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死神少女はどこへ行く  作者: ハスク
拾参 ―黒き神の子―
158/174

死神少女は危機を救われる

【砂漠の町ゴドゴゴ】

太陽が沈みかかる頃にエミリアの出番がやってきた。


砂漠の民を秒殺したエミリアの登場に観客はヒートアップ、エミリアは騒音にやや不快な顔を見せた。


対峙するのは異界の冒険者タロウ・シミズ。

場違いな少女に不適な笑みを浮かべていた。








異世界に来てタロウに足りない物があった。


こういった話でよくある美少女との出会いである。


砂漠の町に来る前にいくつかの村、町を転々としてきた。

一度だけ気になる村娘に会ったことはあるが滅茶苦茶強そうな彼氏らしい男といちゃついていたので諦めた。



そして砂漠の町で今、理想とも言える美少女と戦うことになったのだ。

殺意しか向けてこない少女は小さな身体に見合わない巨大鎌を持っていた。

控え室で観戦していたが、あれはあらゆる形状に変形する摩訶不思議な武器だ。

毎回戦法を変えてくる相手に対策なんかできない。


ならばやることは一つ、先手必要。





試合開始と同時にエミリアはナイフを投げた。

だがタロウの分身が身を以て防ぐと別の分身がエミリアに向っていった。

その数20以上にも及ぶ圧倒的な量だ。






ザクッ


突然タロウの足元から無数の刃が突き出て身体を串刺しにした。

攻撃を受けたことで分身が消えていく。



現実は甘くなかった。


エミリアはグリムリーパーを地面に突き刺していた。

分身使いの弱点は本体だと、亡き母から聞いたことがあった。

なので何かされる前に殺害を決行。


まともに戦えばエミリアでも勝つのは難しかっただろう。


串刺しになったタロウにエミリアがゆっくり近づく。

グリムリーパーは刺さったままだ。


まだ生きていることを確認したエミリアはナイフで喉を引き裂いた。

今度こそ息の根を止めた。






「今回もお見事でしたわ。」


サクッと始末したエミリアは控室で労われていた。


今回犠牲となった異界人の事は控え室越しに見ていた。

分身されたら厄介だったが最初の一撃で全てが決まった。


「あれ?もう終わったの?」


エミリアの後からハンナが入ってきた。

トイレにでも行っていたのだろう。


「ちょっと疲れたかも。」


「ずっと戦っていますからね………」


エミリア自身は力を使い果たさないように一撃で仕留めていたが流石に連戦に次ぐ連戦は体力を確実に減らしていた。

机の上に用意されていた水を飲もうと手を伸ばす。




「ダメッ!!」


手が触れる直前に物凄い力で掴まれた。

それを止めたのはハンナだった。狩りの時にしかしないような真剣な表情だ。



「なっ、なに?」


流石のエミリアも目を丸くさせた。


ハンナはコップを取り上げると鼻に近づけた。



「ブルーハーピィの昏睡毒が入ってる。」




女性の頭を持つ半人半鳥の魔物であるハーピィには稀少な雄個体が存在するらしい。

その名の通り全身青い羽で覆われ通常のハーピィより小柄、外には滅多に出ないので一般には知られていない。普段見かけるハーピィは全て雌個体である。

その雄個体の足爪に含まれる微弱な昏睡毒が体内に入ると時間差で意識を失ってしまう代物だ。



あまり知られていない稀少な魔物の、しかも馴染みの無い昏睡毒とやらを危うく飲むところだった。



「敵はあいつらだけじゃないってことか。」



エミリアから溢れる殺気。

その場にいる全員が思わず息をのんだ。そして憐れんだ。





次の相手は八つ当たりの対象になったらしく、チェーンソー形態のグリムリーパーで文字通り八つ裂きにされた。











「いつ見ても凄まじいですね………。」


アズマの巫女、鬼島桃江はギルドマスターのフローラに頼まれ密かにエミリアの動向を探っていた。


彼女達が捕まった時は本当に焦った。

なぜ闘技場で戦う事になったのかは分からないが勝ち進むことで解放されるのだろう。


万が一に備えて準備はしてある。



彼女は一人ではなかった。



忠実な三人のお供が闘技場の何処かで身を潜めていた。

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