のおまじないが効いたみたい。」
「おまじない………そういえばしてもらったっけ。」
「うん。」
何となく覚えていた。
別れ際にエミリアの身体が光って、疲れが取れたような気がしたのだ。
「内緒にしていたけど、本命は今みたいな状況でおねーさんを助けるためなの。」
とある伝承によると、妖精に気に入られた者は『妖精のおまじない』をかけられることがあるらしい。
おまじないの効果は不明。だが聞くところによると、絶望し人生に見切りを付けようとした人間が突然精力的に活動し逆転した………なんて話がいくつかあった。
エミリアにかけられた『おまじない』は魂の強化。
邪神ズヴェンにより本来消えゆくしか無かったエミリアの魂が形を保つことができたのだ。
「私にできるのはここまで。おまじないが効いてる間にわるいやつを倒して!」
「ん、わかった。ありがとうね。」
妖精らしき光は消えた。
自分を蝕む感覚は気持ち悪いが、皆を助けるためにもしっかりしないと。
【バナス砂漠 グシュ遺跡】
そして彼女は目覚めた。
何とか動く左腕を動かして戦斧の軌道を逸らしてレイラを助けた。
「私の仲間を、傷つけるな。」
「お姉ちゃん!」
エミリアの左目が青に戻った。
「何故だ!?何故まだ表に出られる!?」
混乱する邪神を尻目にエミリアは右手の戦斧をはたき落とすと思い切り壁に頭を打ち付けた。
「私から出て行け!!」
「妖精のおまじない………」
ルールーが呟くとクリスティアナがハッとした。
「エミリアは妖精に気に入られていたのですか?」
「そうみたい、おかげで主の魂が消えずに済んでいる。」
「主が邪神を抑えてる、聖女。」
「はい!」
再び二人でエミリアから邪神を引き剥がす。
「さっきより手応えがある………?」
「おまじないで邪神が弱っているのですか?」
「おまじないで何かが弱るなんて聞いたことない………いや、まさか。」
ルールーは眼前で頭を打ち付けまくるエミリアの行動に一つの可能性を感じた。
認めたくはないが。
「主の身体が傷つくことで邪神の取り憑きが弱まっている?」
「まさか、じゃあエミリアは………」
エミリアは反射的に頭を打ちつけたが、偶然にもその時邪神の侵食が弱まったのだ。
もう一度ヘドバンして確信した。
ルールーとクリスが引き剥がしやすいように自分は自分を傷つける。
だがもう頭は駄目だ、くらくらしてきた。
ナイフがあれば簡単に傷を付けられるのに。
「おのれまだ抵抗するか!!」
「お前を殺すためなら何だってやるっ!」
邪神が表に出てきて煩くなる。
独り言で会話してるようで気持ち悪い。
ふと矢傷を負って動けないハンナが視界に入る。
近くに落ちてるのは………
「グリムリーパーっ!」
エミリアが叫ぶと闇剣は引っ張られるように宙に浮き、エミリアの左手に収まる。
「何をするつもりだ!?」
邪神が右手でグリムリーパーを奪おうとしたが逆に刺されて離される。
「っ?!主っ、それは無茶!!」
闇剣越しにエミリアの思考を読み取ったルールーが珍しく主人を止めようとする。
「クリス!」
唐突に呼ばれクリスティアナはエミリアに顔を向けた。
そしてクリスティアナも何をしようとしてるのか理解してしまった。
「駄目っ、それは!!」
信じてる。
そんな目をしてエミリアはグリムリーパーを自分の腹に突き刺した。
「あぐぅっ!!」
「いやぁっ!!エミリア!!」
自分の相棒を躊躇なく深々と突き刺す。
刀身の傷だけでなく闇剣独特の力によってエミリアが衰弱していく。
「無茶苦茶っ………でもこれで邪神を剥がせる。」
これ以上長引かせたらエミリアも一緒に死んでしまう。ルールーとクリスティアナは最後の力で邪神に仕掛ける。
「せっかくここまで来たのに………邪魔させてたまるか!!」
グラズが再びクリスティアナ達に雷撃を放つ。
直撃寸前でラバダが飛び出し雷撃を受け止めた。
「………同じ失態は犯さん。」
雷撃を受けた黒い鎧から所々黒煙があがっている。
中身が人間なら無事ではなかっただろう。
「くそっ、ならもう一度!!」
「どこを見ておる?」
ガキィッ!
刀が障壁に止められる。
「これ以上戦友の身体を弄ぶのは許さん、拙者が引導を渡してくれる。」
黒ローブを処理した猛一郎がグラズに襲いかかる。
攻撃は全て障壁で防がれるが猛一郎がいる事で魔法陣の展開ができないでいた。
「ウォォォォォ!!」
言葉に似つかわしくない雄叫びが響いた。
そして入口方面から赤い光を帯びた桃江が凄まじい速度で突進してきた。
「げふっ!?」
エミリアを撥ね飛ばした桃江はグラズに飛びかかり薙刀を力任せに何度も振り下ろす。
ガッ!!ガッ!!ガシャーン!!
鬼の蛮力でグラズの障壁が破壊された。
「馬鹿なっ?!」
「聖女っ、今!!」
「エミリアから離れて!!」
突進に撥ねられ抵抗が治まったエミリアから黒い靄が出てきた。
辺りを漂う靄にクリスティアナが反射的に手をかざすと塊に変化していき、やがて鉱石のような形になった。
「聖女、主を!」
「はい!」
ルールーはクリスティアナから塊を受け取る。
「あの時とは違う、ルールー達は強くなった。」
ぐしゃっ。
グラズが猛一郎と桃江に気を取られてる隙に広間から少し移動した廊下にエミリアを避難させた。
全員ボロボロ。
だが取り分けエミリアは自傷した分酷い状態だった。
自分達よりエミリアを。
皆の意見は一つだった。
『エクスヒール』
死んでさえなければ欠損部位だろうが関係なく身体のあらゆる怪我を治す最上位回復魔法。
聖女のクリスティアナだからこそ使える。
無論魔力消費は段違いに多く、これでクリスティアナは大半の魔力を消費した。
身体中の怪我が治ったことで一同は安堵した。
エミリアは目を覚まさない、また翌日になれば起きるのだろうか。
不意に感じる違和感。
これまで激しい戦いを終えたエミリアは疲労から倒れ深い眠りに就いた。
いつも死んだように眠るものだから一瞬慌てるものの、眠ってるだけだと分かって安心するのが一連の流れだ。
そのはずだ、そうあるべきなのだ。
じゃあこの違和感は何?
どうして呼吸が止まってるの?




