死神少女 vs 牛頭のサムライ
【砂漠の町ゴドゴゴ】
次はいよいよ決勝。
皆を助けるには決勝で勝った上にキングとやらを殺す必要がある。
ここまでほとんど雑魚ばかりで楽勝だったが、今回ばかりはそうも行きそうになかった。
次の対戦相手の戦いぶりは控室で当然チェックしていた。
相手は人間ではない。
快勝を続ける少女の登場に会場は盛り上がった。
並み居る敵を次々とスクラップにしていく様は観客からしたら爽快だった。
耳障りな歓声に顔を顰めつつも正面からやってくる敵を睨んだ。
いつか殺害したオーク並の巨躯を誇り、筋肉質な身体に全く似合わないアズマ風の着物。
牛の頭を持つミノタウロスだった。
名も無きミノタウロスは大昔に邪神と共にこの世界にやってきた異界の亜人である。
純粋に戦闘そのものを好むミノタウロスは勇者ユウキとも戦った経験があり、二回ほど刃を交えていた。
戦いが全てであった彼は世界の命運等に興味は無く、邪神が封印されてからは強者を求め各地を流れていた。
ある日船旅の途中で嵐に遭遇してしまう。幸運にもアズマの地でとあるサムライに保護された。
アズマの地で暮らす内に彼はアズマの人間の生き様、特に武士道とやらに衝撃を受けた。
保護をしてくれたサムライに従事した彼は恐らく世界で唯一の武士道を重んじるミノタウロスとなった。
名も無きミノタウロスはサムライから『牛頭猛一郎』の名を授かり、武士道を極める為に再び海を渡り砂漠へやってきたのだ。
「拙者、牛頭猛一郎と申す。このような場で斯様な強者と戦う機会に感謝致す。」
一礼しながらミノタウロス……猛一郎は挨拶をしてきた。
今まで殺した相手は大体ぎゃははと笑いながら突っ込んできたのだが、こういったタイプは初めてだ。
「ここまで来たのなら其方は本物であろう。ならば此方も全力を出せるという物。悔いの無い戦いにしようぞ。」
猛一郎が刀を抜いた瞬間、殺気を感じたエミリアが咄嗟にナイフを突き出した。
ガキィッ
「っ!」
ナイフが両断された。
だがナイフが無かったら確実に首を取られていた。
「今のを防ぐか、楽しめそうだ。」
強い。
あんなのと真正面から戦わなくてはならない。
力で普通に負けてるし、恐らく戦いの経験も上だろう。
大鎌じゃあ駄目だ、こいつを殺す為には軽くて隙が小さそうな物が良い。
エミリアの思念を読み取ったグリムリーパーが変形した。
細長い片刃の剣。
猛一郎と同じ刀の形状を取った。
「ほぉ、敢えて同じ武器で挑むか。」
刀の形状に変わった瞬間、エミリアの脳内で刀の使用法が流れた。
悪くなさそうだ。
右手に刀を構えると同時に、左手に例のごとくナイフを持つ。
二人同時に駆け出す。
金属を打ち付け合う音が何度も響く。
力と体格差で完全に勝っている猛一郎の剣擊を、グリムリーパーでうまいこと受け流し反撃の隙を窺う。
歴然のサムライである猛一郎には一見隙は無いように見える。猛一郎は半袖から見えるエミリアの腕をよく見ていた。
エミリアは能力で、猛一郎は筋肉の僅かな動きで行動を読んでいた。
力では猛一郎が、機敏性ではエミリアが上回る。
意外にも実力は拮抗していた。
試合開始20分は経過したが未だに決定打に欠けていた。
お互いに一度出した技は全て見切られた。
恐らく最後の手で決めることになるだろう。
次で終わらせる。
エミリアの瞳が赤くなる。
ここまで温存していた力を使うべき相手なのだ。
再び同時に駆け出した。
ザシュッ
すれ違うと同時に肉を裂くような音は確かに聞こえた。
「見事………なり。」
猛一郎の胴体から派手に血が噴き出し倒れた。
エミリアの勝利であった。
今までに無い歓声が沸き上がった。
エミリアも流石に無傷とは行かなかった。
左腕から大量の血を流していた。
猛一郎は首を狙ってきていた。
斬り合う直前、左腕で無理矢理刀を受けて軌道を逸らしたのだ。
下手をしたら片手を失っていたが最終的に勝てばいい。
控室でクリスティアナに「無茶苦茶な戦いは止めて」と泣きながら怒られたので次からは使えそうになかった。
闘技場の遥か上空にて密かに試合を見ていた者がいた。
「素晴らしい、彼奴こそ依り代に相応しい!」
フードを被っていて表情は分からないが口調から狂気を感じられた。
実際に刀を腕で受けて軌道を逸らせるのかはわかりませんが、まぁエミリアだからってことで。




