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死神少女はどこへ行く  作者: ハスク
拾弐 ―嫉妬の果てに―
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死神少女は貴族に感謝される

【ベルセイン帝国 小さな村リネ】

聖女クリスティアナの朝は早い。


と言っても一番ではなく大体三番目くらいだ。

狩人のハンナは日が上る前から日課の村外周ランニング、ナタリーは魔法のプチ演習で日々高みを目指していた。


クリスティアナは二階ベランダの日差しを浴びられる場所に跪くと両手を会わせ祈り始める。


毎日欠かさず祈る事で聖女の力を引き続き使わせて貰えるのだ。

望まずして聖女となったクリスティアナだが使わせてもらえるのならと有効活用させてもらっている。

祈っている時は時たま女神と思われる声が聴こえてくる事もある。なので祈りの最中は誰も近づかない、話しかけないが常識である。

祈りが終わると彼女に力のような物が入ってくるのが分かるらしい。


祈りは大抵数分で終わる。


だが今日は数分で終わらない数少ない日だったようだ。




「聖女クリスティアナ。」


「女神様……。」


この世の物とは思えない絶世の美女が佇んでいた。

同性ですら魅了する彼女こそが創造神『ブランディア』その人だった。


「何の用ですか?」


しかし今代の聖女はあまり歓迎してないようだ。


「えぇ~?久しぶりなんだから冷たくしないでよぉ~。」


しかし女神は寛大だった。

クリスティアナに近寄ると抱き締めて頬擦りまで始めた。

鬱陶しそうにブランディアを引き剥がそうとするが力は弱めだ。


クリスティアナ分を補給したブランディアは漸く解放した。



聖女が女神の声を聞く、とあったが実際にその場で女神が降臨して直接神託と言う名の話し相手になるのだ。


「で、わざわざ降臨したと言うことは何かありましたか?」


「ん~?クリスティアナちゃんの顔を見に来ただけよ?」


頭に手を当て盛大な溜め息をつくクリスティアナ。

そんなことの為に降臨するとはフットワークが軽すぎではないだろうか。


「まぁ平和なのが一番じゃない?私がこうして気楽に降りて来られる位には。」


「そんなに頻繁に降りて来られたら神官が心労で倒れますよ?」


リネの教会にいる神官は信心深い人物だ。

彼は今日も平和の為にブランディアに祈っている事だろう。



「そろそろ戻った方が良いのではないですか?」


「そうねぇ、あの子達も心配性だし………」


天上におわす女神ブランディアはこのように降臨する際は大抵側近であろう天使に黙って来る。

帰ったら小言が待っているだろう。


「ところでクリスティアナ。」


「はい。」




「女の子同士でも愛があれば問題無いからね?」


「うっ、うるさいです!」


顔を真っ赤にしたクリスティアナを置いてブランディアは天へ昇っていった。


騒々しい朝だった。











【ベルセイン帝国 クラムト山】

帝国で有名な山は三つある。

一つはエミリアの故郷リネに隣接する【ティア活火山】。活火山だが夏の間のみ噴煙を上げる程度。活動中は生態系も大きく変わる為研究の対象となっている。


二つ目は異界の勇者が修行をしたとされる【メギド山】。

邪神討伐の為に一ヶ月に渡る過酷なサバイバルを過ごし強靭な肉体と精神を手に入れた険しい山だ。


三つ目は『魔物の巣窟』と呼ばれる【クラムト山】。

世界一高い山には推定数百もの魔物が生息している。

今回エミリア達はクラムト山から降りてきたワイバーンの討伐だ。


飛行能力の高いワイバーンはエミリアの様な近接戦闘職の天敵だ。

空を飛びながら火球ブレスで一方的に攻撃されて終わりだ。







「グォォォ!!」


それは一方的な蹂躙であった。

フレイムドラゴンがワイバーンに噛みつくとそのまま振り回し地上へ叩きつけ火炎ブレスを放つ。

起き上がる前に急所へ毒矢数本、更に氷の刃が翼状の前足を縫い付ける。


最後の抵抗を試みようとブレスを試みるが黒い鎧を纏ったゴーレム、ラバダに一撃もらい不発に終わると。


とどめにエミリアがワイバーンの頭部へグリムリーパーを突き刺して魔物は絶命した。






「皆、お疲れ様。」


大物討伐を達成しリーダーらしく皆に労いの言葉をかけてみる。


「これもお姉様あっての戦果ですわ。」

「これくらい楽勝だよ。」

「ギャオッ!」


特に指示は出していないがバラバラの様で不思議と連携は取れていた。

エミリアの役に立ちたい。そんな謎の一体感で少女達は行動していた。


「役目を果たせてたのなら本望。」


クリスティアナのゴーレムであるラバダは主の意志に従いエミリアの手足となっていた。

感情は無いが彼の中ではいつの間にかエミリアはクリスティアナと同格の存在となり護るべき対象となっていた。




そんな彼女らは豪勢な屋敷に招かれていた。

この辺りの領主であるフーゲンベルグ公爵が領内で暴れていたワイバーン討伐の感謝の気持ちだとか。


「あの暴れん坊を倒してくれて助かったよ。並の冒険者じゃ歯が立たなかったものでなぁ。」


フォーマルなスーツを着た男性は領主らしい。

あまり強くはなさそうだがなんとなく威厳みたいな物は感じた。





領主の願いで随分豪華な屋敷に泊まっていくこととなった。

最初は辞退しようとしたがエミリアの腹が盛大な音を鳴らしたので夕食序でに部屋を用意されたのである。


用意された客室は例によってベッド四つ。

さすがに貴族の家なのでナタリー得意の模様替えはせずベッド争奪戦が行われた。







消灯時間前、エミリアは公爵から貰った小さなコインを眺めていた。


明らかに帝国で使われる貨幣では無い特別製だ。

片側には何かの模様が刻まれてある。


「フーゲンベルグ家の家紋ですわね。」


隣で眺めていたナタリーが教えてくれた。


「大方、『何かあったら頼りなさい』と言いたいんじゃありませんの?」


「どういうこと?」


「恩を売りたいんですのよ、きっと。また領地の危機には真っ先に来て欲しいんですわ。」


「うーん………そんなことしなくてもクロワッサンくれれば助けるんだけど。」


エミリアはここの料理人が作ったクロワッサンを気に入ったらしい。

お金よりもご飯の方がよっぽど価値があるようだ。




「ねぇ、デカブツは?」


一応仲間であるラバダの姿が見えなかった。


「ラバダなら部屋のすぐ外にいますよ。」


違うベッドのクリスティアナが答えた。







部屋の外では黒い鎧が佇んでいた。


「あの………お連れの方………ですよね?」


「………。」


勝手に番人のようなことをしていたラバダに使用人達は終始困惑していた。

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