死神少女は罠にかかる
【ベルセイン帝国 小さな村リネ】
エミリアを慕う冒険者は多いが妬む者も当然存在する。
彼等は少数だが年下の、しかも未成年の少女に先を越される事が気に入らなかった。
思い知らせようとしたが問題があった。
一人でも強いエミリアの周りには怪物クラスの仲間が集まっていた。
おまけに彼女は能力の関係で自分への敵意に敏感だ。
自分に危害が加えられた瞬間、一直線に向かっていき排除する。
その上で仲間がその場に居たら更なる追撃が待っている。
どうしようもなかった。
そんな彼等にエミリアナは目をつけた。
「闘技場を使いたい?」
ギルドマスターのフローラにエミリアナは闘技場の使用申請を出した。
闘技場といえばブランウェル王国王都の地下闘技場が有名だが、このギルドの地下にも設営されていた。
とは言え血生臭い事には使われず、訓練にばかり使われていた。
万が一の事故の為に回復、蘇生用魔方陣も設置されているが使用された事は無い。
訓練目的であればフローラでなく係の者へ言えば良いが今回は邪魔を入れたくなかった為時間制で貸し切りにして貰う必要があった。
「まぁ使う分には構わない。訓練用のゴーレムは説明書をよく読んで操作するように。」
簡単な説明をしてフローラは貸し切り申請を許可した。
「あぁそれと私は帝都に向かうことになった。しばらく開けるから問題は起こさないようにね。」
帝都へのフローラの呼び出しもエミリアナの仕掛けだ。
後はエミリアを連れてくるだけだ。
エミリアはレイラを連れて村を回っていた。
今晩作る料理に足りない食材を買いに来ていた。
手製の買い物かごをレイラが持ち、エミリアが買い物メモを頼りに目当ての場所へ向かう。
そしてギルドを通過しようとした時に数人の冒険者が立ち塞がる。
「………何?」
レイラを庇うように前に出る。
すると冒険者の中にいたエミリアに似た女性が。
「エミリア、あんたに決闘を挑むわ!!」
冒険者をやっていると他のパーティーとトラブルが起きる事がある。
激しい口論の末に武器を取り出し騒動に発展することもあった。
これを防ぐために冒険者ギルドは冒険者同士のトラブルは決闘によって解決するよう呼びかけた。
と言ってもこれは最終手段だ。
決闘には本来ギルドマスターの許可がいるが現在フローラは不在だ。
受付嬢のティナもついて行ってしまい、ギルドにいるのはエミリアナの息のかかったスタッフのみだ。
これによりエミリアナの決闘は自動的に承認される。
いきなりの決闘宣言にも全く表情を動かさないエミリア。
しかし周りは決闘という言葉にざわざわし始めた。
これだけの村人の前に決闘を避けるのは流石のエミリアにも出来なかった。
「面倒くさい……。」
そう言うとエミリアは近くの村人にレイラを保護して貰うことにした。
「この子をお願い。」
「任せてくれ。あんなのに負けないでくれよ!」
村人はエミリアが勝つと信じ切っていた。
「お姉ちゃん………」
レイラが心配そうに見つめる。
「大丈夫、私はまぁまぁ強いから。」
そう言ってエミリアはギルドの中へ消えていった。
王都の闘技場に比べると幾らか小さいものの、それでも闘技場と呼べる広さはあった。
貸し切り状態の闘技場に観客は居なかった。
そしてエミリアと対峙するのはエミリアナだけではなかった。
エミリアを妬む数人の冒険者にエミリアナが雇った荒くれ者。更に家から着いてきた護衛。
実に20以上の人数差があった。
そんな軍団を前にエミリアは一切表情を崩さない。
左手でナイフを器用に回し、右手は禍々しい気を纏う剣を逆手持ち。
いつもの戦闘スタイルだ。
「一人じゃないんだ。」
「誰も私だけがやるとは言ってないもの。」
確かにエミリアナが戦うとは言ってない。
だが決闘は本来、同じ人数同士でやるもの。
こんな時のためにフローラ達を追い出していた。
いくら巷で死神と恐れられようとこれだけの人数に敵うわけ無い。
開始は突然だった。
エミリアに向けて無数の矢が飛んできた。
大鎌に変形したグリムリーパーを片手で回し自分に当たる矢だけを弾いていく。
冒険者達がエミリアに襲いかかり、近い奴から首を切り落としていく。
無駄無く、効率的に死体が増えていく。
人数差のある戦いは慣れている。
動きは最小限、かつ確実に急所を斬りつける。
不意に感じる殺気。
「は?」
攻撃を仕掛けた冒険者は最初に首を飛ばした奴だった。
それどころか周りを見ると死体になった筈の冒険者が立ち上がり武器を向けていた。
(主、蘇生魔方陣と回復魔方陣が展開してる。)
頭の中でルールーが語りかける。
(殺してもいくらでも沸いてくる………虫かな。どうしよう?)
(あの人数を回復させる魔方陣だから近くにあるはず。)
(面倒くさいなぁ。)
刃を捌いている間に気配を探る。
魔方陣の場所は知らない。
おおよその場所は見当がついていた。
闘技場に入る時に離れた場所で数人の気配を感じ取っていた。
そこまで行くにはまず無限に沸く野郎を何とかしなければならないのだが。
大鎌状のグリムリーパーを構える赤い瞳のエミリアは冒険者達を睨む。
「…………来い。」
簡単なこと。
向こうが折れるまで殺し続けることにした。




