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死神少女はどこへ行く  作者: ハスク
拾参 ―黒き神の子―
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死神少女は不敗伝説に挑む

【砂漠の町ゴドゴゴ】

バトルトーナメントを勝ち上がってきたエミリアはいよいよ『キング』とやらに挑むことになった。

聞くところによると『キング』はここ数年一度も膝をついたことがないらしい。

どんな挑戦者も『キング』の圧倒的な力に完膚なきまでに叩きのめされた上で尊厳すら無くしてしまうのだとか。


そこまで言われると気になるのが人間だ。

これまでエミリアも色々な強敵と殺し合いをしてきた。

今更ちょっと強い程度では驚かない。



「エミリア!!」


声がした方を向くとクリスティアナ達と目が合った。

どういう訳か部族長(名前は忘れた)が連れてきたらしい。

軽く手を上げておく。




『さぁ今日ほど大闘技場が熱狂したことは恐らく一度も無いでしょう!!初の外国人、それも未成年の少女がバトルトーナメントを制してキングに挑戦します!!では我等がキングに登場してもらいましょう!!』


ズシンッ、ズシンッ


やかましい実況と歓声と共に地響きを鳴らしながら何かが歩いてくる音がした。


現れたのはラバダくらいはありそうな大男だった。

全身鎧で表情は見えない、一丁前にマントも付けていた。


「よぉ嬢ちゃん、ここまで来るとはたいした奴だな。女がここまで来たのは二年ぶりだな。」


そう言うと背中に背負っていた武器を地面に叩きつけた。


戦斧(ハルバード)と呼ばれるそれは先端が鉤爪と斧と槍のハイブリッド武器だ。

刺して良し、斬って良し、特殊な使い道で騎兵の鎧に鉤爪を引っ掻けて落とすことも出来る。

何人もあれで仕留めてきたのだろう、血が残っていた。


「悪く思うなよ?死にはしないが死ぬほど痛いぜ。」


「生憎、まだ死ぬ予定じゃない。」




試合開始の合図が鳴った。

と同時に戦斧(ハルバード)が振り下ろされた。


難なく避けたエミリアはカウンターで腕を狙いにいく。




ガキィッ


「あっ……?!」


プレートで防がれたのは理解できた。


問題はグリムリーパーを通して衝撃が伝わり腕が痺れたのだ。

こんな事一度も経験が無かった。



怯んだエミリアに戦斧(ハルバード)が襲いかかるが寸でで避ける。



(ただの鎧じゃないっ!)


何とか落ち着いたものの、あれを何度もやれば剣を落としそうだ。




「主、あれはダメ。アダマンタイト製だよ。」


霊体として側に居たルールーが頑丈過ぎる鎧の正体を教えてくれた。

ルールーによるとキングの防具は世界一硬い稀少鉱石のアダマンタイトが使われているという。

あらゆる衝撃を受けても傷一つ付かないそれは熟練のドワーフですら加工に数年を費やすらしい。






唯一の弱点はあまりにも硬いため関節のような可動域の部分が作れないことだ。


キングの防具は全身を包んでいるがよく見ると所々違う金属で保護されていた。




キングに勝つにはアダマンタイトを避けて装甲の薄い部分を貫かなければならない。



剣が駄目ならハンマーやレイピアはどうだろう?


斬撃の効かない重装武者にはハンマー等の打撃武器で鎧越しに()()を攻撃するのがセオリーだ。

若しくは関節部の隙間や兜の視界確保用の穴にレイピアを捻じ込むのも有効だ。


幸い奴は機敏性が無いようだ。


作戦は背後に回って殺しに行く、マントが邪魔だからハンマーで殴る。


まずは戦斧(ハルバード)の範囲を避けて後ろに回り込む。キングは見越したかのように戦斧(ハルバード)を振り回しまくる。

ギリギリ当たらない範囲だが振り回した時の風圧で砂埃も舞い始めた。


探知能力ではキングの向いてる方向までは分からないが、少なくともこちらを見てはいない。


よし今。



ガツンッ!!


かなり重い金属音が闘技場に響いた。


「今のは効いたぜ、俺に一撃与えたのは嬢ちゃんが初めてだ。」


そう言うとキングは背中から長い棒を取り出した。


「俺様も負けるつもりはねぇんだ、こっからが本番よ。」


瞬間、広い範囲で強い殺気を感じた。

間に合わない、咄嗟にグリムリーパーを盾にした。



ドゥッ!!



棒から爆音、広範囲にばら撒かれた金属片がグリムリーパーで防ぎきれなかったエミリアの身体に突き刺さる。


「ぐっ………」


左手に力が入らずナイフを落としてしまう。




キングが棒を擦るような動作をすると棒から何かが飛び出した。


散弾銃(ショットガン)

接近戦を得意とするエミリアの天敵でありキングが今日まで勝ち続けた要因でもある。


アダマンタイトの絶対防御に異界の散弾銃(ショットガン)で瀕死にさせる。それがキングの戦い方だった。





絶望的な状況にも関わらずエミリアは負けるつもりは無かった。

これまで何度も死にかけているし、その度にどうにかして生き残ってきた。

何よりも自分が負けることで大切な仲間が酷い目に遭うことが許せなかった。


左手は使い物にならない、ここからは片手で何とかする。


グリムリーパーがエミリアの身体を完全に覆う大盾状に変形した。

この手の盾にありがちの覗き穴は存在せず、銃撃から身を守る事が出来る。

大凡の位置は探知能力で把握できる。とはいえ大怪我をしている為に精度は大きく低下していた。


ドゥッ!!


銃撃を大盾が防ぐ。

直後に大盾でなぎ払った。


ドゴッ


「ぬぅ!?」


手応えはあった。

キングの左手から散弾銃(ショットガン)が離れた。


「このぉ!!」


剣に変形したグリムリーパーを力任せに振り上げた。


ガキュッ


アダマンタイトとは違う感覚、刃が鎧を貫いた勢いでエミリアは尻餅をついた。

キングの左手が切断され血が吹き出ていた。


「やってくれる!!」











ナタリー達は気が気でなかった。

散弾銃(ショットガン)で大怪我をしたエミリアを見て実際に悲鳴をあげていた。


かなりの量の血が今も流れていた。死んでも可笑しくない状態であった。


「お姉ちゃん………」


レイラがぎゅっとナタリーの袖を掴んだ。

こちらからは何も出来ないのが悔しい、魔封じの首輪が無ければ隕石を三つくらい落としてやるのに。


「信じましょう、お姉様は勝ちますとも。」


ナタリーは根拠は無いがエミリアが勝ち残ると思っていた。多少美化はされてはいるものの彼女の中のエミリアは完璧超人であった。


クリスティアナはただ只管に祈っていた。

微かに両手が震えているのは恐らくエミリアを失うかも知れないという恐怖からだろう。


エミリアの狂気染みた強さを四人はよく知っていた、

魔物相手なら本職のハンナに一歩譲るが人間相手には必ず勝って残酷な最期を迎えさせていた。



そんな中、ハンナはエミリアが戦っている戦場の上を見ていた。

観客達は試合に夢中で気がついていないが上空では異変が起きていた。


(コンドルの群れが………集落に寄りつかない筈のあいつらがなんで?)




「キャアアアァァァァ!!!」


一瞬目を離した直後にナタリーが悲鳴をあげた。






大闘技場の中心でエミリアの身体を戦斧(ハルバード)が貫いていた。

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